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隣に座ってもいいですか
花雛朱
現実世界ラブコメ
2024年08月19日
公開日
22,600文字
連載中
高校生のひなは、校内一のイケメン・翼と小さい頃からほぼ同棲状態の幼馴染。
家族と似たような関係性なのに、周りからの嫉妬で迷惑していたある日、翼に初めての彼女が出来て…
失敗や後悔から始まる、切ない青春ラブコメディ。

No.1 第1話『幼馴染』- 1



私にはイケメンだと言われる幼馴染がいる。

まずこの時点で少女漫画のような甘ーい関係を妄想した人に言いたい。


あなたは完全に間違っています。

現実はそんなに甘ったるいもんじゃない。


「人ん家であんたは何やってんだよ」

「見て察しろよAV鑑賞だよ」

「だからそれを何やってんだよって言ってんだよ」


人が誰もいない他人の家に上がり込み、堂々とリビングでAV鑑賞をする男。

これが私の幼馴染で校内一のイケメンだと噂されている大宮 翼、高3の17歳、アホ。


いつも通りのあり得ない行動に私が真顔で問うと、何故か向こうも真顔で返事をしてくる。

さも間違ったことはしていないと言いたげに見つめてくるこいつはバカ以外の何者でもない。


「2秒以内に出ていけ」

「うわー引くわー、お茶出すどころか追い出そうとするとか」

「人ん家のリビングでAV観てる方が引くわ」


一向に止めようとしないこいつの代わりにリモコンを手に取って停止ボタンを押す。

あーあ…と呟く翼の膝に蹴りを入れて台所へ向かった。


「ひな、今日遅いって言ってたじゃん」

「友達が予定入って買い物行けなくなったんだよ。っていうか何で知ってんのさ」

「廊下で話してんの聞いた」

「今後ここでAV観ようもんなら出入り禁止にするから」


冷蔵庫から牛乳を取り出して自分のコップに注ぐ。

朝、家を出る前にはたくさん入っていたはずの牛乳がコップの1センチくらいまでで止まった。


空になった牛乳パックの中身を覗きながら半笑いになる。

どう考えても翼が飲んだな…と苛立った時、後ろから犯人の声が聞こえてきた。


「ねえ、今日唐揚げがいい」

「黙れ。お前に食わす飯はない」

「えー、何に怒ってんの?」

「怒らすことを何一つしていないと思ってる翼に怒ってんの」


もう一度バッと開いてみた冷蔵庫の中には、翼によって食べ散らかされた物体たちが転がっている。


注意しても毎日毎日同じことを繰り返すこいつにはもう何を言っても無駄だなと感じた。

人の家で好き勝手しやがって…


「スーパー行かなきゃ何もないわ」

「ちゃんと買っとけよなー、夕飯の材料くらい」

「翼が食い散らかした親子丼が今日の夕飯だったんだよ」


学校帰りに友達と買い物へ行く約束をしていたから朝に夕飯を作っておいたのに、見事に全部食べつくしやがった。


デザートに買っておいたゼリーもアイスももぬけの殻。

挙句の果てに残っていたラスト1本のニンジンまでかじったような形跡で冷蔵庫に転がっていた。


大きくため息をつきながら財布を持って玄関へと進む。

その私の後ろを子どものように翼がついてきていた。


「俺も行く」

「嫌だよ。スーパーで学校の人に会うこと多いんだから」

「別にいいじゃん」

「よくないわ、噂になったらどんだけ迷惑かわかってんの?」

「まあ俺イケメンだからね」

「あ、危ねェ…今全力で鼻フックしそうになった。手が汚れるわ」


翼の顔面に向かって伸びそうになった右手を左手で抑えながら呟く。


私が葛藤しているのを涼しい顔で見つめてくる翼に「じゃあなポチ、大人しく待ってろ!」と叫んで家を飛び出した。


翼と私は幼馴染というか家族みたいなもんで、ずーっと小さい頃から一緒だった。

親が言うには赤ちゃんの頃から病院も一緒で生まれた日も1日違い。


家は隣同士だし家族ぐるみで仲が良いから、こうやってお互いの家にいるのはごく普通のことだった。


それに加えて私の親も翼の親も、共働きで夜遅くまで頑張ってる。

それは小さい頃から現在まで変わらずで、小学生くらいからは私が翼のご飯を作るようになった。


「鶏肉安いな、2パックいっとこうか」

「普通、家庭的な女子ってポイント上がるはずなのに、ひなは不思議とダウンしていくよな」


特売のシールが貼られた鶏肉をカゴへ入れている最中、後ろから聞こえてきた声にバッと振り返る。

そこにはついてくるなとあれほど言っておいたはずの犬…じゃなくて翼がいた。


「あら、大宮くん奇遇ね。あなたも何か買いに来たのかしら?」

「気持ち悪い演技してないで早く買い物済ますぞ。俺あと30分くらいで胃液爆発するから」

「胃液は爆発するもんじゃなくてよ、大宮くん」


ほほほほと口元に手を当てながら早足でレジへ向かう。

こんな所を学校の誰かに見られたら私の残りの高校生活は地獄をみるだろう。


それくらいポチ…じゃなかった、翼の人気はすごい。

中学生の時なんか半端じゃなく幼馴染というだけでイジメられた。


いやもうほんとエグイくらいに…

あの時の記憶がふと蘇った瞬間、スーパーのカゴを落としかけた。


「あ…!」

「…あのなぁ、スーパーの中で競歩し出す奴がどこにいんだよ」


卵の入ったカゴが私の手から滑り落ちる前に翼がキャッチしてくれていた。

この時だけは翼がいて良かったと思いながら、ほっと胸を撫で下ろす。


無事だった丸い卵たちに「もう怖い思いはさせないよ」と微笑みながら呟く。

翼は間髪いれずに「信じんなよ。こいつはお前を1週間以内に叩き割るぞ」と話しかけていた。


「……大宮くん?」


甲高い女の子特有の声が、レジの方から聞こえて私と翼が顔を上げる。

一瞬、心臓が止まったかと思った。


レジを済ませたクラスメイトが、レジの向こう側でこちらを見つめている。

しかもその女の子は…


「吉井さんも……一緒なんだね」


翼のことが好きで有名な、柏木さんだった。

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