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第7話 微笑む少女(その1)

異世界へ転生した私は市場へ買い出しに出掛けることにした。

私が転生した先は西洋風の城下町であった。

食材や魔獣語辞典などに加えて、可愛い洋服なんかも手に入れたい。20歳という大人の女性の年齢に達した私にとってオシャレも大切なことだ。

「市場で何を買おうかな」

心が弾んだ私はついつい独り言を言ってしまう。


一通りの買い物を終えた私は、可愛いブローチを手に入れたこともあって上機嫌だった。

そろそろ宿に帰ろうかと思って歩いていると、一軒の古道具屋が目に入った。

吸い寄せられるように古道具屋へ入る私。

「すいませーん」

薄暗い店内に向けて、元気な声を放つが静まり返っている。

どうやら店主は留守のようだ。

せっかくなので、私は店内に飾られた古道具を見て回ることにした。

古い武器、古い食器、古書。

どれも年月を重ねた趣がある。古道具と呼ばれるのにふさわしい風格を漂わせている。


「やぁ、お嬢さん。こんばんわ」

突然、私は声を掛けられた。驚いて周囲を見渡すが誰もいない。

気のせいだったのだろうか。

「こっちだよ、お嬢さん」

店内の奥に飾られた鏡から声が出ている気がする。

訝しげに鏡を覗きこむと、そこには若くて綺麗な女性が浮かび上がっていた。

「あなたが私に声を掛けてきたの?」

私は鏡の中の女性に向けて話しかけてみる。

鏡の中の女性は微笑みながら頷く。

「お嬢さん。私は魔力を宿した鏡なの。だから、こうしてお話をすることもできるの」

確かに、この異世界では魔力を宿した武器なども多いと聞く。でも、魔力を宿した鏡は初めて見た。私は物珍しそうに鏡を眺めた。

鏡の中の女性は語りかけてくる。

「私の名前はイライザというの。人間とお話するのは久しぶりなので、よければ少し相手してくれない?」

意識を宿した魔法の鏡。興味をそそられた私は彼女の問い掛けに応じる。

「わかったわ、イライザ。私の名前はリリカ。今日は市場に買い物に来たの」

「あら、リリカって素敵な名前ね。もっと、リリカのことを教えて欲しいな」

私はイライザと名乗った鏡の中の女性と語らい始めた。

イライザに対して警戒心と、少しの怖いという感情をもったまま。


”怖い”という感情を分解すると、”わからない”から来ていると思う。

まさに今の状況だ。

こう考え出すと、頭からこの考えが離れなくなる。

さて、魔法の鏡を前にして今、改めてこの言葉を思い出す。

私はいつも何かを恐れていて、ひどく不安を感じている。 毎晩、一人になるたびに泣きたくなる。


そうだ、いっそのことイライザに問いかけてみよう。

私は泣いたり怒鳴ったりするだけで、根本的な原因を理解していないかもしれない。もう一度考えてみよう。


「ねぇ、イライザ。私は恐怖を感じことがあるの。私の恐怖として、冒険パーティのメンバが何を考えているのかわからないというのがあるの。仲良くしようと努力する前から嫌われてるんじゃないのと思ってしまうの」

さらに私は続ける。

「ねぇ、イライザ。小さい子の反応がわからないの。これは私が誰かに物事を教える上での不安なの。 周りに小さい子がいないので、無意識に傷つけてしまわないか心配なの。 彼ら彼女らを傷つけてからでは遅いと思うので何も言えないの。教える立場としてコミュニケーション不足は最悪だと思うの」

私は止まらなくなっていた。

「ねぇ、イライザ。私はうまく教えられないの。 うまくいかなかったらどうしたらいいのかわからないという不安を常に感じるの」

この際、一気に喋ってしまえ。私はさらに恐怖に感じていることを口にする。

「ねぇ、イライザ。人に笑われるのが怖いの。魔獣語が話せなくて笑われるのではないかと心配しているの。 いや、冷静に考えて頑張る人を笑う人が溢れているというのがおかしいよね?結局、魔獣語がわからない、この世界がどんなところなのかわからない、ということに尽きると思うの」

