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2. 後悔の起点

山本希望、ショートボブで少し癖毛。

普段目を細めているけど開くと綺麗な二重。

人形のように整った顔で、

見た目かわいい感じなのに非常に気が強い。

ただ胸は小さいけどお尻は大きいのを気にしてるとかなんとか。

いくつかある女子グループの中心格で影響力が強い。

卓球部に入っていて全国大会を目指しているらしい。


自分の意志がはっきりしていることや

会話のレスポンスの良さがあって彼女が好きだった。

彼女もそれなりに会話をしてくれていた。

そう、彼女を怒らせた文化祭の準備の時までは。


「どこ見てるの?」


山本さんを見ていると、島村さんに声をかけられた。

よほどボケッと見ていたようだ。


「いや、時間割が何だったかなって思って」

「そうなんだ」


島村さんはやり直し前の高校時代も、

こんな感じでちょくちょく声をかけてくれた。

俺の行動について疑問に思うことが多いらしい。

素朴な質問って感じで声をかけてくれるので嬉しい。


ただ相手が島村さんのような美人相手だと

大分意識してしまって上手く会話が続けられない。

例えば会話中に相手の顔色とか声のトーンが変わると、

途端に今までの行動を思い返してしまう。

(さっきの話題は失敗?)とか(言い方が悪かった?)とか。

会話の目的があるならまだなんとかなるけど、

雑談になるとまったく駄目だ。


今回も会話の流れが止まってしまった。

(何か会話を続けるネタはないだろうか)

そういえば以前の記憶だと机の中は……。

机の中を漁ると漫画が出てきた。

(やっぱり入れっぱなしだったか)


「島村さんも漫画読む?」

「あ、えーと、うん、読むよ」


過去の記憶をたどって漫画の話を振ってみたけど、

なんとなく歯切れが悪い。

(あれ? 漫画は嫌いだったっけ?)

