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16. 二度目の体験(前編)

「おはよう、哲也くん♪」

「「「ぶーー」」」」


周りの男子が一斉に噴き出した。

でも俺だって噴き出したい。

なんで普段しない朝のあいさつをしてきて、

しかも名前呼びなんだよ!?


「私、挨拶したんだけど返事はないのかな?」

「お、おはよう」

「名前は?」

「お、おはよう、佐々木」

「はい、おはよう、哲也くん♪」


そのまま席に戻っていった。

そして俺はすぐ男子たちに囲まれた。


「おい、どういうことだよ!!」

「詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」

「大丈夫だ、痛くないように一撃で仕留めるからな」

「なんで仕留められないといけないんだよ!?」


そのまま男子たちに連行された。

事情を話せと言われたけど下手なことは話せないので、

一緒に作業していたらいつの間にかそんなことになったと伝えた。


「俺も照明班に行けばよかった」

「でも打ち合わせ遠目で見ててもいつも山本と喧嘩してるぞ」

「名前で呼んでもらえるぐらい親しくなれるならそれぐらいOK」

「過ぎたことを悔やんでも遅い」

「とりあえず高木は処刑だな」

「そうだな。それで代わりとして俺が行こう」

「いや、僕が」

「彼女のいる奴は黙ってろ、俺が行く」

「人を処刑した上に成り代わろうとするんじゃねぇよ!?」


・・・


ようやく授業が終わった。

打ち合わせに行こうと準備をしていると、

島村さんから声をかけられる。


「恵子と仲いいの?」

「いや、照明班で一緒に仕事してたらたまたま……」


島村さんが珍しく眉をひそめている。

でもそれが拗ねてるみたいに見えてかわいい。


「私も昔みたいに哲也くんって呼んでいい?」

「え!? 構わないけど……」

「私のことも真紀って呼んで」

「そ、それは……」

「昔は真紀って呼んでたよね?」


顔をずいっと近づけてプレッシャーをかけてくる。

(あのころもこんな感じでよくお願いされたな)

たしか、「顔を近づけると哲也くんは言うこと聞いてくれる」

って言っていた。

島村さんが覚えていてくれたことが嬉しくて笑顔になる。


「呼んでくれるよね?」

「わかったよ、真紀」


名前で呼ぶと返事の代わりに満面の笑顔で答えてくれた。

(こんな笑顔してくれるならもっと前から呼べばよかった)


・・・


さて、いつもの打ち合わせだ。

ただ今日はやけに険悪なムードだ。

特に山本さんが怖い。


「昨日のスポットライトの件だけど」

「その前にどうして佐々木から名前呼びされてるのか説明してからね」


腕を組んで睨むような目で見ている。

(これは怒ってる時の仕草だ)

やり直し前はよく見た光景で、

よくこの状態で責められた。

答え方を間違えると大変なことになりそうだ。


「昨日、打ち合わせの後に動かす方法考えていたら佐々木さんが来たんだ」

「解散したじゃない、なんで佐々木が来るのよ」

「私の仕事なのに一人で考えさせちゃ悪いからね」

「あんたに聞いてない」

「一緒にいろいろ考えたんだよね?」

「あ、うん」


(そんなに一緒に考えたっけ?)

まあ変に否定より同意しておく方がいいか。


「そしたら哲也くんが問題をスパっと解決してくれたのよね」

「えー、すごいね、どんなの?」


斎藤さんが質問してくれたので、

スポットライトの動かし方を伝える。


「よく知ってたねー」

「たまたま友達が演劇部にいたから……」

「一緒に考えて仲良くなったから名前で呼ぶことにしたのよ」


斎藤さんは愛想よく会話してるけど、

山本さんがさっきから無言に睨んでいるのが怖い。

やっぱり納得いっていないっぽい。


「なら私も哲也って呼ぶ」

「え?いや、佐々木さんm「ん?」

「佐々木も呼び捨てで呼んでないよ」

「あたしは呼び捨てにするの」

「あ、はい」


これもやり直し前によく見た態度だ。

先生に対して無茶な要求をして、聞いてもらえないと怒っていた。

こうなると要求が通るまで一歩も引かない。


「あたしのことも希望って呼ぶこと」

「え、それはちょっと」

「何よ、呼ばせてあげるって言ってるんだからいいでしょ」

「哲也くんが嫌がってるじゃない」

「そもそも佐々木がややこしくしたんでしょうが」

「勝手に横入りしたのに偉そうに」


大木さんは面倒そうな顔で見てるし、

斎藤さんは興味津々な顔をしている。

(なんでこんなことに……)

