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12. 斎藤さんからの脅し

目の前では田中と佐藤さんが話している。

やり直し前ならなんとも思わなかった光景。

でもやり直し前、あの二人は大学卒業と同時に結婚していた。

結婚式に呼ばれた時は本当に驚いた。

聞いたら「高校の頃から付き合ってた」とか言うけど、

全然気づいてなかった。


今見てるとたしかにちょっと雰囲気が違う。

心なしか距離が近い気がするし佐藤さんの声も明るい。

(やり直したからこそ分かる楽しみ方だな)

俺の友達周りでも付き合ったり別れたりしていたらしい。

こちらからそういうことを聞かなかったし、

話されることもなかったのでさっぱり知らなかった。

まあ交際経験どころか女性との会話経験すら少ない俺に、

恋愛の相談をしても役に立たないから仕方ない。


「哲也、頼んでたゲームはまだ?」


そう言って西野が声をかけてきた。

西野はクラスの男子の中では1,2を争う美形だ。

モテるらしく女性関係の話も多かった。

(俺が知ってるぐらいに)

ただ女性関係の噂はこの日以降ぱったりとなくなる。

それはある意味俺のせいだった。


元々アクションゲームの有名作を貸してほしいと頼まれていた。

ただその際に何となくギャルゲーも一緒に貸したんだ。

西野は嫌がっていたけど一度EDまでやってみろと言って。

その結果、西野はギャルゲーにハマった。

自分でゲームを買わなかった男が、

率先してゲーム屋に行って買いあさるぐらいにハマった。

そして「なぜ〇〇のような女性はいないんだ」

とかオタクみたいなことを言い始め、

女性と付き合うことがなくなった。

バレンタインでチョコを渡されそうになっても、

「俺には心に決めた二次元がいるから」と断ってた。

(これは変えた方がいいよな)

本人は楽しそうだったけど、

さすがに人生を変えすぎてしまったと思う。


「ああ、ゲーム持ってきたよ」

「サンキュ」


今度はギャルゲーを渡さない。

これで西野がギャルゲーにハマることはないだろう。

(こういうちょっとした後悔もなんとかしていけるといいな)


他には何かあっただろうか。

ギャルゲー……ゲーム……おもちゃ屋……。

あっ、そういえばたまごっちがブームだ!!

まだギリギリ買える時期だけど、

ここを過ぎるとかなり貴重になる。

(この前見たのに!!)

やり直し前のイメージで「たまごっち売ってるな」程度の認識だった。

学校が終わったら急いで買いに行こう。


・・・


昼ご飯は基本学食で食べている。

(カツ丼350円とかすごいよな)

一度社会に出たからわかるけど、

この値段でそれなりの味と量が出てくるのはすごい。

ただ一つネックなのは混雑具合だ。


「押すなよ」「おばちゃん、カツ丼1つ」「通れねぇ、どけよ」「月見うどんの人ー」「あ、割り込みだぞ」「はいはいはーい!!」「え、もう焼きそばパン売り切れ?」


まるで戦場だ。

一応列はあるけど10列ぐらい並んでいるので、

列同士で接触しあっている。

例えるなら昔のバーゲンセールだ。


「今日は何食べるかな」


最終的には注文時に決めるけど、

今の時点である程度メニューを絞っておく。

(注文場所から離れた位置で作っているメニュー頼むと面倒だしね)

下手するとそのまま別の人に料理だけ持っていかれる。


「高木君も学食なんだ~」

「あ、うん」


メニューを見て悩んでいると斎藤さんに突然声をかけられた。

後ろを見ると山本さんも一緒のようだ。

(なんか最近よく斎藤さんに声をかけられるな)

今までだと山本さんが声をかけてきて、

その後ろからたまに喋る程度だったのに。


「一緒に行こ~」


斎藤さんに背中を押されて列に並ぶ。

なぜか山本さん、俺、斎藤さんの順番で並ばされた。

(あんまり女子の後ろに付きたくないんだけどな)

かなり詰めて並んでいるので前後の人と密着してしまう。

前後が男子ならともかく女子だと気まずい。

(ん? なんか背中に柔らかいものが)

無理矢理首だけ曲げて後ろを見てみると、

斎藤さんとの距離が異常に近い。

(もしかして斎藤さんの胸が背中に当たってる!?)

