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15. 佐々木と島村の過去

真紀とは中学からの付き合いだ。

きっかけは特に好意的なものではなかった。

誰も知り合いがおらず声をかけることも出来ていなかったので、

かわいそうだと思ってグループに誘ってあげただけだ。


ただ話してみると印象が変わった。

感情が豊かで頭の回転も悪くない。

なにより他人に対する負の感情を感じさせない。


ある時、男関係の話をしていると、

「恵子モテすぎ」と冗談めかして言われたことがある。

その発言に対して他の友達が、

「恵子には恵子の苦労があるのに」と言っていたが、

私の苦労の何がわかるのだろうか。

上辺だけで分かった気になられるより、

素直に賞賛される方がよほど気分が良い。


ある日、そんな真紀から相談を受けた。

彼氏が出来たそうだ。

初彼でセックスの経験もないのでいろいろ分からないらしい。

(私の初めては……)

嫌な記憶が頭をよぎる。

父親に襲われて痛みしかなかった初体験。

(私には幸せなことなんてなかった)

この時だけは幸せそうな真紀の笑顔が能天気なものに見えた。


「付き合っていつごろエッチなことってするものかな?」


今思えば、かなり覚悟を決めて言った台詞なんだろう。

でもその時の私は若干悪意を持って答えてしまった。


「ん-、本人の気持ち次第かな。すぐしてもおかしくないよ」


本来なら「簡単に体を許しちゃ駄目だよ」というべきだった。

ただ言い訳するなら、

あくまで真紀の気持ち次第と言う意味で言っていたつもりだ。

でも真紀にとっては違った。

相手の男の気持ち次第と取ってしまった。

私がそれに気づいたのは一か月ほどしてからだった。


「真紀ちゃん、噂になってるよ」


友達から真紀の噂を教えられた。

学校でしている所を頻繁に見かける、と。

ほぼ毎日口や胸での奉仕をしているようだと。

(どうしてそんなことに)

無理やりやらされている光景を想像して、

過去の自分と重ね合わせてしまう。

(とにかく話を聞かないと)


放課後に真紀を問いただそうと思っていた時、

真紀の方から目に涙をためてやってきた。


「恵子……」


あきらかに限界の様子だった。

理由も聞かずに急いで家に連れ帰る。

家に帰る途中からはずっと泣いていた。


家に連れ帰って落ち着かせる。

真紀が泣くのはそう珍しいことではない。

悲しい時や悔しい時はよく泣いている。

けどここまで泣き続けるのはよほどのことだ。


「私、愛されていなかった……」


ようやく口を開いた真紀から現状を聞く。

噂については事実のようで毎日させられていた。

愛されていると思っていたから受け入れていたけど、

彼氏が友達と話している会話を盗み聞きして、

愛されていないことに気づいた、と。


真紀は馬鹿だ。

そんなことを言ってくる時点で性欲目的に決まってる。

そして私はもっと馬鹿だ。

そんな真紀の行動を後押ししてしまった。


本当は男の評判が良くないことも知っていた。

いわゆるヤリチンの部類で私も誘われたことがある。

(顔はともかく頭がちょっと悪かったから断ったけど)

ただ女子の扱いはそこまで悪くないとも聞くし、

交際しているというなら大丈夫だろうという感覚だった。


「私、別れるよ……」


私が何かを言うまでもなく真紀は彼氏と別れる決心をした。

(なんて強いんだろう)

私は父親からの性的虐待から逃げられなかった。

嫌だと思っていても母に言う決心は出来なかった。

母に見られてようやく終わることができた。

それに比べて真紀は脅威に立ち向かうと言う。

(私には真似できない強さだ)


その後、真紀と彼氏は別れることが出来た。

「何度もお願いしてようやくだったよ」と、

話す真紀を見てすごいと思った。


しかしこれで終わりにはならなかった。

しばらくして真紀の雰囲気が暗くなった。

なにか悩んでいるようだが今度は聞いても教えてくれない。

(本人が話す気にならないと無理ね)

そんな真紀が隠している話を知ったのは偶然だった。

私に絡んできた男が馬鹿な脅迫をしてきたからだ。


「君の友達の真紀ちゃんってヤリマンなんだって?」


真紀は以前の彼氏との行為を盗撮されたらしく、

脅されて何人かの男に奉仕させられているそうだ。

この話は一部の男にしか出回っていないが、

私の返事次第で情報をばらまくそうだ。


「その話が私とどう関係するの?」

「友達大事だろ、ちょっとヤラせてくれれば黙っておくから」

「真紀の話であって私の話じゃないよね」


脅しになっていないことに気づかないのだろうか。

たとえヤラせたとしても黙っている保証はない。

むしろヤラせたことをさらなる脅迫の材料にするだろう。


「それだけなら私は行くね」


呆然とする男を尻目にその場を去る。

出来るだけ冷静に対応したが、腹の中は怒りで満ちていた。

(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな)