でも別に名前で呼ぶのが嫌って訳じゃない。

どうせ男子につるし上げられるなら一緒か。


「わかった、わかりました。名前で呼ぶよ、希望」

「最初からそう言えばいいのよ」

「どうして私は呼び捨てじゃないのかな~?」

「わかりました、恵子」

「よろしい」


開始前にいろいろあったものの、

打ち合わせは問題なく終了した。

(疲れた……さっさと帰ろう)

帰り支度をしていると大木さんからメモを渡された。

[部室に来て]

やっぱりさっきの件だよな。


「なんで修羅場みたいなことになってるの?」

「さっぱり分からない……」

「とりあえず私を巻き込まないようにしてね」

「気を付ける」


予想通り、注意のための呼び出しだったらしい。

まああんなことになってたら注意の一つもしたくなるか。


「私も流れに乗って二人の時は哲也って呼ぶね」

「なんで流れに乗るんだよ!?」

「反応が見ていて面白いし」


クスクス笑っている。

普段そんな所を見せないけど、

意外とからかうのが好きなんだよな。


「私の名前って小さい夜と書いて小夜って言うの」


小夜っていうのか。

小さな夜というのが普段の佐々木さんの印象とよく合う。

落ち着いて溶け込む感じがすごくいい。


「私の呼び方も小夜に変える?」

「変えないよ……」

「もしかして既に心の中では小夜って呼んでる?」

「呼んでないよ!?」

「そうね、オナニーの時ぐらいは許してあげる」

「だから呼んでないってば!?」


女子から下ネタを振られても対処に困る。

下手に乗って引かれたりしたら嫌だし、

興味がないというのも嘘だし。


「いつも誰でオナニーしてるの?」

「言わないよ」

「島村さんでしょ? 着替えの時いつも胸見てるし」

「見てないよ!?」

「誰が見ても気づくわよ」


斎藤さんに指摘されたけど、

まさか大木さんにも指摘されるとは思わなかった。

もしかして他の人も気づいてる?


「え……、もしかして俺変態と思われてる?」

「さあ、どうかしら」

「お、大木さんはどう思う?」

「そこでどもる所が変態っぽい」


笑いながら言っているのできっと冗談に違いない。

……冗談だよね?


「私は微笑ましいと思うわ」

「胸見てるのを微笑ましいって……」

「男子は大きい胸好きよね」

「そんなこと……あるかな」

「正直でよろしい」


つい男とのやり取りのノリで答えてしまったけど、

それが面白かったようで笑いを含んだ声で許された。


「そういえば今日はオナニーしたの?」

「まだ学校にいるのにするわけないだろ!?」

「ほら、朝学校に来るまでとか」

「そんな時間で出来ないよ」

「そうなんだ」


そう言うと布団を敷き始めた。

(そういえばなんで布団があるんだろう?)

仮眠用だろうか。

でもそれにしては敷布団だけなんだよな。


「はい、ここに寝て」

「ここに?」

「そう、早く寝て」


よく分からないけど布団の上に横になった。

ごわごわしていてあまり干されていないのが分かる。

(あんまり洗ってない?)

この時代はコインランドリーなんてほとんどないので、

布団を洗うのが難しいからだろう。


「ああ、違う。仰向け」


相変わらず指示が細かい。

姿勢を変えて仰向けになると、

大木さんのスカートの中が見えそうになる。

(見ないように、見ないように)


「これの方が楽なんだよね」


そういって俺の下半身あたりに覆いかぶさって俺のズボンを下ろした。

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