夏服なのでほとんどそのままの柔らかさが伝わってくる。

(だ、駄目だ。離れないと)

前に少し動いたら山本さんに当たった。

(ど、どうすれば)

しかも前に動いた分を詰められてしまった。

今は完全に女子二人と密着している状態だ。

そこに斎藤さんが耳元で囁いてきた。


「大きくしたの希望ちゃんに当ててるでしょ?」


(え!?)

たしかに股間が山本さんのお尻に当たっている。

(や、やばい)

とっさに後ろに下がろうとしたら、

柔らかな弾力に押し返された。


「あっ」


斎藤さんが小さく声をあげる。


「もう、いきなり後ろに下がると痛いよ」

「ご、ご、ごめん」


(どうすればいいんだ!?)

後ろには斎藤さんがいて胸が押し付けられてるし、

前には山本さんがいて股間を押し付けてしまっている。

それに意識してしまうと山本さんのお尻の柔らかさが気持ちよい。

(やばいやばい、静まれ、静まれ!!)

すると股間に何か感触が来た。


「ほら、やっぱり」


形を確かめるようになでられる。

触られるとさらに大きくなってしまう。


「高木くん、やってることは"痴漢"だよね」

「違っ、そんなつもりじゃなくて」

「痴漢はみんなそういうよね」


とっさに否定したけど、

実際に山本さんのお尻に股間を押し付けて気持ちよくなっている。

どう考えても痴漢だ……。


「積極的に股間押し付けてたよって希望ちゃんに言おうかな」

「やめて」

「痴漢されてたよって」

「本当にやめてください」

「黙っていてあげるから貸し一つね」

「……はい」


当たったのは事故と言えても、

大きくしてるのは言い訳のしようがない。

もしばれたらまた山本さんに口を聞いてもらえなくなる。


結局最後までそのままの状態だった。

山本さんから何か言われるかと思ったけど特に何もなく、

斎藤さんが約束を守ってくれたのがわかった。

(次からは並ぶ時点で気を付けよう)

そう心に固く誓う。


・・・


「島村さんといつも話してるね」

「やめなよ、友里恵」


今度は着替えの時間に斎藤さんが声をかけてきた。

山本さんが止めようとしてるけど気にしていない。


「あ、そうかな」


俺が答える前に島村さんが答えた。


「島村さん、高木君が胸見てるよ」

「えっ?」


島村さんがとっさに服で胸を隠し、俺も目をそらす。

それを見て「ほらね」と言わんばかりの目で見られる。


「ちゃんと隠して着替えないとね」


そう言われた島村さんはすぐ体操服に着始めた。


「島村さんは胸大きいからTシャツとか上に着るといいよ、ほらこんな感じ」


そう言って自分の服を指差す。

たしかに大抵の女子はTシャツを着ているので、

それが正しいとは思うけど……。


「友里恵、暑いのに強要しないの」

「男子に見られる方が問題だと思うけどなぁ」

「その、私なんて見る人いないし」

「えー、高木君は凝視してなかった?」

「そうなの?」


純真な目で見られると心が痛い。

見てたのは間違いないから何と言えばいいのか。


「高木君も困っているでしょ」

「えー、希望ちゃんも高木君にいつも見られてるよね?」

「たまたまでしょ」

「そうかな、結構視線感じるけど」


斎藤さんがじっとこちらを見る。

「知っているぞ」と言っている目だ。

下手な誤魔化しをするともっと騒ぐ、と。


「斎藤さん、ありがとう。Tシャツ着てみるね」

「うん、それがいいよ」


流れを断ち切るように島村さんがTシャツを着ることを伝えた。

(俺の楽しみが……)

いや、斎藤さんの言っていることは明らかに正しい、

俺のしていることは単なる覗きだ。

むしろ「今まで見せてくれてありがとう」と言う話だろう。

……それにしても島村さんと山本さんには気づかれず、

あまり見てなかった斎藤さんには気づかれたんだな。

斎藤さんが人の目に敏感ということだろうか。


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