でもやり直し前は普通に漫画借りに来てたし、

嫌いってことはないと思うんだけどな。


「興味があったらでいいんだけどこれ読んでみる?」

「ありがとう、借りるね」


一応借りてくれたけどやっぱり反応が微妙だ。

漫画以前に一方的に話す感じになったのが駄目だったのかも。

難しいなぁ……。


とりあえず予鈴が鳴ったので授業の準備だ。

準備をしつつ過去を思いだす。


そういえば高校時代が一番女性との交流多かったんだよな。

大学時代は男子:女子の比が99:1ぐらいだったので、

そもそも会話すらろくに出来なかった。

社会人になってからはほとんど既婚女性ばかりでどうしようもなかった。


高校時代が一番彼女が出来る可能性が高かったし、

しかも美人がめっちゃ多かったんだよな。

クラスの女子20人中6人が美人だった。

まあその6人どころか誰とも付き合えなかったけど。


ただ今にして思うとものすごく受動的だったな。

誰かから告白されるのを待ってるだけで、

自分から告白することがなく好感度を上げる努力もしていなかった。

そんな人間を好きになる女性なんていないだろう。

これからは精一杯努力してみよう。


しかし一番頑張らないといけないのはそれらではない。


「文化祭の役割分担が決まりましたー」


これが後悔の始まりとなる問題だ。

文化祭で演劇をやることになり、

俺がいつも一緒にいる友だちが脚本や主演をしていた。

俺も何かしないといけないと思い照明班を希望し、

ちょっとしたことで責任放棄してしまった。

その結果、山本さんを怒らせて関係断絶に至った。

後でどれだけ後悔したか分からない。

今回こそ最後まで責任をもって行うんだ。


「文化祭まで各々頑張って下さいー」


照明班は5人。やり直し前と同じ面子だ。

俺、山本さん、斎藤さん、大木さん、佐々木さん。


斎藤さんは前ぱっつんで少しウェーブのかかったロング。

猫っぽい感じの顔で愛想のいい子でスタイルが良い。

女子グループとしては山本さんのグループで、

大抵山本さんの後ろに引っ付いている。


大木さんはクラスで最も長い髪をしている。

今まで切ったことがないという噂だ。

クールな顔立ちで物静かでいつも一人で本を読んでいるので、

男子の中では深窓の令嬢とあだ名がついている。

女子グループに属さない一匹狼的スタンスらしい。


佐々木さんはロングストレートで綺麗な髪をしている。

非常に整った顔立ちでスタイルもいい。

クラスで一番どころか学校で一番ぐらいの美人と言われている。

女子グループとしては山本さんとは別で、

島村さんのいるグループのリーダー的存在だ。


照明班は女子ばかりの中で男子が一人。

元々俺が一番目に照明班を希望し、佐々木さんが二番目だった。

その後に山本さんと斎藤さんが希望した。


山本さんと佐々木さんはあまり仲が良くないらしいのに、

なぜ山本さんがわざわざ照明班に希望したのかは分からない。

ただ二人が一緒なのを見て他の人が避けたため、

最後まで5人目が決まらず休んでいた大木さんが割り当てられた。


結果的に男子一人となってしまったので、

最初は俺がまとめ役になった。

これはやり直し前も同じ。

そして誰が何をするかの話を進めていくと、

やり直し前と同じように山本さんから文句が出た。


「あたしたちも考えがあるんですけど」


やり直し前はこの話に対して、

「意見があるなら自分でやるといい」と言ってしまった。

多分山本さんにいいとこを見せようと思ったのに、

当の本人に否定されて動揺したんだと思う。

山本さんにやらせて、

「無理でした、手伝ってください」と言ってくるのを期待していたんだ。

今考えるとしょうもないプライドだ。まさに子ども。


そして山本さんの性格を考えればわかることだった。

そんなことを言われて「無理でした」と言うわけない。

プラン立案や他班との打ち合わせや先生との交渉をほぼ一人でやりきったらしい。

他に佐々木さんや大木さんがいたはずだけど、

二人も手伝わなかったらしい。

俺も結局何もしないまま本番当日を迎えて、

開始時に照明のコンセントを入れる役割を頼まれた。

きっと何もないのはかわいそうだと思ったんだろうな。


翌年以降、山本さんが文化祭に積極的になることはなかった。

また俺に対しても一切関わりを持とうとしなかった。

キャンプの時に一緒の班になった時は先生に猛抗議していた。

もちろん班分けに抗議しても変わる訳がない。

なので当日は一緒の班の女子全員が休んだ。

他の班が女子と一緒に料理を作っている中で俺の居る班だけ男子のみ。

俺は自業自得だからまだしも他の男子には悪いことをした。


「ねぇ?聞いてる?」


(しまった、返事してなかった)

みんな不思議そうな目で俺を見ている。

俺は変わるんだ。きちんと責任を持ってやりとげよう。


「ああ、ごめん。もちろんバンバン考え言ってほしい」

「なら言わせてもらうね。高木君が計画の立案をするよりあたしがやったほうが良くない?」

「たしかにそうかも」

「あと、他班との打ち合わせもあたしのほうが向いてる」

「それは一緒にやったほうがいいかな、一人だと大変だと思う」

「足手まといはいらないんだけど」

「そこは頑張るのでなんとか」

「まあいいけど」


よかった、やり直し前のようなことにはなっていないな。

でもそれだけじゃ全然駄目だ。

誰かに負荷を集中させて達成できても、

それは成功じゃない。

きちんと作業を分散してみんなで頑張って達成する。

それを目指すんだ。


「希望ちゃんが折れるの珍しいー」

「折れたんじゃない、配慮してあげたのよ」

「……そんな配慮できるのね」

「何?喧嘩売ってんの?」

「喧嘩なんて売ってない、事実を伝えただけよ」

「事実と妄想の区別ついてないんじゃないの?」

「ストーップ、なんでいきなり喧嘩になってるの!?」

「売られた喧嘩は買うでしょ」

「事実を告げたら怒り出しただけよ」


そんな決意もむなしく、

あっという間に険悪なムードになった。

山本さんはある意味いつも通りだけど、

佐々木さんはいつも男子に見せている姿と全然違う。

仲が悪い相手だとこんな態度になるのか。

これは注意して進めないと上手くいかないぞ。


「今日はここまでにしてまた明日集まろう」

「えーめんどくさい」

「友里恵?」

「ご、ごめん、希望ちゃん」

「自分が何の担当したいかとか考えておいてね」

「はーい」

「わかった」

「わかりました」

「……うん」


(一応全員返事してもらえたか)

聞いていた通り、山本さんと佐々木さんは仲が悪い。

作業を組ませるのは避けた方がいいだろう。

それ以外で明確に仲が悪そうな組み合わせはなさそうなので、

人間関係的にはそこだけ注意しておけばいいかな。


ただ気になる点がある。

大木さんは文化祭に興味がなさそうだ。

さっきも最後ぐらいしか発言していない。

なんとか興味持ってくれると嬉しいんだけど、

こちらが一歩でも間違えると強制になってしまう。

(どうやったら自分から興味を持ってもらえるのだろうか)


……全然方法が浮かばない。

こういう時、自分の共感性の低さが嫌になる。

相手の感情を想像できないから妥当な方法も考えられない。

でも嘆いていても仕方ない。


やらずに後悔するのはもうやめたんだ。

やってみて失敗したら改善していけばいい。

仮に改善できなかったとしても責任放棄するよりずっといい。

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