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38. 翼牛亭

「へっ!?」「キャァッ!」


 驚く二人の前で、その空間の亀裂からニョキニョキっとかわいらしい指が湧きだしてきた。そしてその指が亀裂をガバっと押し広げる。


「今、到着! きゃははは!」


 なんと出てきたのはネヴィア。ボタンを掛け違えたままのだらしない、もふもふパジャマ姿で、嬉しそうにシュタッと床に着地した。


「お、お前、そんなこと……できたの?」


「くははは、どう? 凄いじゃろ? でもこれは我のスキルだから解析しても無駄じゃがな!」


 ネヴィアはドヤ顔でタケルを見つめた。ただ、緩いパジャマの隙間から胸が見えそうで、タケルはほほを赤らめながら目をそらす。


「ちょ、ちょっとネヴィアちゃん! そんな恰好、ダメよ!」


 クレアはネヴィアの腕をガシッとつかむと隣の部屋へと引っ張った。


「えっ? な、何がダメなんじゃ?」


「ダメったらダメなの!」


 クレアはピシャリと言い放った。



        ◇



 しばらくしてクレアの服に着替えてきたネヴィアは、タケルの説明を聞いて嬉しそうに笑った。


「ほほう、お主、凄いものを見つけたのう! これは実に愉快じゃ。カッカッカ」 


「で、これの回収方法を相談したいんだけど……」


「まぁ、ゴーレムに掘らせればよかろう」


 ネヴィアはテーブルのバスケットからクッキーをつまむとポリポリと食べ始める。


「じゃあ、ゴーレムの召喚の方法、教えてくれる?」


「千枚じゃ」


 ネヴィアはニヤッと笑って手を出した。


「千枚……って?」


「察し悪いのう、金貨千枚で教えてやろうって言っておるんじゃ」


 タケルにとっては、この日本円にして一億円相当の金などもはやはした金ではあったが、このまま払うのも癪に障る。


「あぁそう! 金取るならいいよ、もう頼まない!」


 タケルは腕を組み、プイっとそっぽを向いた。


「えっ……、いいのか? 困るぞ?」


「友達から大金を取ろうという人はもう知りません!」


「あー、悪かった……。しかし、そのぉ……」


 ネヴィアは口をとがらせ、言いよどむ。


「百枚出す。それでいいだろ?」


 タケルはニヤッと笑ってネヴィアの瞳を見つめた。


「まぁ、ええじゃろ……」


 ネヴィアは渋い顔でタケルをジト目で見あげる。


「何言ってるんだ、金貨百枚もあったらしばらく遊んで暮らせるだろ?」


「千枚ならその十倍遊べるんじゃぁ!」


 ネヴィアは両手を突き上げて喚く。


「贅沢言わない! じゃあ、教えて」


「はいはい、後でちゃんと払うんじゃぞ!」


 ネヴィアは空間に指先でツーっと亀裂を作ると、中から大きなトパーズでできた黄色に輝くアミュレットを取り出した。その円形のトパーズの表面には精緻な魔法陣が描かれている。


「おぉぉぉ……、こ、これが……」


「ほれ、これを貸してやるから研究せい」


「おぉ! サンキュー! やったぁ!」


 タケルはアミュレットを受け取ると、目を輝かせながら魔法陣を見つめ、ITスキルで青いウインドウを開いた。


「感謝せえよ! くふふふ」


「感謝、感謝! 大感謝だよ! で、ついでにさ、ゴーレムを送り込むのと、採った魔石の輸送についても知恵貸してよ」


「え……、また面倒くさいことを……」


「いいじゃん! 乗り掛かった舟だしさ! 美味しいもの奢ってあげるからさ」


 腕を組んで渋るネヴィアの肩をタケルはポンポンと叩く。


「……。じゃあ翼牛亭よくぎゅうていで食い放題させてもらうぞ?」


 ネヴィアは街一番の高級焼き肉屋を指定した。


「良く知ってるなぁ、あそこが一番うまいんだよ。いいよ、行こうよ」


「うむ。それじゃ、まず、ゴーレム送るのは空間つなげて我が送ってやろう」


「お、やったぁ!」


「で、採掘した魔石じゃが……うむ、どうしたものか……。翼牛亭よくぎゅうてい行って一緒に頭をひねろう! カッカッカ!」


 ネヴィアはもう我慢ができない様子でタケルの背中をバンバンと叩いた。


「え? もう行くの?」


「飲まねば案など出んよ。くははは!」


 タケルは肩をすくめてジト目でネヴィアをにらみ、渋々翼牛亭よくぎゅうていに電話をかけた。



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