本屋に戻る途中で大木さんを見つけた。
私服で弟っぽい子を連れている。
丁度いいからどこかに立ち止まった時に声をかけて、
次の打ち合わせには来てもらえるようお願いしよう。
二人の後を追って立ち止まるのを待つが、
一向に立ち止まらずどんどん人のいない方向に向かっていく。
しばらくして周りを森に囲まれた寂れた公園に入っていった。
(こんな場所に公園あったんだ)
森の中にあって外からはほとんど見えないし
公園の中は草がそこら中伸び放題で手入れされていない。
公園というより廃墟と言った方がよさそうだ。
これじゃ子どもが遊ぶどころか誰も立ち入らない。
犬の散歩でも草が邪魔だろう。
(手ぶらでこんな所に来て何をするんだろう?)
さらに公園の奥にある休憩所っぽい建物に入っていった。
こんな人気のない建物に何の用だろう?
建物に近づくと中から話し声が聞こえた。
「~~~」
「~~~」
何か話しているけど聞き取れない。
中を覗いてみると、
弟っぽい子が背もたれのないベンチに座っていて、
弟っぽい子の正面には大木さんが立っている。
休憩所はベンチがいくつか置いてあって、
それらをすべて覆うような大きい屋根がある。
ここまではよく見る休憩所だ。
そしてその周囲が1m程度の囲いで覆われている。
中にいる人が遠目に見えないようにしているんだろう。
ただ近づけば中が丸見えの構造だ。
逆に言うと外も丸見えなので、このままだと気づかれる。
とりあえずしゃがんで囲いに隠れる。
「~~」
また声が聞こえたので、
休憩所入り口付近まで移動してそこから覗く。
座っている弟っぽい子の前で大木さんが跪いていた。
何をしているか見えないけど、
弟っぽい子のリアクションはもしかして?
これって警察に……でもそんなことしたら大木さんは……。
弟っぽい子の顔を見ると喜色満面だった。
少なくても嫌がってる様子はない。
うん、一般的な男性の立場として言うなら、
あんな美人にしてもらえるのはご褒美だろう。
もし性別が逆だったら同じ状況でも速攻通報だけど。
・・・
「~~~」
また何かを話しているけど聞き取れない。
ただ大木さんがあんなに喋っている所を見るのは初めてだ。
すごく優しく慈しむ声で心が穏やかになる。
深窓の令嬢のあだ名に相応しい声だと思う。
今はただのショタコンにしか見えない。
声だけしか聞こえないけど俺の股間も大きくなってきた。
「~~~」
相変わらず何か話しているけど小さくて聞こえない。
しばらくすると大木さんが立ち上がった。
何かしているようだ。
見える方向に回るために入り口を通ろうとした時、
足元にあった缶を蹴っ飛ばしてしまった。
「誰!?」
その音で大木さんがこちらに振り向いた。
見るとスカートがめくれていた。
当然スカートの中も見えたので、
少しだけ動きが止まってしまった。
「高木君……?」
「あっ、やば」
急いで逃げる。
すごいところを見てしまった。
でもまずい、完全に見られてしまった。
間違いなく明日言われるよな。
理由を説明して納得してくれるだろうか……。
次の日
「高木君、ちょっと文学部の部室まで来てほしい」
「……わかった」
放課後、大木さんに声をかけられた。
周りの人も若干驚いている。
大木さんが男子に声をかけるのは非常に珍しい。
それも文学部の部室に呼ぶというのは今までにないことだ。
文学部は大木さんと幽霊部員しかいないことで有名で、
ほぼ大木さんの個人部屋になっているとの噂だ。
それなのに部室を持っているので、
部室のない他の部活から恨み言を言われていると聞く。
「大木が誰かに話しかけるなんて珍しいな、明日は雨か」
「照明班の話だよ、昨日打ち合わせに来てなかったから」
「そういえば照明班だったな」
呼ばれた理由はきっと昨日のことだろう。
周りには適当に誤魔化しておく。
「高木君、昨日どうしてあんな所にいたの?」
文学部の部室について開口一番、本題を切り出された。
昨日聞いた優しい声ではなくかなり冷たい声だ。
「照明班の打ち合わせに来てなかったからその話をしようと思って」
「それでつけてきたの?犯罪者一歩手前ね」
かなり怒っているようだ。
まああんな所見られたんだから当然か。
……というか向こうの方が犯罪だと思うんだけどな。
「人の秘密を覗いて満足?」
「覗いてごめん」
「それだけ?」
怖い顔をして睨んでいる。
謝る以上の何をしろっていうんだろう。
土下座しろとか?
まあその程度で気が済んでくれるならいいか。
空いているスペースに動いて土下座する。
「本当に申し訳ありませんでした」
「ちょ、ちょ、ちょっと何してるの!?」
「謝り方が足りないという話じゃ?」
「そんなこと言ってない!!」
いつもの無表情が崩れてあわあわしている。
声もけっこう高くなっているので、
普段教室で喋っている時は意図して声を低くしているのかな?
「もういい、謝るのはもういいから!!」
「よかった」
よく分からないけどとりあえず許されたらしい。
土下座を辞めると大木さんも落ち着いたらしく、
声のトーンが低いものになる。
「で、わたしの秘密を見た口止め料はどうすればいいの?」
「口止め料……」
なにか願いを聞いてくれるってことかな。
それならちょうどいい。
「なら照明班の打ち合わせに出てほしい」
しごくまともなことをいったつもりだけど、
大木さんは最初きょとんとした顔になりすぐに怖い顔になった。
「それだけ?」
「え……、もちろん最後まで照明班の仕事してほしいけど」
もちろん打ち合わせに出るだけで終わられては困る。
最後まで仕事を全うしてほしい。
そう思ったのだけど大木さんは怖い表情のままだ。
もしかして要求が高すぎる?
でもこれは元々やるべき仕事だし文句言われても困る。
俺も対抗して厳しい顔をして、
しばらくその状態のままだった。
「わかった。最後までちゃんとやる。それでいい?」
「いいよ」
怖い表情は変わらないが返事は了承だった。
よかった。いろいろあったけど当初の目的は達成できた。
特に最後までちゃんとやってくれると言ってもらえたのは大きい。
「じゃあ用事は終わったみたいだし帰るね」
これで全員参加になるから役割分担も決められる。
参加していないうちに役割を決められるのは嫌だもんな。
さっそく明日に打ち合わせしよう。
「あ、明日打ち合わせするから放課後宜しくね」
「高木君、ちょっとこっちに来てくれない?」