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後悔があるとしたら
rpmカンパニー
現実世界青春学園
2024年08月19日
公開日
88,878文字
連載中
後悔してること、ありますか?

やり直す機会を与えられた彼。
でも特殊な力などなくやり直し前の知識しかない。
それでも必死に後悔しないように頑張る彼の行動は、
女子たちの心に届いて変化をもたらしていく。
だけどその変化は良いものなのか悪いものなのか。

1. 二度目の高校生活のスタート

「大丈夫ですか!!しっかりしてください!!」


何か遠くで声が聞こえる。

あれ……、何があったんだっけ?

たしか道を歩いていて、

対向車線の車が歩いているこっちに向かってきて……。

ああ、そうだ。それで避けようとしたんだ。

そしたら避けた方向に車が曲がってきて……。


ということはきっと轢かれたんだろうな。

あ、なんか映像が見えるぞ。

死ぬ直前は走馬灯を見るって言うけど本当なんだなぁ。


これは社会人5年めで大失敗した時のやつ、

あの時は本気で会社を辞めるか悩んだなぁ。

あ、これは入社直後に転勤を命じられた時のやつだ。

いきなり引っ越しする羽目になって大慌てだったなぁ。

これは……高校時代か。あの時が一番いろいろあったなぁ。


良いことも悪いこともいろいろあった。

総じていえば良い人生だったと思う。

ただ結局彼女いない歴=年齢だったなぁ。

大学生のころに告白も何度かしたけど全て断られた。

社会人になってからはそもそも女性との交流自体なかったから、

告白以前に好きになる相手もいなかった。

風俗とかも怖くて行かなかったから結局童貞のままだった。

一度ぐらい経験してみたかったなぁ……。


「後悔したことはあるかい?」

「突然出てきたあんたは誰だよ」

「僕? そうだね、僕は神の使いだよ」


夢の中でいろいろ思い返していると、

神の使いとかいう少年が声をかけてきた。

こんな記憶あったかな?

さすがにこれほど怪しい人間は忘れないと思うんだけど。


「君の記憶の中の人物ではないよ」


口に出した覚えがないのに返事された。

年下っぽいのになんか偉そうだ。


「なんだ、夢か」

「いやいやいや夢じゃないって言ってるだろう?」

「じゃあなんだってんだよ」

「生と死の狭間」

「は?」

「君の後悔をやり直させてあげようという神の慈悲さ」

「はぁ」


頭がおかしくなったんだろうか。

自分の夢の中なのに言ってる意味が分からない。

後悔をやり直すってなんだよ。

童貞捨てさせてくれるとか?

それなら美人の女神連れて来いよ。

男じゃどうしようもないだろ。


「後悔したことはあるだろう?例えば高校生のころに」


高校……。後悔……。

そうか、たしかに1つだけ大きい後悔がある。

童貞なんかよりはるかに大きい後悔が。


「お、浮かんでるそれにしよう。じゃあ第二の人生頑張ってね」

「は? 何言って」


いきなり世界が回転しはじめた。

平衡感覚がわからなくて目が回る。


・・・


目覚ましが鳴る音がする。

無意識に目覚ましを止めて目を開く。


「あれ? こんなに遠くが見えたっけ?」


普段より明らかに遠くが見える。

とはいえぼやけるのは変わらないけど。

(というか、ここどこだ?)

俺はたしか事故にあって、変な夢を見て……。


あわてて周りを見る。

ぼんやりとしか見えないけど、

あきらかに室内だ。

無駄に大きいベッド、

無駄に大きいブラウン管のテレビ。

本棚には漫画がぎっしりで、

壁にはゲームのポスターが貼ってある。

どう見ても実家に住んでいた頃の俺の部屋だ。

手近にあった週刊誌を見てみる。

高校一年の時の日付だ。


「え?本当にやり直し?」


てっきり俺の夢の中の話だと……。


「いや、違う。これが夢なのか」


きっと過去に戻った夢を見てるんだ。

今までにも明晰夢は何度か見たことがある。

こんなに意識がはっきりしているのは初めてだけど。


「起きたかーー!!」


下から親の呼ぶ声が聞こえる。

懐かしいな、いつも1階から呼んでたんだよ。

眼鏡はたしか枕元に置いていたはず。


眼鏡は懐かしいフレームだった。

そうそう、昔はこんな眼鏡してた。

ああ、遠くが見えるのは当時は視力が多少良かったのか。

でも夢の中なのに眼鏡が必要って面倒だよな。

どうせなら視力を上げられないかな?


