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14. 佐々木さんの誘い(後編)

「あ、そういえば演劇部でスポットライト動かしてた気がする」

「そうなの?」

「その時に珍しいなと思ったんだけど全然思い出せなかった」


演劇部に聞きに言ったほうがいいと思うけど、

どこにいるのか知らないんだよな。


「演劇部に聞いてくるから佐々木さんは待ってて」

「どうして? 私も一緒に行くよ?」

「場所がわからないから探し回らないと」


それを聞いて佐々木さんが溜息をする。


「はぁ……、突っ走りすぎ、一度落ち着きなよ」

「え、そんなことないと思うけど」

「顧問の先生の所に行こう、先生なら職員室にいるでしょ?」


・・・


「たしかにそういう台座使っていましたね」


演劇部の顧問の先生に聞くとあっさり教えてくれた。


「生徒が作ったので頼めば貸してくれるかもしれません」

「ありがとうございます!!」

「今の時間なら走り込みしてるでしょうから聞いてみたらどうです?」

「走り……込み?」


(……演劇部って運動系の部活だっけ?)

演劇ってそんなに動かないイメージがあるから、

体力をつける必要があると思ってなかった。


「観客に聞こえる音量で声を出し続けて演技もするのは大変なんですよ」


先生が補足してくれる。

演技以外でも大道具のセットなどでかなり大変らしい。


先生から教えてもらった場所に向かうと、

結構大勢の人が走り込みをしていた。

(え、これ全員演劇部?)

どうみても陸上部か何かに見えるので、

もし闇雲に探し回っていたら気づかなかっただろう。

(佐々木さんの言う通りだ、もっと落ち着かないと)


走り込みをしている人を確認していくと知り合いの姿を見つけた。


「松永ー、ちょっといい?」

「お、高木、どうした? って佐々木さん!?」

「こんばんは、松永くん」

「演劇部の部長に話があるんだけどいるかな?」

「いるぞ、呼んでこようか?」

「お願い」


呼ばれてやってきた演劇部の部長も佐々木さんを知っていた。

(学年違うのに知られているってすごいな)

でもそのおかげでスムーズに話が進み、

あっさり借りることができた。

ついでに試しに取り付けもやってもらった。


「あ、簡単に動くね」

「そうだね、女子でも使えるようにしたから」


部長が少し自慢げに話す。

どうも彼が作ったようだ。

興味津々で触る佐々木さんを見て嬉しそうなのは、

自分が作ったものを褒められているからか、

それとも佐々木さんが褒めてくれてるからか。

まあどちらにせよ借りることが出来て助かる。


「高木君は力ないね」

「申し訳ない」

「セットの時大変かもよ」

「手伝ってもらうとか出来たりする?」

「うーん」


俺の問いかけに悩んでいる。

(まあ手伝う理由ないしな)

何か対価になりそうなものがあればいいけど、

ほぼ初対面の人相手に何も出せるものがない。

すると佐々木さんが演劇部部長の手を取った。


「お願い♪」

「わかった!!」


手を重ねて目を合わせて微笑まれると秒殺だった。

(まあ男なら誰でも秒殺だろうけど)

機嫌よく台座を取り外して去っていった。


いろいろあって疲れたのでまた跳び箱に座ると、

佐々木さんも横に座ってきた。


「さすが佐々木さんだね」


最初、先生に聞きに行くことにしたのも、

あっさり借りることが出来たのも、

セットを手伝ってもらえるのも佐々木さんのおかげだ。

俺はほとんど役に立っていない。


「ううん、高木くんの方がすごいよ」


佐々木さんが褒め返してくれる。

スッとこういう風に返事が出来るのが、

人気の秘訣なんだろうな。


「この件もそうだし普段もそう」

「普段って何かしてたっけ?」

「あの山本さんが言うこと聞いてるもんね」

「え?そうなの?」


いつもあんな感じだと思うけどな。

でも佐々木さんは首を振っている。


「他の人なら「黙ってて!!」とか言われてるよ」

「いやいや、山本さんはそんなに聞き分け悪くないよ」

「高木くんには、ね」


やけに意味深な答えだ。

(俺だけに何かある? 俺のこと好きとか?)

もし両思いなら素直に嬉しい。

でもやり直し前の時の態度を見てるので自信が持てない。

あの時は少なくても純粋に嫌われていた。

それこそ一緒に課外学習したくないほどに。


「そういえば真紀と小さいころの知り合いって本当?」

「そうそう、小学校のころ一緒に遊んでた」

「でも学校でそんなに話してないよね?」

「男子から一方的に「昔仲良かったよね」とか言われたらキモくない?」

「なるほどね」


佐々木さんが何か納得したような表情をしている。

(相変わらず何を考えているか分からない)

佐々木さんはこういう意味深な行動や発言が多い。

俺にはさっぱり分からない。


「もしかして山本さんのこと好きだったりする?」

「ぶっ、ごほごほ」

「あ、やっぱり」


正解を言い当てて少し嬉しそうな表情をしている。

(どこでどうなってその答えにたどり着いたんだよ!?)

上手く隠せてると思ってたのにこんなにあっさりばれるとは。


「そっかー、だから山本さんに味方することが多いんだ」

「いや、そういうことは……」


佐々木さんが立ち上がって前かがみで顔を合わせてくる。


「文化祭が終わるまで私に味方してくれたらご褒美に一度させてあげてもいいかな」

「!?」


(させてくれるってセックスを!?)

改めて佐々木さんを見る。

さらさらの綺麗な髪で整った顔。

身長が高くてスタイルもよくモデルみたいだ。

そんな彼女と初体験できるなんて夢のような話だ。

でも……。


「それは出来ない。文化祭を成功させるのが最優先」

「へぇ、したくないんだ」

「したいに決まってる。でもそれとこれは別」


目的を忘れて楽しい方に逃げた結果がやり直し前だ。

なんのためにやり直しを願ったのか。

俺は今度こそ目的を忘れない。


「そうかー、うんうん」


またなにか意味深に頷いている。

(なんかこの頷きが怖い)

1を聞いて10を知るじゃないけど、

全て見抜かれているように思えてくる。


「決めた。私、今から哲也くんって呼ぶね」

「え!?」

「もちろん私のことも恵子って呼んでね」

「いやいやいや、なんでそんな話に!?」


明らかに佐々木さんの頼みを断ったよね!?

それなのにどうしてそんな話の流れに!?

いや、名前で呼んでもらえるのはすごく嬉しい。

名前で呼ばせてもらえるのもすごく嬉しい。

でも理解が出来ない。


「うーん、なら佐々木って呼び捨てで許してあげる」

「そういうことじゃなくて」

「呼び捨てで許してあげる」

「いや、そうじゃ……」

「許してあげる」

「……わかったよ、佐々木」

「これからよろしくね、哲也くん♪」


断れない雰囲気で押し切られてしまった。

(まあ別に断りたかった訳じゃないか)

理解できないから疑問だっただけで、

どちらかと言えば嬉しいことだ。

しかしこの時の俺は周りに与える影響を考えていなかった。


・・・


次の日の朝


「おはよう、哲也くん♪」

「「「ぶーー」」」」

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