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第9話 微笑む少女(その3)

鏡の中のイライザは相変わらず、微笑んでいる。

私の支離滅裂な話も快く聞いてくれているようだ。


「ねぇ、イライザ。あなたは我慢強いのね」

私はイライザを称賛した。

「そんなことないわよ。リリカの話がおもしろいだけだよ」

鏡の中のイライザは笑顔で応じてくれる。


また、私は回想を始めた。

私は魔獣語を話せたら面白いだろうと思い、勉強を始めた。 酔っ払いながら魔獣語が読めたら面白いと思わない? と考えたが、言語特有の音が難しすぎて断念中。

この話を友人にしたとき、最初に言われたのは良い意味で、「ばかげている」ということだった。 私はもともと将来使わないものへの興味を無視する癖があった。だから、そんなくだらないものを羨ましがってた。

将来使うことを前提に勉強するのは簡単かもしれないけど、つまらないこともたくさんある。将来使うからという理由で勉強がつまらなくなった面もあったと思う。 無駄なものを排除することは、完全に熱狂的で興味のない人間になってしまう。

やりたいと思った瞬間にできるシンプルさが好き。

生後3日でも構わない。 私がそれをしたという事実は重要に思えた。


「長い間、色々と辛いことがあったのですね、リリカ」

鏡の中のイライザが笑顔で癒してくれる。

意図的にメモを書くのをやめた。 簡単に言えば、行き詰った。

彼氏と別れてから、割とあっさりとかじゃないみたいに考えがぐるぐるしている。 承認した人を 1 人失う代わりに、安堵が引き継がた。 私にとっては大変な時期だった。

やっと一歩踏み出せた気がする。行動しなければ人は変わらない、とよく言われる。 ごく当たり前のことだと思う人もいるかもしれないけど、簡単ではない。 行動するのは当然だと思っている人もいるのに。


「私、彼氏に振られたの」

鏡の中のイライザに向かって、私は何度同じことを言ったのだろうか。

それだけ自分の心に引っかかっているということだろうか。

気付くのに長い時間がかかった。

すでに長い時間が経過したようだ。

積極的に自分を変え始めたのが1週間ほど前だったとしたら、その1ヶ月ちょっと前の生活をどうやって過ごしていたのか、あまり思い出せない。私は何もしていなかった。

私はそれについて長い間考えてきた。


「あなたが彼氏と別れた理由は明らかです。 未熟だったからです」

鏡の中のイライザは私を諭してくれる。

相手は5歳年上の魔導師。 心の底から相手を信じていたのに、その時は自分が一番信用できなかった。 だからダメだった。

長い間片思いだったけど、知り合った瞬間は本当に嬉しかったのを覚えている。 しかし同時に、一緒に暮らすのは本当に大変だった。

自分自身に問題がありすぎたからだ。

結局「こんな私」がくっついてしまったので、こんなに素敵な方とは合わないと思いながら、ずっと消化できずに付き合ってた。

パートナーと一緒にいる時も大丈夫かな?本当はもっと思い出を作りたいのかもしれないが、遊びに行くのが不安だった。 そもそも、持続させる気力がまだなかった。

別れてから2ヶ月が経ち、色々と考えさせらた。 結果、何も変わっていない。

直面するのが怖かったので、その核心にたどり着くことはなかった。

見たくないから逃げた。


人を全く信用できなくなった。 逃げて逃げた結果、自分を洗脳して、極狭な人間関係を自分に納得させようとした。 冒険活動に関しては、実は人と関わるのが怖くてやりたくないと言ってたが、今は魔獣語に集中したいと思っている。

