「真紀ちゃんだけどうして色が黒いの?」
幼稚園のころ友達から質問された。
きっとただ単に疑問に思っただけなんだろう。
でも私には答えるすべがなかった。
周りのみんなは白い肌なのに私だけが黒っぽい茶色の肌。
同じ日本人なのにどうして私だけ違うのか。
小学校に入ってからは男子から「松崎しげる」とあだ名をつけられた。
肌の色だけでつけられたこのあだ名が嫌で嫌で仕方なかった。
それなのにどんどん広まって、
女子からも呼ばれることが増えた。
そのころぐらいからだろう。
徐々に人付き合いを避けるようになっていった。
傷つけられるのが怖くて怖気づいていた。
学校の休み時間は退屈だった。
次の授業の準備をしたらそれ以上やることがない。
それでも普通の休み時間はまだまし。
昼休みは時間が余りすぎてどうしようもない。
教室で一人でいると変な目で見られるので、
外に出てグラウンドで遊んでいる子を眺めるのが日課だった。
そんなある日、たまたま遊んでいる男の子と目があった。
すると男の子がこちらに近づいてきた。
「一緒に遊ぼうぜ」
「キミ誰?」
「誰でもいいだろ、遊ぼう」
「でも私こんなだし……」
「何が?」
「肌の色とか……」
「んー、顔と合っていてかわいいと思うけど?」
「か、かわいいって」
「よく分からないけどとりあえず遊ぼうぜ」
キミが手を差し伸べてくる。
その目には悪い感情は見られなかった。
なにより親以外に「かわいい」と言われたのは初めてだった。
意を決してキミの手を取って、
初めて一緒にドッジボールに混ざった。
「増援かよ」
「新しい仲間が加わったと言ってくれ」
「数で負けてるからって卑怯な」
「数で負けてるから仲間を増やしたのに卑怯とは心外だ」
「わ、私、別に混ざらなくても」
「おおっと、去る者は追う、来る者は拒まずの精神だぞ」
「ふふっ」
すごく強引な子だった。でも気分は悪くない。
何より楽しそうに笑いかけてくれるのが嬉しかった。
私はすぐ外野に行くことになってしまったけど、
キミはけっこう粘っていた。
真剣にドッジボールする姿はかっこよかったよ。
「授業が終わった後も遊ぶからなー」
授業が終わった後の遊びにも誘ってくれた。
内容は鬼ごっこ。
キミが率先して鬼をやっていたので、
私も頑張って逃げた。
あんなに周りを避けていたのに、
気がつくと周りの子と一緒に遊んでいた。
遊んで遊んでひたすら遊んで、
疲れて休憩しようと思ったころには外が暗くなりかかっていた。
「楽しかった?」
「うん」
「そりゃよかった。また遊ぼうぜ」
「あの、キミの名前は?」
「俺は高木哲也っていうんだ」
「私は島村真紀」
「真紀か、よろしくな」
キミは私が女の子だから暗い中一人で帰るのは危ないと言って、
家まで一緒に付いてきてくれたね。
帰るまでの道中はいっぱいお喋りをした。
理科の授業で先生が失敗して火事になりそうだったことや
国語が苦手で点数が取れないことなど。
今思えば自分のことばかり話していたと思う。
でもキミはどんな話でも興味ありげに聞いてくれた。
ちゃんと相槌を打たれるだけで、
こんなにも話すのが楽しくなるんだと思った。
だからつい勢いづいてアニメや漫画の話もしてしまった。
「それなら今度僕のお勧め持ってきてあげるよ」
「う、うん」
断り切れなかった。
アニメや漫画なんて子どもっぽい趣味で、
小学5年生の女子ともなるともう"卒業"するべきものだった。
だから学校でそんな話をする訳には行かないし、
漫画を借りるなんてもってのほかだ。
もちろん男の子にとっては関係ないことなので、
悪気はないのだと思う。
次の日の休憩時間にキミがこちらのクラスに来た。
手には漫画を持っている。
せめて学校が終わった後にしてほしかったけど、
嬉しそうにしているので多分早く渡したかったんだろうな。
でもキミの口から出た言葉は意外なものだった。
「真紀、嫌がらずにこれ読んでみろよ、後で必ず感想聞かせろよ、読まなかったらお仕置きな」
私が断りきれなかったこと気づいていたのかな?
