その後は特に何事もなく昼食の時間になった。
先生達がバーベキューの準備を終えて焼き始めている。
外で大勢と食べるのは初めてなのでちょっと楽しい。
丸井は彼女と一緒に食べてるし小西は佐々木さんと一緒だ。
(小西と佐々木さん、意外と可能性あるんじゃないかな?)
そんなことを思いながら肉をもらいに行ったけど、
まだ全然焼けていない。
というか焼けた端から持っていかれているというのが正しいみたいだ。
そりゃあ10人以上いるんだから厳しいよな。
焼くスペース自体はあるので少しぐらい手伝おう。
「先生、こっちのほう使って俺も焼きますよ」
「お、すまんなぁ、生焼けだけは注意してくれよ」
「はい」
といっても焼いているのは牛肉とソーセージ類と野菜だ。
よほどの生焼けじゃなければ問題ない。
それでも先生達は焦げる寸前まで焼いているようだ。
(こういうのも気を使っていたんだな)
やり直し前は「焼きすぎ」とか「魚介が足りない」とか文句言っていた。
実際は食中毒を警戒してたんだ。
「高木が焼いてるのか」
「やめなよ……」
丸井が彼女連れでやってきた。
ただ彼女の真鍋さんはあまりこっちに来たくなさそうだ。
「大丈夫、高木は怖くないから」
「でも……」
「ほらどう見ても馬鹿そうな顔してるだろ?」
「そんなこと……」
「さっきも車酔いして島村さんに介抱されてたし」
「……島村さんと仲いいんだ?」
「山本にはパシリにされてるし佐々木さんにはデレデレだぞ」
「ふふっ」
酷い言われようだ。
(でもやっぱり怖がられてるのは本当なんだな……)
近づくだけで怖がられるとは思わなかった。
「ということで優しい優しい高木君、肉くれ」
「お前に食わせる肉はない!!」
「ひでぇ!?」
「野菜食べとけ」
玉ねぎとピーマンを丸井の皿にいれる。
真鍋さんの皿には肉と野菜を均等に入れる。
(ついでにピーマンも処分できて一石二鳥だ)
「普段の行いをかばってやって服まで選んでやったお礼がこれかよ」
「服の件がなければ野菜すらなかったぞ」
「俺が何したんだよ!?」
「女子と一緒にいる=死ね」
丸井が気をつかってくれたのは分かる。
だがそれはそれとして彼女持ちはいじられて当然。
「ド直球な答えどうもありがとう、だがお前がそれを言っていいのかな?」
「はぁ?」
俺に彼女なんていないから何も怖くないぞ。
「島村さーん」
「なんで真紀を呼ぶんだよ!?」
「いやー、高木の彼女に手伝ってもらえば肉もらえると思ってさ」
「彼女じゃないよ!?」
「あ? 一緒にカラオケして今日も二人でイチャイチャしておいて?」
「カラオケって?」
「こいつ、以前みんなでカラオケした時に島村さんとデュエットしたんだよ」
デュエットって言い方が古いな!?
って今の時代だと別に古くないか。
とにかく黙らせないと噂に尾びれ背びれ胸びれがつくぞ。
「肉やるから黙れ」
「5切れは欲しい」
「強欲すぎる!?」
「ふふっ」
「ほら、おもしろいだろ?」
「そんなに怖くないのはわかった」
怖くなくなったのは良いけど、
面白いというのはどうかと。
「さっき呼んでなかった?」
さきほどの声が聞こえていたらしく、
真紀がこっちに来た。
水着もワンピースタイプでやっぱり麦わら帽子をかぶっている。
(ワンピースにこだわりがあるとか?)
