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20. 初めての女子とのカラオケ

次の日にお礼のお菓子と共に洗濯したズボンと新品のパンツを返却しにいった。

山本さんから返ってきたズボンとパンツはアイロンがけまでされていたのでびっくりした。


そして肝心のテストは勉強を教えてもらったかいがあり、

なんとか平均点は取ることができた。

その結果を山本さんに伝えた時の玉のような笑顔は良かったし、

また試験前には教えてくれると言ってくれたのも嬉しかった。

(斎藤さんの言うように本当に俺のことが好きなんだろうか?)

この笑顔を見ていると信じられる気がする。


もし付き合うなら俺から告白したいな。

ただ告白するなら文化祭のケリがついてからだ。

中途半端になるのだけは避けたい。

それに文化祭が終わった後の時間は絶好の機会でもある。

文化祭の後の盛り上がりを利用して告白する人が多く、

通称告白祭と呼ばれている。

俺もそのタイミングで告白しよう。


そう決めた所でチャイムが鳴り授業が終わった。

(とうとう放課後になった)

今日は朝から気合が入っている。

(やり直し前と同じ展開になってくれるだろうか)


「哲也くんもカラオケ行く?」

「行きたい」


佐々木さんからの誘い。

(やった、今回こそちゃんとするんだ!!)

やり直し前の今日は人生で初めて女子とカラオケに行った日だった。

それも佐々木さんのグループから誘われたので、

当時すごく緊張していたのを覚えてる。

そしてそういう時は大体失敗するんだよな……。


たしか最初は佐々木さんが歌った。

なんの曲だったかは覚えていないけどすごく上手かった。

多分佐々木さんの十八番なんだろうなと思った。

友達もいつもの曲を歌い、俺の番になった。


そこで俺は大失敗をした。

みんないつもの曲を歌っているので、

俺もいつもの曲を歌ってしまったんだ。

串田アキラの[キン肉マンgo fight!]

歌い終わった時の女子の反応は絶望的だった。

当時の佐々木さんはあーあという顔をしていたし、

他の女子は若干引いてた。

島村さんだけが拍手してくれたのを鮮明に覚えている。

その時は恥ずかしさで顔から火が出そうだった。


なぜガチガチのアニソンなんて選んだのか。

せめてSMAPの[笑顔のゲンキ]とかTOKIOの[ハートを磨くっきゃない]とかなら

最悪ごまかせたかもしれない。

結局その後歌うのは断った。

もうあんな恥ずかしいことはしない。

元々歌うだけなら他の曲も歌えたんだ。


「西野くんも来る?」

「行くよ」


お、珍しい、西野が参加する気だ。

やり直し前はギャルゲーにハマっていたので誘っても来なかった。

よしよし、いい傾向だな。


その後も佐々木さんは何人か誘い、

けっこうな人数になった。

(一人三曲ぐらいかな?)

部屋に到着すると西野がさっそく曲を入れた。

B'zの[LOVE PHANTOM]

きちんと高音も出てるし声量もある。

見た目の良さも相まって女子の目は釘付けだ。

(ほんと上手いんだよな)

歌い終わると大きな拍手が起こった。


「おい西野、一番手からとばしすぎだろ」

「こんなもんだろ、ほい、高木」

「謙遜かよ、後に歌う高木の身にもなってやれよ」

「知らん」


たしかにこの後に歌っても比較されるだろうけど、

どうせ俺が一番下手だろうし誰の後でも一緒だろう。


俺の選曲は、布袋寅泰の[POISON]。

ドラマGTOの主題歌で音楽番組でもバンバンかかってるから、

さすがに知らないってことはないだろう。

知らない曲を歌うより知ってる曲を歌うほうがいいだろうし、

がんばって練習したので音痴ってほどではなくなったと思う。


・・・


なんとか歌い終わった。

歌ってるときに他の人を見る余裕はないので、

どんな反応だったか不安だ。


「哲也くん、意外と上手だね」

「ありがとう」


よかった、佐々木さんの反応は悪くない。

他の女子の反応も悪くなさそう……あれ?

(そういえば島村さんが拍手してくれなかった?)

島村さんの方を見ると怪訝そうな顔をしていた。

(え? 何か失敗した? もしかして歌詞間違えた?)

