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11. 女性同士の会話に混ざる難しさ

今日は照明装置の使い方を教える日だ。

本当なら俺一人で教えるつもりだった。


「あたしも説明聞いたんだから分担したほうが楽でしょ」


そう言って山本さんも教える側に回ってくれることになった。

照明装置は舞台照明とスポットライトに分かれている。


「スポットライトはON/OFFと明るさの調整しかないんだけどね」

「簡単でいいわね」


スポットライトは使い方と言えるものがないので、

本当は説明の少ないこちらを山本さんに任せたかった。


「ん? どうかした?」


多分説明する相手が佐々木さんなので嫌だったんだろうな。

なぜそこまで嫌うのだろうか。

一度真剣に話しあってみたらいいのに、とは思う。

(でもそこまで口を出されたくないだろうな)

どこまで仲が良くなればそういうことが言えるようになるのか、

人付き合いは難しいと本当に思う。


「使ってみてもいい?」

「舞台に人がいる時は使わないでね」

「どうして?」

「スポットライトを見て目が痛くなる人がいるかも」

「それぐらいみんなわかるよ」

「いや、万一があったら大変だから」

「わかりましたー」


ちょっと拗ねた感じで返事をしてスポットライトを触りだす。

(かわいいなぁ)

男の感性を狙い撃ちするかのような態度。

佐々木さんに甘えられたらきっとみんな言う事聞くだろう。

クラスで一番人気というのもわかる。

あ、もしかして男子人気が高いのが気に入らないんだろうか。

山本さんは美人だけどいまいち人気ないんだよな。

まあライバルは少ないに越したことはないからいいけど。


「これは上下にしか動かないの?」

「みたいだね」

「なるほど……」


俺が考え事をしている間もいろいろ触っていたようだ。

一通り使い終わったようなので山本さんの所に戻る。


「友里恵違う、こっちのボタンで調整するの」

「分かんないよー」


山本さんが斎藤さんに教えている。

どうも理解が難しいようで何度も説明しているようだ。


「大木さんは大丈夫?」

「……大体理解したから」


相変わらず無表情で何を考えているかさっぱり分からない。

(部室のときとぜんぜん違うなぁ)

部室の大木さんはすごく明るくて表情豊かだった。

(もう一度見たいな)

でももう口止めは終わってしまった。

あの笑顔を見せてもらえる日は来るのだろうか。


「……何?」

「あ、いや、なにか説明が必要なら俺も説明できるよ」

「特に何も」

「そう……」

「大木さんは優秀だね」


佐々木さんが一言つぶやくと山本さんが反応した。


「一つのことで優秀とか劣等とかを決めつけるのって最低」

「誰も劣等なんて言ってないけど」

「片方が優秀って言うことはもう片方は劣等でしょ」

「それこそ決めつけだよね」

「まあまあまあ、一人が優秀だからって他が劣ってる訳じゃないよ」


面倒な喧嘩になりそうなので話に割り込む。


「例えば山本さんは美人だけど佐々木さんも美人だし」

「私はー?」

「もちろん斎藤さんも大木さんも美人、劣っているのは俺ぐらい」

「そうだねー」

「ああ、うん、そうだね」

「あれ!? ここは否定してくれるところじゃ!?」

「だって、ねぇ?」

「うん、そうだよね」


普段あまり話さない佐々木さんと斎藤さんが意気投合するぐらい俺って不細工!?

