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34. 冒険への扉

 タケルの困る顔を見てクスッと笑うクレア。


「まぁ、そんなのは後でいいですよ。で、どうやって操縦するんですか?」


 タケルは苦笑いを浮かべると、操縦用に設定されたゲーミングチェアのところまでクレアを案内する。ゲーミングチェアには近未来的な湾曲大画面がセットされ、まるでSFの世界のようだった。


「操縦席はこちら。前方の視界はここに出る。コントローラーはこれね。これで上下左右、これで加速減速。そしてこのボタンでファイヤー!」


 クレアは矢継ぎ早に説明され、困惑してしまう。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 『ファイヤー』って何なんですか!?」


「ファイヤーボールを撃つのさ。魔物たちの森を飛ぶんだから攻撃手段も無いとね。照準はこの画面だよ」


 タケルは当たり前のように説明するが、クレアはドン引きである。


「操縦しながら魔物なんて狙えないですよ!」


「あー、ごめん、ごめん。今回は調査だからそんな撃つ機会なんてないから大丈夫だよ。やられたって段ボールだから痛くもかゆくもないしね」


 クレアは無言で口をとがらせ、軽く言うタケルをにらんだ。



      ◇



 操縦席に座らされたクレアはコントローラーをカチャカチャと動かしてみる。なぜ、商会の令嬢たる自分が飛行機の操縦をしなくてはならないのかに落ちなかったが、魔石不足を解消しなければ事業継続も危うい状況では仕方ないのだ。クレアは大きく息をつき、自分に言い聞かせる。


「それでは飛ばすよ! 発進用意!」


 タケルはオペレーター席に座ると、卓上の赤いボタンをガチリと押し込んだ。


 ウィィィィン……。


 かすかな機械音が鳴り響き、屋根のスリットが開いてまぶしい青空が広がる。


 は?


 クレアは屋根が開く社長室のクレイジーな仕様に思わず目が点になった。


 続いて射出用レールがウィィィィンと空へと伸びていく。


「ちょっと、タケルさん! 何なんですかこれは? こんなの必要なんですか?」


「え? だってカッコいいじゃん。金ならあるし。くふふふ」


 クレアはドン引きである。一体どこの世界にこんな飛行機射出装置つき社長室があるのだろうか?


「魔力充填ヨシ! 飛行魔法起動ヨシ! 向かい風、風力3、視界良好! 射出まで十、九、八……」


 タケルはノリノリでカウントダウンを始める。


「えっ!? もう出発!?」


「大丈夫、大丈夫、段ボールなんだから気軽に……、三、二、一、GO!」


 バシュッ!


 激しい衝撃音と共にドローンはあっという間に大空へとすっ飛んでいった。


「うわぁぁぁ! これ、どうするの!? あぁぁぁ!」


 いきなり大きく揺れ動く画面にクレアはパニックになる。


「大丈夫! はい、加速しながら上! 上!」


「う、上!? こ、こっちよね?」


「違う! 逆! 逆!」


 真っ逆さまに堕ちていくドローン。画面の街路樹がドンドン大きくなっていく。


 ひぃぃぃぃぃ!


「もっと上! もっと上!」


 処女飛行がいきなり墜落では士気にかかわる。タケルは青くなって叫んだ。


「これが上限よ!」


 クレアも泣きそうな顔で画面を食い入るように見つめる。


 くぅぅぅ……。


 徐々に機首が上がっていき、バシュッ! と街路樹の葉を飛び散らせながらギリギリのところで何とか危機を回避した。


 ふぅ……。 はぁぁぁ……。


 安堵の声が部屋に響き、クレアは額の汗をぬぐう。


 ドローンは順調に高度を回復していった。


「オッケー、オッケー! それじゃ進路を北北西に取って」


「北北西? どっち?」


 クレアは目を見開いて、画面に出ているいろいろな計器類をキョロキョロと追っていった。


「右だよ、コンパスが右上にあるだろ?」


「これね……、はいはい……」


 クレアは渋い顔をしながら旋回し、コンパスを北北西へと合わせていく。


「これ、タケルさんがやった方がいいんじゃないの?」


 クレアがジト目でタケルをにらむ。


「何言ってるんだよ、キミはテトリス世界王者じゃないか。反射神経は絶対クレアの方が上だからね?」


 眼下に広がる王都の街並み。向こうの方には壮麗な王宮が見えてきた。


「ふふっ、おだてたって駄目ですからね」


 そう言うクレアだったがまんざらじゃない様子で、上空から見る王都の景色をキラキラした瞳で眺める。初めて目にする空の旅は、予期せぬ冒険への扉を開いたかのように、彼女の中に新たな感動と期待を芽生えさせていた。



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