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8. テトリスの女神

 決勝トーナメントでは高さ五メートルはある巨大プレートにテトリス画面を表示させ、それを二枚、ステージ上に並べた。プレイヤーは手元のコントローラーのボタンを叩いて操作する。


 対戦テトリスには相手を邪魔できる機能が追加されており、二列以上同時に消すと相手側に、消せないお邪魔ブロックがランダムで降ってくるようになっている。つまり、二列以上をより早く消し続けた方が勝つのだ。


 まずは、一般の部のトーナメントが行われ、白熱した対戦に会場は大いに沸いた。どんなに上手いプレイヤーでもお邪魔ブロックには手こずり、リズムを狂わされ、あっさりとヘマをして自滅していったりするのだ。


 その、真剣勝負の中に現れる勝敗を分ける妙に会場は興奮し、声援が響きわたった。


 そして、迎えた一般の部決勝戦、ひときわ高い声援がスタジアムを包み込む。歓声がうねりのように地響きを起こし、熱気が渦巻いた。


 王子対応に奔走していたタケルと会長は、地響きが気になって、様子を見に来て呆然とする。


「か、会長! クレアさんが残ってますよ!」


「へっ!? あ、あの子はなぜそんなに強いんじゃ?」


 クレアが勝ち残っていたことに二人は目を丸くし、クレアの激闘にくぎ付けになった。


 クレアはノータイムで次から次へとブロックを回し、落としていく。そこには一切の迷いもなく、まるで機械のようにタタタターン! タターン! とボタンを軽快に叩いていった。


 もちろん、対戦相手もかなりのものだったが、お邪魔ブロックの扱いに若干の戸惑いが見られ、そのわずかな差が新たなお邪魔ブロックを呼んでしまい、さらに差が開いてしまう。


 そして、ついに対戦相手は手詰まりとなり、パーン! と両手でコントローラーを叩き、うなだれた。


「けっちゃーく!! 勝者、クレアちゃーん!」


 司会が叫ぶと、うぉぉぉぉぉ! という割れんばかりの歓声がスタジアムを埋め尽くした。


 クレアは晴れやかな顔で両腕を青空に高く突き上げる。揺れる金髪が陽の光にキラキラと輝き、観客は皆この美しきテトリスの女神の誕生にくぎ付けとなった。


「やったぁぁぁ! あっ、タケルさーん! クレアは勝ちましたよ!」


 ステージの袖で唖然としているタケルに元気に手を振るクレア。タケルはその勢いに気おされながらサムアップで返した。



         ◇



 この勢いのまま王子と対戦させたらクレアが圧勝してしまう。タケルは青くなってうつむき、大きくため息をついた。


「タ、タケルくん……」


 会長も冷汗を浮かべながらグッとタケルの腕を握る。


 この勢いをうまく殺しながら、バレずに八百長をして王子に勝たせる、そんなデリケートな操作がクレアにできるとは到底思えない。


「僕が……、王子に進言してきます」


 タケルは覚悟を決めた目で貴賓室へと足を進めた。



        ◇



 ノックをし、王子への面会が許されたタケルは面前でひざまずいた。


「高貴なるジェラルド王子殿下、輝かしき御前にひざまずくことを光栄に存じます」


「お主がテトリスの開発者だな? 面を上げよ」


 王子はひじ掛けに身体を預けながら、澄み通る真紅の瞳を好奇心でキラリと光らせた。


「はい、タケルと申します。いよいよ決勝戦となりましたが、ハンディキャップの設定を行うことになりましたのでご報告に参りました」


「ハンディ……キャップ……?」


「はい、対戦が拮抗するようにテトリスプレイ歴の長い方に若干のブロック出現確率の修正が入ります」


「む? どういうことか?」


 王子の眉がピクッと動き、不機嫌そうに疑問を放つ。


「た、対戦者のクレア嬢はテトリス発売開始前からテストプレーヤーとしてプレイしていました。それは明らかに不公平なため、若干調整させていただ……」


 タケルの説明を聞きながら眉をひそめた王子は、腕をすっと上げ、指先をタケルに向けた。手首の翡翠のブレスレットが鮮やかな緑の閃光を放った直後、ズン! という衝撃音と共に激しい空気砲がタケルを襲った。


 ぐはぁ!


 タケルは吹っ飛んでもんどりうって転がる。


「その方! ハンディキャップが無ければ我が負けると申したな!」


 王子の怒気がブワッと室内に響き渡った。その怒りを孕んだオーラの圧力が部屋にいる者たちを威圧し、護衛の者たちは苦しそうにキュッと口を結ぶ。


 タケルは王族の持つ覇者のオーラに当てられながらも、何とかハンディキャップを理解してもらわねばとグッと奥歯に力を込め、居住まいをただした。


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