念じてみるけど特に視力は上がらない。

あれ?明晰夢の時って念じたら大体いけると思うんだけど。

まあたまに願いが微妙に叶わないこともあったかな。

夢の中で空を飛びたいって願ったのに、

本当に少し浮くだけだったことがあったんだよ。

夢の中で必死に高く飛べない理由を考察していたけど、

起きた後で考えると前提が明らかにおかしかった。

なんだよ、気力が足りないから高く飛べないって。


「はよご飯食べんかーー!!」

「わかった!!」


夢の中なのに怒られてしまった。

さっさと下に降りるか。


「おはよう、兄ちゃん」

「兄貴また寝坊かよ」

「おはよう、寝坊じゃないぞ、ちょっと考え事してただけだ」


弟二人がすでにキッチンにいた。

もう既に半分以上終わっている。

相変わらずふたりとも食べるのが早い。


「ほら、さっさと食べ」


母親に急かされてご飯を食べる。

(朝からしっかりご飯を食べるのなんて久しぶりだな)


「6月10日、今日の運勢は……」


テレビでは占いをやっている。

今日は運勢1位らしい。

ご飯を食べ終わった後は、

着替えて自転車に乗って学校に向かう。


「うわ、なつかしい。まだ取り壊されてない」


今はもうなくなったでかい本屋がある。

よく学校帰りに立ち読みしてたんだよな。

大学に行ってすぐぐらいに潰れてしまった。

おかげで本を買うのに苦労することになったんだよ。

逆に学校近くのスーパーはまだ見る影もない。

卒業して数年後に出来たから仕方ないよな。

在学中にあれば便利だったのに。


昔を懐かしみながら学校についた。

ただ問題があった。下駄箱の配置が分からない。

こんな細かいことを覚えているわけがないし、

間違えると非常に面倒だろう。

しばらく悩んでいたが下駄箱の命名規則に気づいたので、

なんとか自分の上履きを見つけることができた。

3年間同じクラスメイトという特殊な学校だったから、

クラスメイトの名前を大体覚えていたのが幸いだった。


(それにしてもおかしい、夢の中でこんなことに悩むか?)

こういうどうでもいいシーンは大体スキップされるものだと思う。

疑問を感じつつ教室に向かう。


教室にはもう大勢の人がいた。

(だいぶ遅くなってしまった)

ただそのおかげで席が埋まっているので、

自分の席を思い出すことが出来た。


「おはよう、遅かったな」

「おはよう、寝坊したんだ」


自分の席に向かう途中で友達の谷口が挨拶してきた。

(久しぶりに顔を見たな)

学校を卒業して遠くに引っ越してしまったので、

大分会っていない。

最後に会ったのはもう何年前だろうか。


「おはよう、高木君」

「おはよう」


席に着くと後ろの席の島村さんが声をかけてきた。

(夢の中でも美人だなぁ)

ポニーテールでぱっちり一重の女子だ。

肌が小麦色で彫りの深い顔をしている。

中東系の顔と日本人の顔のいいとこ取りで、

いつ見ても美人だと思う。


小学校のころはよく一緒に遊んでいた記憶があるけど、

中学校が別だったので交流がなくなってしまった。

高校で同じクラスになった時は驚いたし、

かなり美人になっていたので、

昔のように声をかけることが出来なかった。

今も多少会話はするけどそれだけ。

小学校で仲が良かったなんて言われても困るだろうし、

もしかしたら俺が仲良かったと思っているだけかもしれない。


「いつもより遅かったね」

「寝坊しちゃって」

「そうなんだ」


柔らかな笑顔で返事を返してくれる。

もっと話したいと常々思うのだけど、

何も話題を出せなくて終わってしまう。

夢の中ぐらい上手に会話出来てもいいものだろうに。


「おはよー」

「おはよう、希望遅かったね」

「朝練だよ」


遠くで声がしたのでそちらを見ると、

女の子が入ってきて他の子と雑談していた。

俺が驚いて固まっていると、

その女の子と目があって少し微笑んでくれた。


その瞬間、これは夢じゃないと理解した。

だってあれだけ怒らせたんだ。

夢の中とはいえ微笑んでくれるなんてありえない。


山本希望、彼女を怒らせて関係断絶までされた"あること"が後悔していることだった。

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