でもそれならなおさらこんな場所で渡すのはやめてほしかった。
明らかに目立ってしまったし、
周りにはまだ漫画なんて読んでいると思われただろうな。
恐る恐る周りを見ると、思っていた状況と違っていた。
ひどく同情的な目で見られている。
「あれ、隣のクラスの高木じゃん、友達?」
「う、うん」
「真紀大変だねぇ、漫画なんて押し付けられて」
「え……うん、大丈夫」
「無理やり渡して感想聞かせろとか強引だよね」
「私、読んでみるよ」
「お優しいことで」
授業が終わった後、キミに会いに行った。
もちろん漫画の件だ。
「どうしてあんな渡し方したの?」
「僕から押し付けられたってことにしとけば漫画を読んでいても不自然じゃないだろ?」
ニヤリと笑って答えるキミ。
やっぱり計画的な行動だったようだ。
「漫画やアニメの話題を口にしてしまったら「高木に無理やり見させられた」といっておくといいぜ」
[キミが無理やりやらせている]という形を取ることで、
漫画やアニメを読んでいても不自然じゃないようにしてくれたんだ。
私が困っていることを見抜いてくれたことがすごく嬉しかった。
・・・
それからは一緒に遊ぶようになった。
キミはなんでも挑戦するのが好きで、
教室内でスーパーボールを投げて蛍光灯を割ったり、
園庭の遊具を回転させすぎて壊したりしていたね。
後でいつも一緒に怒られて、その後笑い合った。
そしてそれは人付き合いも同じだったね。
キミのことが嫌いだと言う人に積極的に話しかけて、
いつの間にか友達になっていた。
「食わず嫌いはダメなんだよ、だから真紀も新しい友達作ろうぜ」
「でも何を言われるかわからないから怖い……」
「俺がついているから大丈夫」
そんな話をした次の日、
キミと一緒に廊下を歩いている時だった。
「松崎しげるじゃん」
「あ……」
昔のクラスメイトが声をかけてきた。
いつも私をそのあだ名で呼んできたのでちょっと苦手な子。
どう返事をするか迷っているとキミがスッと私の前に出た。
「知ってるか? 真紀みたいな子はクレオパトラっていうんだぜ」
「えー、それって三大美女じゃん」
「そうそう、女の子はみんな美女」
「でもそこまで美人じゃないしー」
「なら名前で呼べばいいだろ?」
「そっか、うーん、えっと名前なんだっけ?」
「島村だよ、島村真紀」
「真紀は友達探してるんだよ」
「へー、ならあたしと友達になる?」
「う、うん、よかったら」
「よろしくね、真紀」
あっという間に呼び方が変わった。
あんなに悩んでいたのが馬鹿みたい。
ただ一人で怖がっていただけでこんなに簡単なことだったんだ。
それをキミに伝えると「だろ?」と楽しそうな顔で笑ってたね。
・・・
それから春も夏も秋も冬もずっとキミは隣にいてくれた。
これからもずっと一緒にいるんだと思っていた。
だから中学校に入った時、
キミが学校にいなかったことを受け入れられなかった。
キミの家に行ってみたけど、
そこにはもう誰も住んでいなかった。
「隣は引っ越したよ」と言われた瞬間、泣いてしまった。
泣き疲れて一晩寝た後はすっきりした。
キミに勇気をもらったからもう一人でも頑張れる。
誰に何を言われたとしても、
キミに「かわいい」と言われたことを支えにするから。
そこからは一人でも一生懸命周りに声をかけてみた。
おかげで大勢の友達が出来た。
ただもちろんいいことばかりじゃなかった。
初めて出来た彼氏にモノのように扱われたり、
他の人に脅されて奉仕を強制させられたりしたこともあった。
嫌な記憶だけどそれでも悔いはない。
挑戦したことに意味があったと思うから。
・・・
高校に入ってキミと再会した。
飛び上がるほどうれしかった。
でも「島村さん」と呼ばれた時、強いショックを受けた。
昔のように「真紀」と呼ばれると思っていたから。
キミはあのころと変わらない元気な姿でいつも周りと楽しそうに過ごしていたね。
私は緊張しすぎて全然話せず、
たまに一言二言話すのがやっとだった。
私がずっとキミを見ているように、
キミは山本さんをいつも見ていたね。
あれだけ目で追っていればすぐに分かるよ。
山本さんも好印象みたいでよかった。
でも雲行きが怪しくなったのは文化祭の頃。
キミと山本さんの仲が険悪になった。
喧嘩でもしたんだろうと思っていたけど、
何か月たっても以前のような関係に戻らなかった。
そん時の私の心情は悲しみ半分喜び半分だった。
なぜ友達の不幸を喜ぶ気持ちがあるのかその時は理解できなかった。
でも高校を卒業してキミに会えなくなって、
そこでようやく気付いた。
私はキミが好きだったんだ。