足場の悪い山道を、草をかき分け山道を進む一行。やがて木々の向こうに石柱群が見えてくる。
「おぉ、着きましたよーー!」
肩で息をしながらタケルは額の汗をぬぐった。
「お目当てのものが見つかるといいわね」
ソリスは疲れた様子もなく涼しい顔でニコッと笑う。
「きっと何かはありますよ!」
タケルはグッとこぶしを握った。ここまで来て手ぶらでは帰れない。
「男爵、我々は出入り口で警護しています。くれぐれも無理はなさらないでください」
SPは敬礼をした。彼らの仕事は悪意のある人間からの警護であり、遺跡内は管轄外なのだ。
「もちろん! こんなところまで悪かったね。後で特別手当をはずむから許して」
「おぉ、いつもすみません。楽しみにしています!」
SPは満面に笑みを浮かべてビシッと再度敬礼をした。彼らの身分は公務員なので、報酬は高くない。タケルは慰労の気持ちを込め、いつもチップをはずむようにしていたのだ。
◇
「おぉ、これは凄い!」
タケルは立派な巨石のステージによじ登ると、その壮大な遺構に驚いた。アンコールワットのようにすでに巨木があちこちで遺跡を破壊していたが、それでも往年の豪奢な巨大構造物の原型はまだとどめていた。
太く高い石柱列の上には屋根が一部残っており、そこには見事な幻獣の浮彫が施されていて、その文化、文明の高さがうかがえる。記録によると数千年前に棄てられた神殿とのことだったが、誰が何のためにこんなものを作って棄てたのかは、いまだに分かっていないらしい。
しかし、随所に魔法のランプらしきものの形跡があるので、魔法はかなりつかわれていたようだ。魔道具のかけらでも残っていればITスキルで吸い出して解析できるかもしれないと、タケルは期待に胸を膨らませる。
「男爵ーー! 入り口はこちらですわ」
ソリスはニコッと笑って下に降りる階段を指さした。
階段は崩落した石材で埋まっていたが、隙間を行けば潜れそうである。
「さて、じゃあ、行きますか!」
タケルは手袋をキュッとはめてニヤッと笑った。
◇
階段をしばらく降りていくとやがて大広間に出た。広間の周りには小さな部屋がいくつかあったが、全て盗掘され尽くしたらしく、めぼしいものは何も残っていない。
「ありゃぁ、すっからかんだ……」
魔法のランプで照らしながらあちこちを見て回ったものの、魔道具など一つも残っていなかった。
「だから何もないってお伝えしたんですよ」
岩の上に座って、タケルが必死に探し回るのを見守っていたソリスは、携帯ポットの紅茶をすすりながら軽く首を振った。
「タケルさん! ここ、何か書いてあるわよ」
クレアは広間奥のステージに登り、演説台のような埃まみれの石造りの台をなでながら言った。
「えっ!? どれどれ……?」
タケルも急いでステージに登り、石の台を魔法のランプで照らす。確かにそこには
「うーん、なんて書いてあるのかなぁ……」
クレアが首をかしげていると、ソリスがやってきて横から覗く。
「この文字は……、他の遺跡でも見た事あるわね……。でも、意味は分からないわ」
「どれどれ……」
タケルは早速ITスキルを起動してみる。
ヴゥン……。
タケルにだけ見える青いウインドウが開き、真ん中で丸い円模様がグルグルと回った。
「おっ! 行けるかも……」
「えっ!? 読めるんですか?」
ソリスは驚く。こんな遺跡の失われた文明の文字を読めるなどただものではないのだ。タケルのことをただの成金だと思っていたソリスは、その意外なスキルに感心して、タケルをじっと見つめた。
タケルのウインドウにソースコードがドバーッと流れ出した。その莫大な量のコードにタケルは面食らう。
「うはっ! な、なんだこれは!?」
「な、なんて書いてあるの?」
クレアは好奇心満々でタケルの顔をのぞきこむ。
「これはねぇ……。中々に複雑な代物だよ。とりあえず起動してみるか……」
タケルは石の台の下の方に設けられたくぼみに魔石を置いて、ウィンドウのステータス状態をいじって起動した。
来いっ!
直後、石の台全体がブワッと青い光に包まれ、くさび文字が赤くキラキラと点滅した。
「うわぁ……」「おぉぉ……」
ソリスとクレアの目は驚きで大きく見開かれる。数千年の時を超え、忘れ去られていた古代文明の壮麗な光が再びこの世に蘇ったのだ。この驚異は、間違いなく歴史にその名を刻む大発見だった。