真紀が何をしたというのか、無理やりやらされただけじゃないか。


父親が私を犯している動画を撮って脅していたことを思い出す。

無理やり笑顔を作らされて咥えさせられた上に、

「合意はあった」とか「恵子から誘ってきた」とかほざいていた。

脅迫に従っても事態は一向に改善しないだろう。

(このままだともっとひどいことになる)

すぐにキープしている男と連絡を取る。


「君からかけてくるなんて珍しいね」

「あなたにも伝えておいたほうがいいと思ったの」

「何かな?」

「真紀は私の友達なのよね」

「……そうだね」

「それだけよ、じゃあね」


他の男にも同様の連絡をする。

私が相手する男はみんなリーダー格で頭も良い。

これだけで察してくれた。

しばらくして真紀の様子が落ち着いた。

男たちはちゃんと対処してくれたらしい。

もちろん真紀には何も伝えていない。

私が気に入らないから勝手にやっただけのことだ。


高校に入ると真紀は驚くほどに明るくなった。

なんでも小学校のころの知り合いと一緒のクラスになったという。

具体的に誰とは言っていなかったけど態度を見れば一目瞭然だ。

積極的に声をかけ返事をもらえばそれだけで嬉しそうにする。

いつも彼の挙動を目で追って彼が興味のあるものを真似しようとする。

彼から借りた漫画を大事そうに読んでいる時の笑顔は、

どう見ても恋する乙女だった。


ただ一方で真紀の想い人である高木についてはあまり印象がなかった。

勉強そっちのけで遊んでいる所しか見かけず、

目立ったのはクラス内で若干揉めていた時だけだった。

たしか漫画本を捨てられたから鞄を捨てたんだったか。

「絶対に高木君は悪くない」と、真紀が怒っていたのを思い出す。

恋は盲目というけどその通りだろう。

(どうみてもやりすぎよ)

気持ちは分かるけど限度がある。


照明班を希望したのは、

そんな真紀の想い人が実際にどんな人か見てみたかったからに他ならない。

近くで接して分かったのは高木の能力は存外悪くない。

それなりに気がつくし頭も回る。

ただムッツリであることが大きな減点要素だ。

(よほど女に飢えているのかな?)

本人は隠しているつもりだろうが、

胸や尻をチラチラと見ているのは丸わかりだ。

見ていると言うより覗いているという感じで、

人によっては不愉快に感じるだろう。

(それがなければ合格点出してもよかったんだけどね)

ただ無理矢理何かをするタイプではなかったので、

真紀が嫌がってないなら構わないとも思う。

他に気になる点としては、

山本が高木に対して従順で無防備なことだ。


山本希望。

ことあるごとに私にかみついてくる女。

まるで自分が一番偉いかのような態度で、

上から目線の指示を出してくる。


そんな女が高木に対してはかなり従順だ。

出来るだけ配慮しようとしているのが分かる。

あのイヤらしい目線についても同じだ。

山本は普段胸元のボタンを一つ開けているので、

高木によく覗き込むように見られている。

そういう視線を向けられれば山本のような女は烈火のごとく怒り出すものなのに、

視線を受けても無防備に胸元をさらけ出したままだ。

(気づいていない?)

最初はそう思ったが、

高木が斎藤の胸を覗いている話の後にボタンを2つ外してきたことで気づいた。

おそらく高木にそれなりの好意を抱いているのだろう。

(だとすると面倒ね)

普段の態度を見ていると高木は山本が好みだと思う。

このままでは付き合うかもしれない。

(少しかき回すか)

少しぐらい真紀を助けてもいいだろう。


「文化祭が終わるまで私に味方してくれたらご褒美に一度させてあげてもいいかな」


こういう男は体で釣れば簡単に言うことを聞く。

私に味方し続ければ山本も愛想つかすだろう。

それに達成した所で約束を守る必要もない。

私が高木に嫌われた所でどうでもいい。


そう思っていたから高木の返答には驚いた。

私とヤリたいという気持ちは伝わってくるのに、

それ以上の強固な意志がある。

(文化祭に一体何があるんだろうか?)


この時初めて高木という人物に少し興味を持った。

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