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33. 空飛ぶご褒美

「見てろ、魔王! 俺は金の力でお前を追い落とす! くははは!」


 タケルが両手を上げ、絶好調で笑っていると、コンコン、ガチャっとドアが開いた。


「魔王がどうかしたんですか? 外まで聞こえてましたよ」


 クレアが差し入れのクッキーを持ちながら、不思議そうな顔でタケルを見つめる。


「あ、いや。魔王は人類共通の敵じゃないか。ここまで上り詰めたらそろそろ魔王対策も視野に入れないとな……って……」


 タケルは真っ赤になって頭をかいた。


「そうですよねぇ……。魔石がいよいよ足りなくなってきてるの。流通業者はアントニオ陣営のところが多くて、卸値を随分高く釣り上げるのよ。備蓄を切り崩してるんだけど……。魔王の支配する暗黒の森からの採掘も真剣に考えないとですね」


「ふむぅ。それはヤバいなぁ。何と言ってもうちの事業は魔石頼みだからね。魔石をアントニオ側にコントロールされたら全部止まっちゃう」


「それはマズいです。困りましたねぇ……。あっ、コーヒーでいいですか?」


 デスクにクッキーを置いて、チラッとタケルの方を見るクレア。


「あ、いいよ。そのくらい自分でやるから」


「何言ってるんですか。社長で男爵なんだからドーンと構えていただかないと」


 クレアはそう言いながらバースペースへ行ってカップを取り出した。


「悪いねぇ……。それで……、クレアにお願いがあるんだ」


「え? 何ですか? 楽しいこと?」


 コーヒーの粉をセットしながら、クレアが好奇心を隠さずに笑う。


「あぁ、ある意味楽しいかな? 空を飛ぶからね」


「そ、空を飛ぶ……?」


 クレアはけげんそうな顔をして首をかしげた。


 もちろん高位の魔導士は飛べるらしいという話を聞いたことはあるが、飛行魔法はそう簡単に実現できるものではないというのが通説である。


「クレアが飛ぶわけじゃないさ。これが飛ぶんだ」


 タケルは段ボールの翼でできた大きな紙飛行機を取り出してきて、会議テーブルの上に載せた。


「へっ!? 何ですか……? これ?」


 クレアはコーヒーを持ってきながら眉をひそめ、その三角形をした段ボールを見つめる。二枚の段ボールを張り合わせて、手を広げたぐらいのサイズに作り上げた巨大紙飛行機には機首にフォンゲートが埋め込まれていた。


「これはドローン。フォンゲートを乗せて飛ぶ遠隔操縦調査機なんだ。飛行魔法の応用で数百キロメートルは飛んでいける」


 タケルはネヴィアのところで手に入れたソースコードをひたすら解析し続け、ついに飛行魔法の術式をITスキルで応用するのに成功していたのだ。


「ひ、飛行魔法!? ついに実現したんですか!?」


「ふふん、どうだい? 凄いだろう! ぬはははは……」


 タケルは絶好調で両手を大きく開いて高笑いをする。


「す、凄いです。でも、こんな段ボールが……飛ぶんですか?」


「おいおい、段ボールを馬鹿にしちゃいけないぞ。安くて軽くて丈夫、それに紙だから探索魔法でも探知されにくいんだ」


 翼を手の甲でコンコン! と叩くタケル。


「ふぅん……。で、こんなの飛ばしてどうするんです?」


 クレアはタケルの真意をはかりかね、眉をよせて首をかしげる。


「魔石のね、新たな鉱山を探そうと思っているんだ」


「鉱山……? ネヴィアさんのところみたいな?」


「そうだね。それをコイツで探すのさ」


「空を飛びながら魔力反応を探っていく……ってことかしら?」


「そうそう。暗黒の森なんかに歩いて入っていけないだろ? だからコイツで空から探るんだよ」


「ふぅん、なんか面白そう! 鉱山見つかればアントニオ陣営にも勝てますよ!」


 クレアは手を合わせ、碧い目をキラリと輝かせた。


「で、その操縦をクレアにお願いしたいんだ」


「えっ!? 私……? 私、こんなの操縦したことなんてないわよ?」


 クレアは青い顔して後ずさる。


「ははは、誰も操縦したことなんてないよ。でも、極秘調査だからね。頼めるのはクレアしかいないんだ」


 タケルは手を合わせて頼み込み、クレアはそんなタケルをじっと見つめ、最後に大きく息をついて笑った。


「ふふふっ、またタケルさんとの秘密が増えましたねっ!」


「そう、クレアには本当に頭が上がらないよ」


「いいわよ? でも……、そろそろご褒美が……あると……いいかなぁ……」


 クレアは手を後ろで組んで口をとがらせ、可愛いジト目でタケルを見る。


「ご、ご褒美? な、何がいいんだ?」


「それはタケルさんが考えるの! 楽しみにしてるわっ!」


 タケルの顔をのぞきこみ、ニヤッと笑うクレア。


「わ、分かったよ……。何がいいかなぁ……」


 タケルは首をひねり、渋い顔でコーヒーをすする。前世の時から女の子にちゃんとしたプレゼントなんてあげたことが無いタケルには、それは難問だった。クレアもお金には困っていないのだから、高価であればいいというものでもないだろう。


 ニコニコしているクレアの顔を見つめているうちに、タケルは彼女の笑顔の輝きに心ひかれた。青く輝くサファイヤのアクセサリーが、彼女の美しさを一層引き立てるかもしれない……。ふとそんなアイディアが浮かんだが、いきなりアクセサリーのプレゼントなど踏み込みすぎではないだろうか? タケルはブンブンと激しく首を振った。



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