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10. 役割分担

次の日


学校にいてもつい大木さんを目で追ってしまう。

(あの小さな口の中に俺のが……)


「今日はずっと大木さんを見てるけど何かあったの?」

「え、あ、いや、ちょっと」


島村さんに声をかけられて動揺してしまった。

(そんなに見てたっけ!?)

意識していなかったけどずっと見ていたらしい。


あわてて島村さんの方に振り向くと目が合った。

(相変わらず美人だ)

昨日のような笑顔もいいけど、

今のように角のない力の抜けた表情も良い。

(すごく落ち着くんだよな)

ついじっと見てしまう。


「どうしたの?」


じっと見ていたので不審に思ったのか首をかしげている。


「ちょ、ちょっといろいろあってね」

「そうなんだ」


放課後は打ち合わせだ。

今日は全員揃っている。


「じゃあ役割分担を決めようか。事前に考えてきた内容教えてね」


大木さんを近くで見るとさらに意識してしまう。

今日はボタンをちゃんと全部閉めてるんだな、残念。


「あんまり考えることはしたくないかなー」

「友里恵いつもそんなこと言ってない?」

「得意な人にやってもらえばいいんだよ、ね、高木君?」


なぜか立って俺の方に来て前かがみでそう言ってきた。

(うわっ、ボタンがふたつ外れてるから胸の谷間が……)

大きくて柔らかそうで思わず凝視してしまう。


「高木君、友里恵の胸ガン見しすぎ」

「あああ、ごめん、つい」

「あ、うん……」


やってしまった、つい見てしまった。

山本さんに指摘された上、

斎藤さんは嫌そうにしてる……。


「男の子だから仕方ないよ」

「なにが仕方ないのよ?」

「誰かみたいに貧相な胸なら見ないかもね」

「喧嘩売ってるわよね?」

「貧相だって自覚あるのね」

「待って待って、俺が悪かったです。だから喧嘩しないで」


二人は喧嘩を始めるし斎藤さんは悲しそうにしている。

でも胸を見たのが悪いんだけど、

あれを見ずに我慢しろって無理だよ。


「と、とりあえず役割分担決めようか」


・・・


「当日のメインの照明機器操作は大木さんと斎藤さん、外にあるスポットライト操作は佐々木さん、状況を見て指示をだすのは山本さん、その他の雑用は俺だね」

「いいんじゃない」

「妥当な所ね」

「……うん」

「高木君が楽そうー」


一応大筋の役割は決まった。

とはいえただ決めただけで実際にどんな感じになるのかは分かっていない。


「照明装置を実際に見てみたいな」

「そーだね、見てみたい」

「見たいけどまだ早くない?」


佐々木さんの意見に珍しく同意する斎藤さん。

山本さんを見ると同じ意見のようだけど安易に同意したくないようだ。


「わかった、先生に交渉してくるので結果はまた明日」

「お願いね」

「希望ちゃんも行くんじゃないの?」

「……行くわよ」


部屋を出た後、山本さんがこちらをキッと睨む。


「交渉事はあたしがするって言ったでしょ」

「ごめん……」


少し怒りながら指摘してくる。

(そうだった、すっかり忘れてた)


「先生とはあたしが話すから」

「わかった」


職員室に到着した。

山本さんが先頭に立って担当の先生のところに向かう。


「照明機器の操作を教えてもらいたいです」

「なんだ?まだ早いだろ?」

「どういうものか体験してみないと想像がつきません」

「照明なんて電源ONOFFする程度でややこしいことなんてない」

「慣れてる人はそうかもしれませんが素人には難しいです」


強面で有名な体育の先生。

体育館の設備に関しては、

この先生に許可を取ったり使い方を教えてもらったりする必要がある。

ただ今の感じだと明らかにやりたくなさそうだ。

多分いろいろ調整しないといけないんだろう。

気持ちはわかる。

そんなに難しくないというのも多分正しいだろう。

でもこちらとしては未知の内容なので、

早めに知っておきたいのもわかってほしい。


山本さんは毅然とした態度で一歩も引かない。

まっすぐ先生を見ている。

先生はため息をついて予定表らしきものを取り出した。


「わかったわかった、明後日の放課後な、ちょうどスポットライトも出してる」

「わかりました、それでお願いします」


さすがだ。

あの状態の先生と約束を取り付けた。

俺なら引き下がっていたに違いない。


「山本さんのおかげだね」

「まあね」


なんでもないような顔をしてるけどすごいことだ。

(この交渉力があったからやり直し前も上手くいったんだな)


次の日、打ち合わせの場で予定が決まったことを伝えた。


「明日用事があるんだけど」

「……私も」


それを聞いて佐々木さんと大木さんが、

予定が入っていると言ってきた。

特に佐々木さんは少し怒っている。


「どうして相談せずに決めたの?」

「それは……」


山本さんは悔しそうな顔をしている。

たしかに即答したのは山本さんだけど、

俺も一緒にいたんだから「予定聞いてからで」と言えたはずだ。

(やってもらっていたから他人事気分だったんだ)

太鼓持ちでついて行ったわけじゃないのに何してたんだ。


「もう一度交渉してくる、1週間後でいい?」

「いいよ」

「……いい」


一人で先生のところに向かおうとするので、

俺も急いで後を追う。


「失礼します、先生昨日お願いした照明設備の説明1週間後に変更って出来ますか?」

「はぁ!?もう明日のつもりで準備してるぞ」

「どうしても来れない人がいて……」

「事前に調整しておけよ、ったく」


先生が予定表を見ている。

よかった、変更してもらえそうだ。

これからは予定を聞かれた時は即答しないようにしないとな。


「駄目だな、一ヶ月ぐらい先になる」

「そんな、どうしてですか!?」


山本さんの口調が荒くなる。

俺も言葉を発していたらそうなっただろう。


「体育館の調整と俺の予定と噛み合わない。明日がたまたま噛み合ったんだ」


先生が申し訳無さそうに答える。

(きっと本当にどうしようもないんだろうな)

山本さんにもそれが分かったらしく険しい表情をしている。

(どうすればいい? 何か手はないか?)