お互いに向き合わない言い訳に過ぎない。 無限の言い訳ができる。そんな言い訳したら終わり。 逃げても逃げても、あとで何らかの形で私にしがみつく。

今回は彼氏にフラれる形で登場してしまった。


結果、向き合わなければいけなかったので向き合った。

不安な気持ちを習慣化できていないことに、ひとつひとつ気づいた。

友達に本音を言えない。友達にどう思われるか気になって別れたと言えない。冒険活動に行けない、人が怖い。


私も自分にできることは何かと考え、友人に別れを告げたり、冒険活動の詳細を聞いたり、わざと話したりすることから始めた。 少しずつ、周りも自分の心も変わり始めた。

私の友人たちは皆、私たちの別れに驚くほどよく反応し、がっかりした。

そう言ってくれてありがとう。

思った以上に人に愛されていることを知った。そして、友達は私の性格を決して否定しない。 私の恐怖は治まった。

「イライザも私のことを否定しないね」

鏡の中のイライザは相変わらず、微笑んでいる。

「リリカは素晴らしいから否定するところなんてないよ」

鏡の中のイライザは私の心を救ってくれる。


冒険活動後、周りの人に話しかけてみたけど、話しかけてくれなかった。

仲間達は私とうまくいかないかもしれないと思ったけど、それだけだ。私は自分がどれほど幸せだったかを理解していなかった。人々を常に恐れていたから。そして、人が怖かったので、心を開いたり、挨拶したりしなかった。


レベル的にはまだまだ先なのかもしれないけど、本当の意味で自分を変えるには行動するしかないと気づき始めた。敏感だという言い訳をしたけど、自分の行動で傷ついたり恥ずかしがったりするよりも、愛する人を失いたくない。 これからも好き勝手に生きていく。


本心を相手に伝えると、いつも泣きたくなる。


自分の意見を言えない人は、優しい人、冷たい人、悲しい人だと思う。 本当の気持ちが言えないという心の中には「傷つけたらどうしよう」という優しさがあり、その裏には「嫌われたらどうしよう」という心がある。


「本当のことを言えないなんて、本当にもったいない」

鏡の中のイライザは私に問いかける。

「 一見優しそうに見えるけど、相手と向き合うことを恐れて逃げているだけだ。 相手のことを考えているなら、相手がどう思おうと、自分の思いを伝えるのが優しさではないでしょうか」

鏡の中のイライザの意見に私も同意する。


自分の本音を言えないのは、相手を諦める気持ちがあるからが。相手が認めてくれないと思うと勝手に涙が出てくる。そして怒りという形で、傷つかないように包み込むこともある。表面上しか話せないということは、相手との距離が縮まることはないということだ。 そんな漠然とした気持ちで生きることは、生きることの難しさにつながる。

そういう意味では、親切だと言われるのは違和感がある。 優しさは愛ではないことを理解しているからかもしれない。


本当の気持ちを言えない人は、友情に満足していない。

恋人以外の何者でもない。

対話をしようとしていないのに、相手との距離が縮まるわけがない。

怖くなって逃げることが、自然に縁を切って消えるというパターンを繰り返す人がほとんどだ。


鏡の中のイライザは私に向けて、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。

「リリカは、こんなことを言ったら相手が傷つくのではないかと心配しながらも、相手に嫌われるかもと自分のことばかり考えていたのかもしれない。 最終的には自意識過剰になるよ。私はこのような人が好きではない。本心を言い出せないどころか、自分のことしか考えていないと思うの」

コミュニケーションが難しい。 相手には我慢が必要だ。継続できる人は少ないと思う。 ほとんどの場合、言いたいことを言うのをあきらめて、意図せずに終わらせている。でも、向き合い続けないと、本当の気持ちは伝わらない。

本気で付き合いたい人との未来は、我慢しないと消えてしまう。

恐怖と向き合うことをモットーに生きていこうと思っていたのに、気づいていたふりをしていた。

これからは、小さなことでも本音を言って生きることに挑戦したい。


私は鏡の中のイライザと対話することで、心が軽くなっていた。

「ありがとう、イライザ」

私はイライザにお礼を言って、そして違和感を覚えた。

鏡の中にいたイライザが、外の世界にいる。

いや、違う。

私が鏡の中にいる。

焦った私はイライザに問いかける

「ねぇ、イライザ。私は鏡の中に閉じ込められたみたいだけど、何故なの?」

さっきまで、優しく微笑んでいたイライザの顔がみるみる醜悪を極めていき、冷たく言い放った。

「リリカ。それはね。私とあなたの状況が入れ替わったからだよ。私は何年も待っていたの。あなたのように心の中の不満や悩みを一方的にぶちまけてくれる人がくることを。あなたも、きっと、その魔法の鏡の中で、ずっとこれから待たないといけないのよ」

私は自分の状況に絶望した。自然と目から涙がこぼれ落ちる。


魔法の鏡となんか、会話をするべきではなかった。

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