私は魔導師として、魔獣語を学んでいる。でも、なかなか魔獣語が習得できていない。


「あらあら、リリカ。悩みが多くて大変ね」

鏡の中のイライザは私の支離滅裂な不満を優しく受け止めてくれる。

ここまではわかっていても、具体的な行動をとろうとはしなかったのは私だ。

イライザが語りかけてくる。

「周囲の人達が怖いと思ったら、自分から踏み込むしかないのかもしれないわ。 知ろうとしなければ知ることはできず、恐怖や不安という感情はただ独り歩きするだけだわ。 正直、一番怖い。 それはあなたがそれを解決できないことを意味するからだよ。 リリカには、そんな負の感情を抱えたまま生きてほしくないの」

鏡の中のイライザは、私の気持ちを汲んでくれて言葉を投げかけてくれる。

今朝もやり方が分からないと言い続けていたけど、分からないというだけで漠然とした不安を感じてしまう。 わからないは、実際にできる可能性があっても不安や無力に発展してしまう。 無駄にもったいない。 可能性を秘めているのに、それを黙らせて理解していないと言うのは呪いの言葉だと思う。


私は決心した。

「ねぇ、イライザ。わからないという言葉が出てきたら、一度飲み込んでみることにするね。わからないことはメモして、はっきりさせるね。行動していないために生まれてきた感情の場合は、まず行動してみるね。行動してわからなくなったら、本を読んだり、人に聞いたりして解決してみるね。うん、そうするね」

最近、私は無気力状態に陥っている。 わからないというなら、先に進む必要はありません。 その代わり、本当になりたい自分にはなれない。友達も作れないし、いい生活なんて一生できない。そうなると、さらに行動して失敗する人になってしまう。


「まぁ、リリカ。素晴らしい。その調子よ」

鏡の中のイライザは私を応援してくれる。

「ありがとう、イライザ」

私は鏡の中のイライザに向けて、感謝の言葉を述べる。イライザって結構いいやつなのかもしれない。

「リリカには初めて会った瞬間から優しいオーラを感じたよ」

鏡の中のイライザは私に向けて、優しく語りかける。

昔の友人達がかつて私に言ったように。イライザは私の友人達に一度も会ったことがないのに。さっき会ったばかりなのに。私には、かなりオーラがあるのかもしれない。

私はなんだか嬉しくなった。

「ありがとう、イライザ」

私は鏡の中のイライザに向けて、さらに感謝の言葉を述べた。

そもそもオーラとはなんだろうか。私はその人の生き方の反映だと考えている。

でも、私は人に優しくないから。 私はかなりわがままで、表面上はよく笑っているけど、あまり深く考えていない。

八方美人。

しかし、他人の目に優しいオーラがあれば、無意識に自分の経験が良好だったということだろうか。


修行時代に通っていた魔法学校では本当に苦労した。


同級生は私の友人だったけど、ネガティブな人だった。

同級生は、愛されなければ満足できない人だった。

私が話しかけても、同級生は話を変えて事実を歪曲し、自信満々に「私はあなたより断然可愛い」と言い、私は深く傷つけてきた。 私が傷ついたのは、私がかわいくないからではなく、その人が私のことを見ていないようだったからだ。

他の人からはいつも「かわいい」と褒められ、「いつもそばにいてくれ」と接してくれたのに。その同級生は女の子がかわいいと思って写真を撮っていたけど、私のことは完全に無視していた。 ずっと騙されていたと思っている。

これに関しては、卒業後に無理やり縁を切ったけど、いまだに自分では消化できていません。

しかし、これが私のオーラに影響を与えているのなら、彼女の存在にはとても感謝している。今となってだが。

オーラは彼女の経験を通してのみ獲得できたのかもしれない。そう信じているから、ネガティブな出来事は私にとってネガティブではないのかもしれない。 すべてをオーラに込めるのは私の考え方次第だ。


ところで、私は何故、突然、ネガティブな記憶を思い出したのだろうか。

まさか、鏡の中のイライザと出会ってから?

まさかね、、、、。

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