似合ってるから別にいいか。
「高木が手伝ってほしいって」
「わかった、手伝うよ」
袖がないのに腕まくりする仕草がかわいい、ってそうじゃない。
無理して手伝ってもらわなくてもいいのに。
「無理しなくていいよ?」
「哲也くんからの頼みならなんだって聞くよ」
笑顔でそんなことを言われたら、
丸井が発言を捏造したなんて言えない。
「さて、高木君、言いたいことはわかるね?」
「お肉焼かせて頂きます」
「うむご苦労、焼き肉のたれも入れたまえ」
「こちらに」
「なんのコントなの?(笑)」
つい乗ってしまい、真紀に突っ込まれてしまった。
まあみんな笑ってるから結果オーライか。
ただこうして焼いてみると先生の苦労がよく分かる。
昼間のクソ暑い中で炭の前にいるのはかなりつらい。
そりゃあ焼くペースも落ちるってものだ。
「こっちのほうの場所、使わせてもらうわね」
忙しそうにしているのを見かねたのか佐々木さんが隣に来た。
水着にバスタオル羽織っているだけの姿でとても色っぽい。
「その恰好だと油はねた時大変じゃない?」
「暑いから仕方ないよ」
「先生から借りたエプロン貸すよ」
「ありがと」
女子の肌にやけどの痕なんて残すわけにはいかない。
ただ水着でエプロンをした佐々木さんが、
裸エプロンのように見えてちょっと嬉しかったのは内緒だ。
「あ、佐々木さんが肉焼いてるんだ、ひとつちょうだい」
「はい、これならもういいよ」
「佐々木ー、俺もー」
「ちょっと待ってー」
佐々木さんの所に男子の列が出来てる。
肉なんて誰が焼いても一緒だけど気持ちはわかる。
俺だって佐々木さんが焼いた肉を食べたい。
「はい、哲也くんにもあげる」
そんなことを思っていたのが見透かされたのだろうか。
佐々木さんが俺にも肉を分けてくれた。
ただ今はいろいろ焼いているので手が離せない。
「ありがとう、また後でもらうね」
「うーん、それだと硬くなるよね……えいっ」
佐々木さんが俺の口に肉を放り込んだ。
タレ付きで味がしみていて美味しい。
「恵子……行儀悪いよ」
真紀がジト目で見ている、かわいい。
「高木のやつ、佐々木さんに食べさせてもらってたぞ」
「死刑だな」
「ファラリスの雄牛の方が良くないか?」
「凌遅刑でいいだろ」
並んでいる男が好き勝手言っている。
というかなんでそんなマニアックな刑なんだよ。
「はいはい、哲也くんは率先して焼いてくれたからサービスしたの」
「つまり今焼けば佐々木さんから直接食べさせてもらえる!?」
「頑張ったらね」
「はいはいはーい、俺焼きます、高木代われよ」
「俺も焼かせろよ」
「俺も」「俺だって」「僕もお腹いっぱいだし」
あっという間に網の前から追い出されて男たちが場所を取り合っている。
まあ焼いてくれる人が多いに越したことはないか。
「みっともなさすぎだろ、お前ら」
「そんなことを言ってる小西は何してんだ?」
「もちろん佐々木さんの焼いてくれた肉食べてるんだが?」
「あっ」
みんなが列から離れたおかげで悠々と肉をゲットしてる。
小西のこういうところ抜け目ないよな。
俺も佐々木さんが焼いた肉をもらってこよう。
そう思って動こうとすると肩を叩かれた。
振り向くと真紀が箸で持った肉をこちらに向けていた。
「はい、口開けて」
「え、いや、もう焼いてないから自分で」
「はい、あーん」
「いや、あの」
「あーん」
「……あーん」
断ることを許されず雛鳥のように口に放り込まれた。
真紀が自分で焼いていたようで、
俺が焼くよりしっかり火が通っている。
程よい硬さの肉にたれがしっかり絡まっていて非常においしい。
「はい、良く出来ました。次はピーマンだよ」
「え、あんまり好きじゃないけど」
「ならこの機会に好きになろうね」
ピーマンの苦みが口の中に広がる。
タレではなく塩で焼いてるらしい。
「苦い……」
「はい、ジュースだよ」
分かっていたようでジュースを口に注がれる。
(子どもになった気分だ)
こんなに笑顔でご飯を食べさせる真紀はきっといいお母さんになるだろう。
「おい、今度は島村さんに食べさせてもらってるぞ」
「餌付けだろ」
「島村さんは仕方ない」
「邪魔すると馬に蹴られるぞ」
やっぱり恋人同士みたいな扱いされてる。
(そういえば昔もこんなだったな)
真紀と仲が良くていつもセットで扱われてた。
すぐ冷やかされるから当時は恥ずかしいとか思ってた。
(今考えると照れてたんだな)
そんなこんなで昼ご飯は終了した。