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第11話 僕の名は・・・

「僕の名前は……」


そこで言葉を止める。何かを思案するように視線を斜め上に上げる。赤い瞳をレオに戻した。


「えっとロラン。ロランって言うんだ」

「ロラン、さん?」

「呼び捨てで、いいよ」

「ロラン……いい名前ですね」

「はは。ありがとう」


 レオはまだ魔法が使えて、魔物を使役することができるどこかの貴族だと思っていた。


 レオが聞いていた魔王の容姿は三メートルほどの巨大な身体で、黒々とした肌、それに赤い宝石のような目、すべてを切り裂く強靭な鉤爪を持っていると言われていた。


 目の前にいる中世的な少年が魔王だと誰も見抜けることはできないだろう。身体からあふれ出る闇のオーラを感じ取れるフェレン聖騎士の上級職位なら、どれほどヤバいことかすぐわかるが、レオにはその能力はなかった。


「―――主様」


 どこからともなく、リベルの声がした。ロランが視線を横に向けると真横からいつの間にか、リベルが現れて、恭しく頭を下げていた。


「……我が主様、ご報告がございます」


 リベルには魔王ロランの居城である『シュトルベルグ城』の周辺調査に向かわせていた。150年もの間、引きこもっていたため、自国の領地の状況確認を任せていたのである。


 近づくようにと人差し指で合図を出す。するとリベルは歩み寄り、レオを一瞥した後、聞かれてはまずいと思ったのか、ロランの耳元に口を近づて、手で壁を作る。


「……わかったことがいくつかございます」


それにロランは目を細め、言葉を待つ。


「まず、我が主様が統治されておりましたバルザード領ですが……領内に人間共の村落や砦が複数、点在している模様です」

「やっぱり?」


 今、歩いているこの森は“魔物の森”と呼ばれており、魔物たちの棲家だった。たくさんの種族が存在して、また生活していたため、人間が踏み入れられるような場所ではなかった。しかし、森に入った時から魔物の数が圧倒的に少ないことに気づいていた。


昔は歩くたびに野生の魔物に出くわしていたのに今ではまるで死んだ森だ。それが何を意味しているのか、なんとなくロランは察していた。


「まさか、僕の森に人間が住んでいたとは。どれくらいいるんだい?」


居たとしても数百人程度だろうと予測する。


「詳細はわかりませんが、ざっと数えて、数万規模かと」

「数万?!」

「あろうことか開拓まで……」

「開拓?!」


驚いて声が出てしまった。自分の庭でもある森を勝手に切り拓いたというのだ。許可もなしに。


「ぐぬぬ……おのれ人間ども……僕が引きこもっていることをいいことに……」


 右手を拳にして震えさせた。


「いかがいたしますか?」

「リベル、親衛隊を率いて、その人間の正確な数、脅威となりうる勢力の確認、それとあいつらだ。あのフェレン聖騎士団の活動状況、あ、あと、味方になる魔物、魔族の数も確認してほしい」

「かしこまりました。我が主様」 

「頼むよ」


 それにリベルは無言のままお辞儀すると影の中に溶け込んでいく。


 再び、二人きりになった。


 歩き続けてから、どれくらい経ったのか覚えていないが、永遠に続くかと思えた森の木が少なくなっていき、拓けた場所に出た。


 大きな山、断崖絶壁の急斜面。そして、人工物が目に入る。


 巨大な石柱が居並び、舗装された石畳み。そして、巨大な石の扉。扉の表面にはロランに似た少年が剣を地面に突き立てる格好をした彫刻が彫られている。


 レオは一つ疑問に感じたのは彫られている少年の頭に捻じれた二本の角があることだ。それも豪華にもマントをまとっていた。それが誰を模して彫られたのか、すぐにわかった。そして、自分の目の前にいるのが誰なのかもなんとなくわかった気がした。わかってしまったが、それを問おうとは思わなかった。聞いた途端に殺されるかもしれないと思ったからだ。


 口をへの字にして、何も気づいていないように装う。全身に冷や汗が噴き出て、背中に汗がしたたり落ちていくのがわかった。


 大きな石の扉の前に黒色の鎧を身にまとった兵士が門を守っていた。見た目は緑色の肌、下顎からは二本の牙が生えている。どう見ても人間ではなかった。魔物のオークだとすぐにわかる。ロランの姿を捉えたオークの兵士らは歩み寄ってきて、敬意を示したように彼に敬礼する。


「お帰りなさいませ我が王よ」


 それにロランは返礼する。


「今日もご苦労だね」

「やや、労いのお言葉をいただけるとは、ありがき幸せにございます」


 嬉しそうな顔をでまた頭を下げ、石門へ振り返ると合図を出した。


「門を開けよ! 我が『王』のご帰還である!」


 巨大な石の門がゆっくりと押し開けられていく。地面は触れ動き、岩盤からは砂埃が舞い落ちていった。


 それに躊躇いもなくロランは進む。おいていかれないようにレオはべったりと背中に張り付いていた。気が付けば、左右両側には緑色の肌をした兵士たちが居並び、整然と並んでいた。


 石扉が開き切ったとき、暗闇の中から一人の女性が出てきた。凛々しい顔立ちに赤い髪色、ショートヘア、それにふくよかな胸、肌の露出の高い革鎧姿。見るものを魅了してしまうような妖艶さと逞しい腹筋は強さを示していた。まるで剣闘士のような姿で背中には大きな大剣が背負っていた。見た目は人間と変わらなかったが、どこか人間とは違う雰囲気を出してた。その女性がロランを見ると腰に手を当てた。ほかの者たちとは少し違った態度に違和感を覚える。


 ギロリとレオを見た。眼力だけで気圧されたレオは思わず、ロランの背中へと隠れてしまう。視線をロランに戻した赤髪の女性が口を開く。

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