「1週間後に設備だけ借りることは出来ますか?」

「ん、ああ。設備だけならいけるがお前たち教えてほしいんだろ?」

「明日俺がしっかり教えてもらって来週は俺からみんなに教えます」

「んー」


この話を聞いて先生が考え込んでる。

山本さんは驚いた顔をしているけど当たり前か。

なんの相談もしてないのに後ろから口出されたんだから。


「触っていいという部分以外は触らない、できるか?」

「はい!!」

「ならいい。どうせ大した操作はないからすぐ覚えられるだろう」

「ありがとうございます!!」

「なら明日は高木だけか」

「そうでs「あたしも一緒に聞きます」


山本さんが割り込んできた。

先生的にはどちらでも構わないようですぐ了承された。

職員室から出てすぐ山本さんに謝る。


「山本さんごめん。相談なく進めちゃって」

「……いいけど、高木君が教えるの?」

「俺が言い出したことだからね」


山本さんに迷惑をかけることじゃない。

さっそく待ってもらっていた3人に先程の内容を伝える。


「わかったー」

「……うん」

「高木君が教えてくれるなら安心だね」

「誰なら安心できないって言うの?」

「さあ、誰だろうね」

「はい、今日はここまでということで」


ギスギスしてきたので早めに解散しよう。


次の日の夕方


山本さんと一緒に先生から使い方を教えてもらう。


「簡単って言った割にけっこうややこしくない?」

「たしかにボタンが多いよね」


ズラッと並んだボタンやボリューム。

一つ一つは簡単でも数があると覚えられない。

必死に機器を書き写してそれぞれのボタンやボリュームの意味を書いておく。


「ああ、高木、照明一部使えないからな」

「え、そうなんですか?」

「だから勝手に触るなよ」


使えないと言われた部分は照明の奥の方だった。

舞台端から出てくる時に使いそうな部分で、

使えないと困りそうだ。


「計画狂うじゃない」

「そうだね」


使えないものは仕方ない。

それ以外は使い方を教えてもらった。


「教えることは出来そうか?」

「大丈夫だと思います」

「そうか、くれぐれも教えた部分以外はさわるなよ」

「わかりました」

「じゃあ気をつけて帰れよ」

「「ありがとうございました」」


聞いた感じだと使い方は特に問題はなさそうだった。

一部照明が使えないのが痛いかな。


「ちゃんと理解できた?」

「使い方はOKかな、ボタン配置はメモ見ながらだけど」

「あたしもそんな感じ」


意外と機嫌は悪く無いようで声のトーンが高い。

こうして普通の会話が出来るのが嬉しい。

(やり直し前はろくに会話もできない状況だったからな)

本当にやり直せてよかった。


「じゃあ、あたしは帰るね」

「また明日」


お別れの挨拶ができるのもちょっと嬉しい。


「あれ? 高木君?」

「また会ったね」


帰り支度をするために教室に戻ると島村さんがいた。


「照明設備の使い方教えてもらってたんだ」

「そうなんだ、大変だね」

「そうそう、ちょっと照明が使えないって話があって」


島村さんに事情を説明する。

最初は普段通りの笑顔だったけど、

話を聞いていくうちに何か考える表情になった。


「それって本当に文化祭まで使えないの?」

「え?」

「今使えないだけってことはない?」


たしかに使えないとしか言われてなかった気がする……。


「高木君、早合点すること多いから確認した方がいいよ」


既に帰宅途中だった山本さんに追いついて事情を説明し、

すぐに先生のところに行く。


「今月中には治るぞ」

「聞いてません」

「ああ、言ってなかったか」

「困ります、きちんと連絡してください」

「すまんすまん」


すごい、強面の先生に連絡ミスを追求して謝罪させてる。

あんなにはっきり「先生が悪い」って感じで言うのは難しい。


「次からは気を付けてください」

「わかったわかった」


先生に念押しの注意をして職員室を出る。


「高木君ありがとう、全然気づかなかったよ」


さっきまでとは一転して柔らかい表情で話してくる。


「いや、俺が気づいたんじゃなくて島村さんに指摘されたんだ」

「島村……?」

「帰る時にたまたま会って話をしてたら言われたんだ」

「ふーん」


なんか一気に機嫌が悪くなったような。

(もしかして俺が島村さんと話をしたから?)

なんてそんなことある訳ないか。


「島村にお礼を言っておいた方がいいわね」

「あ、俺から言っておくから大丈夫」

「あたしが忘れてたのを指摘されたんだからあたしがお礼言ってく」


(まあそういうならいいか)

別に二人でお礼を言ってもかまわないだろうし。

山本さんはその後先生への文句をずっと言っていた。

ただ「いつもあの先生は」とか「何度言っても直らない」とか、

先生の母親みたいな文句の言い方なので正直面白かった。

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