もしかしてモテなかったのってそれも原因だったのか。


「あたしは高木君そんなに悪くないと思う」

「希望ちゃんはそうだろうね」

「なによ、その「あたしは」って」

「別にー」


山本さんから「悪くない」と言われたのが嬉しくて、

つい大木さんの評価も聞きたくなった。


「お、大木さんはどう思う?」

「大木は男に興味ないでしょ」

「なんで山本さんが答えているのかな?」

「聞いても答えないだろうから答えてあげたのよ」

「高木君なんでどもってるのー? 実は本命?」


変にどもったせいで斎藤さんからツッコミを受けてしまった。

しまったなぁ、大木さんからは目立たせないでと言われているのに……。


「え、本命って……?」

「説明の続きしないの?」

「そうだった、説明の続きしないと」


よかった、大木さんの方で本筋に戻してくれた。

つい気になって聞こうとしたのは失敗だったな。


「山本さん、一緒に斎藤さんに説明しよう?」

「あ、うん、わかったけど……」

「じゃあ、ここ教えて、途中までしか動かないんだけど」

「ああ、他の装置と干渉するから止まるんだよ、先に他の装置動かせば大丈夫」


斎藤さんがさっそく試しに操作し始めた。

(けっこう怖い物知らずだよな)

山本さんとか恐る恐る触る感じだったのに、

斎藤さんは躊躇なく触ってる。


「出来たー」

「よかった」

「ほら、やっぱり私の言う通り理由があったよ」

「えー、先生そんなこと言ってた?」

「先生は言ってなかったけど試しに動かしてるときに気づいたんだ」

「ならあたしに教えておきなさいよ」

「いや、たまたま気づいたから……」

「大事なことは共有するの、分かった?」

「はい……」


たしかに気づいた時点で隣にいたんだから伝えればよかった。

原因調べることに夢中になりすぎていた……。


「希望ちゃん、お母さんみたい」

「山本おばあちゃん、私にも使い方教えてくれる?」

「お母さんじゃないし、佐々木のおばあちゃん扱いはもっとおかしいでしょ!!」

「お似合いかと思って」

「あたしがおばあちゃんならあんたは若作りでしょ、化粧臭いし」

「なんですって」

「ほら、言い方もおばさんくさい」

「ストーーップ、俺が悪かったから喧嘩しないで」


やばい、大木さんの目が怖い。

さっさと進めろよと言っている。

といってもまずは喧嘩になりそうな話題から離れないと……。


「にしてもさー、この部屋暑いよね」

「たしかに暑いわね」

「人が多いからだろうね」

「明らかに定員オーバーよね」


斎藤さんが話題を切り替えてくれたのでとりあえず全力で乗っかる。

なんとかこれで進められるかな。


「定員オーバーみたいだし私はもう覚えたから先に帰るね」

「あ、そうなの?」

「うん」

「私もこっちの照明は使う予定ないし帰るね」

「お疲れ様」

「うん、お疲れ様」


そう思ったのもつかの間、

大木さんと佐々木さんが話の流れに乗って帰るそうだ。

ちょっと残念だけど引き止める理由もない。

覚える必要があるのは斎藤さんだけだし。


人が減ってスペースに少し余裕が出来る。

(大分距離が近かったので少し離れれば暑さも和らぐかな?)


「暑いよー」

「人減ったでしょ」

「それでも暑いー」


斎藤さんがスカートをパタパタさせて風を送り込んでいる。

斎藤さんは装置を使うために一人だけ座っているので、

そういうことをするとスカートの中が見えそうになる。

(あ、今ちらっと白いものが見えたような)

駄目だと思いつつもつい目をやってしまう。


「希望ちゃんは暑くないの?」

「暑いに決まってるでしょ、あ、友里恵何やってるの」

「風を送り込んでる」

「はしたない真似止めなさい」

「見る人いないよ、あ、高木君がいたか」

「み、見てないよ」

「高木君?」


冷ややかな笑顔のおかげで俺の体感気温は一気に下がった。

でも目の前でパタパタされたら男なら誰だって見るよ。


「もう、さっさと終わらせましょ」

「はーい」

「わかった」


改めて教え始めると、

ほとんど教え終わっていて疑問点を潰す程度だったので、

あっさり終わって解散となった。


それにしても顔が劣っていると言って同意されたのはショックだった。

きっと「そんなことないよー」って言われると思ってた。

(……改めて考えると自分の顔に自信を持っていたのかな)

カッコよくないとか美形ではない自覚はあったけど、

そこまで下でもないと思っていたんだな。

でも山本さんに「悪くない」って言われたのは嬉しかった。

顔の形は変えられないけど頑張れるところは頑張ろう。

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