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46. 働き者ゴーレム

「はぁ、まぁ、お主のうなる金注ぎ込めば、できんことはなかろうが……、人はこんな魔王軍の近くには来たがらんじゃろ?」


「だからまず魔王軍を殲滅せんめつするんだよ」


「殲滅ぅ!? マジか!?」


 ネヴィアは青緑色の目を真ん丸にして驚いた。


「マジもマジ、大マジよ。アニメでも魔王は滅ぼされる運命だろ?」


「アニメと現実を一緒にすんな! ふぅ。まずはお手並み拝見じゃな」


 ネヴィアは肩をすくめた。


「そしたら、ちょっと、うちの倉庫に繋げて」


「え? 何するんじゃ?」


「何って、基地を作るって言ったじゃん」


 タケルは嬉しそうにパンパンとネヴィアの肩を叩く。


「今からか?」


「そうだよ。早く!」


「はぁ、人使いの荒いやつじゃ。ちゃんと金は払ってもらうからな」


 ネヴィアは渋い顔をしながらツーっと指先で空間を裂いた。



        ◇



 倉庫からガラガラとカートを引っ張ってきて草原に持ち出してきたタケルは、雑草を押し倒しながら石のプレートを並べていく。


「何をするんじゃ?」


 怪訝そうなネヴィア。


「まぁ見ててよ」


 タケルは六畳くらいの広さになったプレートの上に魔石を転がすと、ITスキルのウィンドウを開き、コードを起動する。


 直後、プレート上に黄色い巨大な魔法陣が展開して中の幾何学模様がクルクルと回った。


「おぉ、なんじゃ、これは見事な……」


 いきなり発動した大魔法にネヴィアは目を見張る。


「来いっ!」


 タケルの掛け声と共に魔法陣の中央部からゴーレムの頭がせり上がってきた。


「ほはぁ、コイツに開発をやらせるって訳じゃな」


「人手じゃ無理だからね」


 出てきたゴーレムは身長三メートルくらいの大きさで、黄土色のゴツゴツした岩でできており、キラキラと赤く光る小さな丸い眼がかわいらしく見える。


「君のお仕事はコイツだ」


 タケルはそう言いながらデカい金属のパイプを取り出してゴーレムに持たせた。


「ここから半径一キロの雑草をこれで焼き払ってくれ」


 ガウッ!


 ゴーレムは嬉しそうにそう言うと、パイプを両手でガッシリと持つと雑草に向けた。


 直後、ヴゥンという音がして、ゴオオォォォーー! っという噴射音と共に鮮烈な炎がパイプから激しく吹き出した。それは火魔法を応用した火炎放射器で、雑草などたちまち燃やし尽くされ灰となって宙を舞っていく。


「ウヒィ! あちちちち!」


 ネヴィアは火炎放射器から発される熱線におののいてタケルの後ろに隠れた。


「よーし、良いぞ! では二機目を……」


 タケルは魔石をまたプレートの上に置いてゴーレムを呼び出した。


「マジか!? 何機呼ぶつもりじゃ!?」


「え? 二十機くらい? 足りない?」


「二十機!? はぁ、お主は規格外じゃな……」


 ネヴィアは首を振り、大きくため息をついた。



        ◇



 領館で二時間ほどコーヒーを飲みながら待っていると、タケルのフォンゲートに着信があった。


「ガウッガウッ!」


 ゴーレムが何か言っている。意味は分からないが終わったということだろう。


「ハイハイ、ご苦労様。それじゃ、ネヴィアちゃん、転移よろしく!」


「お主なぁ、我はタクシーじゃ無いんじゃぞ?」


 ネヴィアは面倒くさそうにそう言うと、向こうを向いてコーヒーをすする。


「つれないこと言わずにお願いしますよぉ」


 タケルは華奢で白い肌のネヴィアの肩を揉んだ。


「お、良い気持ちじゃ……。もっと下……、おぉぉぉ、お主上手いな」


 ネヴィアは恍惚とした表情で幸せそうに息をつく。


「ネヴィア先生、お礼を弾むから基地作り付き合ってくださいよぉ」


 ネヴィアはチラッと片目を開けてタケルを見た。本来、規則では人間に力を貸してはならないのであるが、奇想天外なタケルの切り開く未来がどうなるかは、ネヴィアの好奇心をいたく刺激していた。


 とはいえ、頼られすぎるのもしゃくなので素っ気なく返す。


「まぁできる範囲でしかやらんぞ?」


「それで結構です、先生!」


 タケルはしめしめといった表情で、ネヴィアをヨイショする。


 結局その日はゴーレムのパワーを活用して、建設予定地の造成まで一気に進めた。


 朝までただの草原だった未開の地に現れる造成された広い土地。タケルは嬉しくなって両手を上げて叫んだ。


「ここにバーン! と本社ビルが建つんだ!」


「ほう、魔物に倒されんとええがな……」


 ネヴィアは首を振り、そっけない返事をした。


「うん、まぁ、魔物は……来るかもなぁ……」


 タケルもちょっとそれは気がかりだった。何しろここは魔王軍の実効支配地域との境界なのだ。


 タケルは帰る前に、二十機のゴーレムに火炎放射器を装備させ、警備を任せたのだった。





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