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44. ゴレム君一号

「こ、この野郎! 男らしく正々堂々勝負しやがれ!」


 金貨であっという間に形勢を逆転させたタケルにアントニオの怒りは爆発する。


「はっはっは。そう言われても武力では勝ち目はありませんからね。とは言え、お相手しないのも納得しないでしょう。ゴレム君一号カモーン!」


 広場に魔石がコロコロッと転がって、その周りに黄色い大きな魔法陣が広がった。


「な、なんだ……、これは……」


 魔法陣の中の幾何学模様がクルクル回り、ルーン文字が躍った。直後、魔法陣がまぶしい閃光を放つと、中心部から何かが召喚されてきた。


「こちら、現在研究中のゴーレムです。お手合わせをお願いします」


 岩で作られた身長二メートルくらいのゴーレムは胸を張り、グォォォォ! と雄たけびを上げる。


「はっ! この程度で俺を止められると思ったか!」


 アントニオは剣を握り締めて筋肉をパンプアップさせるとウォォォォ! と吠えた。直後、王剣は真紅に輝き、まるで炎のような魔力がブワッと立ち上る。


「死ねぃ!」


 アントニオは俊足でゴーレムに迫ると剣を一気に振り下ろした。


 ズガーン! という重機が放つような重低音が響き渡り、ゴーレムは粉々に砕け散った。


「おぉ! これは凄い。もはや人間技ではないですね」


 パチパチパチとタケルは拍手をする。


「どうだ? 俺一人でもお前らを破滅させてやる!」


 アントニオは肩で息をしながら、剣で大画面内のタケルを指した。


「休む暇はないですよ、それではゴレム君二号カモーン!」


 さっきより一回り大きな魔石が広場にコロリと転がり、ヴゥンと魔法陣が展開される。


「な、なんだと……。貴様、まだやるのか?」


 召喚されて出てきたのは一回り大きなゴーレム、身長は二メートル半はあるだろうか。


「少し大きくなったからと言って結果は変わらん!」


 アントニオは再度剣を輝かせてゴーレムに突進する。しかし、今度は一撃とはいかなかった。ゴーレムは長い腕をブンと振り回し、剣をはじく。


「くっ、小癪こしゃくな!」


 二の太刀で何とかゴーレムを粉砕したアントニオだったが、振り向くと身長三メートルはあろうかというゴーレムが待ち構えていた。


「おい……、これは何だ?」


 アントニオは険しい目をしてタケルをにらむ。


「ゴレム君三号ですよ? ちなみに今日は一万号までご用意しておりますので、存分に戦ってくださいね。なるべくデータを取りたいので本気でお願いします」


 タケルはノートを取り出すと、何かをメモり始めた。


「き、貴様ァ!」


 アントニオは怒ったが、突っ込んでくるゴーレムをかわすのに必死にならざるを得なかった。


 ブンブンと振り回すゴーレムの攻撃は単調ではあったが、パワーは魔物の中でも最強レベル、当たったら一撃で肉も骨も砕けてしまう。アントニオは必死に攻撃をかいくぐって剣をあて、ゴーレムを打ち倒した。


 しかし、振り返ればさらに大きくなったゴーレムが数体、赤い目を輝かせながらアントニオを狙っていた。


「金貨に魔物……、何モンだ貴様はぁぁぁ!」


 アントニオは絶望のうちに首を振り、その場に崩れ落ちた。彼を燃え立たせていた野望が、タケルの奇想天外な策によって粉々に砕け散る。


 ここに、アントニオの夢は灰となって散ったのだった。



         ◇



 捕縛されたアントニオの頭部からはバーサーカーモードを誘発する魔道具が発見され、その魔道具の解析から魔王軍の関与が示唆された。


 そのため、国王は事故による死亡、アントニオは魔王軍に操られた罪で廃嫡、蟄居閉門ちっきょへいもん処分として、軟禁状態になる。


 そして、新国王にはジェラルドが就任。国を割る後継者争いはここにジェラルド陣営の大勝利で終わることとなった。


 今回の立役者だったタケルは伯爵に昇進し、自分の領地も持てるようになる。タケルは暗黒の森に接する領土【ダスクブリンク】を希望し、周りを慌てさせたが、誰かが魔王を倒さない限り人類はじり貧なのだ。特に今回、魔王軍の脅威を身近に感じたタケルとしては、そろそろ本格的に行動を起こす時期に来ていた。


 いよいよここに運命の魔王軍との戦いが始まる――――。



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