一応画面見ながら歌ったけど、

緊張していたから間違えたのかもしれない。


俺の後もしばらく男子が曲を入れる。

みんないつもの曲で、

例えば丸井はLUNA SEAの[ROSIER]だ。

(毎回歌ってるのを聞くから覚えてしまうよな)

一部の女子の目が輝いているので好印象なのかもしれない。

(丸井も彼女欲しいって言ってたしな)

後で印象が良さそうだった子を伝えておこう。


一通り男子が歌い終わった後は女子の番だ。

佐々木さんはDREAMS COME TRUEの[未来予想図II]。

落ち着いた歌声でしっとりと歌い上げている。

歌詞の一部にアイシテルの言葉があるので、

ちょっとドキッとする。

歌い終わるとみんな大きな拍手をしていた。


島村さんはシャ乱Qの[シングルベッド]

普段のおっとりした感じじゃなくて、

ちょっと絞ってキリッとした声なのが印象的だ。

(やばい、かわいい)

たまたまかもしれないけどこちらを見てるので、

まるで俺に歌われている気分になる。

歌い終わった後は人一倍大きい拍手で答えた。

(そういえば一応アニソンだっけ)

誰も知らないレベルだからカラオケの背景も普通だった。


次に男子の順番が回ってくる際に

ちょっとしたトラブルがあった。


「西野、[マンピーのG★SPOT]はやめろ!?」

「え、何歌おうが勝手だろ」

「お前、女子がいるんだぞ!?」

「大丈夫、大丈夫、サザンだし」

「頼むから自重してくれ……」

「なら[ピエールとカトリーヌ]を」

「もっと駄目に決まってんだろ!?」


さすがに男子全員で止めた。

本来はみんな選曲にケチなんてつけないけど、

さすがにもう少しまともな曲を選んでほしい。

[ピエールとカトリーヌ]なんて歌ったら女子はドン引きだぞ。

必死の説得でなんとかMr.Childrenの[シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~]

で妥協してくれた。


また俺の番だ。今度は福山雅治の[HELLO]。

これもドラマの主題歌だったと思う。

順当に歌って特に問題ない反応だった。

(もう一曲は無理そうかな?)

思ったより時間がかかっているので、

時間内にもう一巡は無理だろう。

それなら二巡目が終わったらみんな好きに歌えばいいと思う。


佐々木さんの次の曲は大黒摩季の[あなただけ見つめてる]。

さっきとは打って変わって力強い声。

もろに愛を伝える歌詞なので一部の男子が蕩けてた。

歌い終わると盛大な拍手が鳴り響いた。


ただこの歌の歌詞ってよく考えるとかなりすごいよな。

全てを投げ捨てて男に合わせるって。

男が望んでいるならともかく望んでいないなら恐怖だと思う。

それにしても1曲目と言い何か選曲に意味があるような気がする。


「次の曲は[キン肉マンGo Fight!]だって、誰だろう?」

「はぁ!?」


とっさに振り返る。

そんな曲入れた覚えがない。


「私」

「え、真紀なの? 珍しい曲歌うんだね」


まさかの真紀だった。

他の女子がちょっと引いてたけど大丈夫だろうか。

(でも一体どうして……?)

佐々木さんが驚いているのを見るに、

普段歌っているわけではなさそうだ。


「哲也くん、一緒に歌おう?」


そう言ってマイクを渡された。

たしかにこの曲は合いの手が入る。

合いの手を入れられるのは俺ぐらいだろうし、

一人だとその部分を無視するしかないけど……。


「わかった」

「私が合いの手を入れるね」

「え、俺メイン!?」

「だって昔はそうだったよね?」


そう言われた瞬間、過去の記憶が蘇る。

そうだ、俺が真紀にキン肉マン面白いって教えたんだ。

そうしたら真紀がわざわざ親に頼み込んで、

ビデオをレンタルして見てくれた。

すっかり好きになって、

二人でよく一緒に主題歌も歌ってた。

(なんでこんな大事な思い出を忘れてたんだ……?)

いや、理由は単純だ。

小学校のころは当たり前のことで、

大事な思い出とは考えてなかったからだ。


だからやり直し前は思い出さなかったのか。

そしてそれでも真紀にとっての最良の選択肢を選んでいたのか。

だからやり直し前は拍手してくれたのか。

失敗だと思っていた選択が実は正解だったなんて思わなかった。


ちょっと涙目になりながら一緒に歌った。

他のみんなにはちょっと引かれたけど構うもんか。

歌い終わって席に座ると西野に声をかけられた。


「高木は島村と仲いいのか?」

「小学校の頃友達だったけど中学が違って疎遠になったんだよ」

「へぇ」

「ようやく最近になって昔みたいに喋れるようになってきたよ」

「そうか」


西野は何か考えているようだった。

(こいつがギャルゲー以外のことを考えてるのは新鮮だな)

結局西野はそのまま何も話さなかった。


・・・


「今日は楽しかったね」

「そうだね、また来よう」


佐々木さんと小西が話している。

また来よう、か。

やり直し前は誘ってもらえないことを嘆いていたけど、

むしろ自分から誘うぐらいの気概が必要だったんだ。


「また真紀と一緒にカラオケ行きたいな」


真紀は一瞬驚いた後に満面の笑みで「うん」と返事してくれた。

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