「誰かからの愛が欲しい」
ミサは弱々しく呟いた。
ずっとそう感じていた。これが私の愛の性質に関係しているのか、それとも私の愛の性質によるものなのかはわからないけど、とにかく誰かに愛されたいと熱望している。
いまでもオラルドが私の悩みを聞いてくれる。すでに多くのことを学ばしてもらっている。
ときどきオラルドは他愛もないことを質問してくる。
「ねぇ、ミサ。どうすれば有名人に会える?」
いわゆるセレブと呼ばれる人々は、世の中の上流階級や上質なものを見てきた。 だから見る目があると思う。
オラルドを見上げて、少し私は微笑んだ。
「結論から言うと、そういう人たちの注目を集めるために、自分を磨く必要があるとおもうよ」
こうやって改めて答えると、自分が知っていると思っていたことを理解していなかったことに気づかされる。
また、オラルドが問いかける。
「親友だと言っていた友人に縁を切られたらどうする?」
この質問は、親友として頼りにしていた友人の要求に応えられず、その友人から切り捨てられた状況のことだろう。
「吹き飛ばしたい悩みだね」
オラルドを見上げて、また私は少し微笑んだ。
もともと私は人に頼りがちで期待感が強く、愛を与えて友達を喜ばせようとする<愛の少ない人>だと自認している。
「自分よりも幸せそうに見えない人をそばに置いて優越感を感じることでしか自分の存在価値を確認できず、他人のエネルギーを吸収することに喜びを感じるタイプだね。与える喜びとコミュニケーションの喜びを知っている人の常套手段かもね」
そういう人は残念だと思うけど。ただ、私も恥ずかしながら他人の幸せを奪うタイプかも。
愛が欲しいと心が叫んだが、私はその愛を他人から時間とエネルギーを与えること、と誤解していたのかもしれない。愛を受けたいのに周りの恵まれた環境に気づかなかったり、自分自身が相手を愛せなかったりすることがある。
特に両親からは、ずっと愛されていないと思っていた。
もっと褒めて育ててあげれば、風邪ひかなくても優しくしてくれるとずっと思っていたけど、、、。
ただ、環境には恵まれていた。当時の私は毎日たくさんの食べ物を手に入れることができて、顔が腫れるほど強く打たれたことはない. 愛が欲しくてダメと言い続けていた自分が少し怖くなった。 今あるものを大切にしないと、いつかすべてを失うことになるだろう。
そして、私が求めているものに愛情を注いでいないのかもしれない。
見返りを求める自分がいる。
無条件の愛ってなかなか難しい。
しかし、自分の行動を変えることしかできない。相手に余裕がないときに、敏感に反応して攻撃的な態度をとる必要なんてない。
小説の中の世界では、愛情深くて光を失わないキャラクターが一人はいると思うので、そのキャラクターになりたい。
「私は、愛を与えられる人になりたい」
弱々しく呟く私をオラルドは静かに見守っている。
風邪をひきやすい人は、始まりよりも終わりが見えやすい気がしている。
何かにハマると、一度落ち着こうとする。
好きな音楽を何度も聴きすぎて冷めてしまう自分を想像してしまう。
「ねぇ、オラルド。私は無駄なことに夢中になりすぎる自分が嫌いなの」
そのため、恋をしている自分が好きではない。
「他人のことを心配して時間を過ごすほど無駄なことはないと思うの」
私はストイックに頑張るタイプじゃないし、精神力もない。
長く続かなくてもいいので、たまには好きなことを追求したい。
「本当の愛って、どこにあるんだろうね?」
答えのない問いをオラルドに投げかける。
過去の恋人のことが不意に頭をよぎった。
当時、恋人と付き合うのを先延ばしにした私は、私が彼を本当に好きなら、彼も私を愛してくれるだろうと思っていた. そこに甘えがあった。
本当に最善を尽くせない時と甘やかされている時を見分けるのは難しい。
でも、日常生活を少しずつ変えていかないと、恋人もお金も素敵な人間関係も満足のいく答えはない気がする。 最初から完璧なんて無理だと思っていたので、何度も繰り返したけれど、振り返って自分が満足しているかどうかを確認することがなかったことが悔やまれる。
恋人からデートをやめようと言われてから泣き腫らした夜。
その瞬間、私は涙をこらえ、家に帰って考えて泣いた。 とにかく悲しかった。
私は愛と幸福の感情を知らないけれど、悲しみと苦しみに敏感に反応する.私は好きだと言って断られるのが怖いのだと自認している。
それから、好きだと思っていても言わなくなってしまった。
とても悲しいことだ。 恋人と付き合っていた時も、この幸せは長くは続かないと思っていた。まさにその結果を生んだのではないかとさえ思ってしまう。
私は無宗教で、スピリチュアルなことにはまったく興味がないが、何らかの引き寄せ効果があるのではないかと思っている。
だからこそ、本当に幸せだ、幸せだ、と素直に思いたい。
やはり、人はすぐには変われない。 だから諦めてはいないけど、かなり時間がかかると思っている。 基本的に、自分が好きじゃない、自分を愛する気持ちがない限り、不幸な反応をし続ける気がしている。
結局、いざという時に一人で生きていく気力がなければ、他人に影響されて自分を守れなくなってしまいうのだと思う。
「ねぇ、オラルド。人生にチャンスは3回しかないって言うでしょ?でも、その3つのチャンスに私は気付かず過ごしてしまったみたいなの」
この言葉は改めて自分自身に響いた。 私はこの種のことを信じていないけど。
世の中に神はいないと思うけど、心の中には神がいるような気がする。
もしかしたら、それは私の心に都合の良い神様がいるということかもしれない。
「ねぇ、オラルド。恋人とのデートを先延ばしにする人が、この世界に何人いるんだろうね?」
恋人の意味が分からず、誰も愛してくれないと思っていた私だけど。視野を広げてほしいとずっと言われてきたので、悲観せずに世界を見渡せばいいのかもしれない。
私の愛は深いけど、私は自分が非常に狭くて偏見があると確信もしている。
深くて悪くないけど狭くてめんどくさい。 比較するものが何もないので、その世界だけを知って人生を終えるような気がする。
もっと遠くに行けば、もっといいものが見つかるかもしれないということを知らずに死ぬようなものだ。
「怖くて遠くには行かないけど、そんな恐怖の先に幸せがあるのかな」
まあ、困ったら逃げるという選択肢もあるか。私は自嘲気味に笑っていた。
私は今、自分を愛する方法を見つけることに人生を捧げるべきだと軽く考えている. 少しでも変わるために、まずは恋愛感情を復活させたい。
私は誰かになりたいという強い願望を持っていたのかもしれない。
これまで気分のむらがあったけど、最近は少しポジティブになってきた。
オラルドは優しくいつでも私の話を聞いてくれる。
よくよく考えてみると、すべてについて私が一方的に話しているだけかもしれない。
「オラルド、私は、ちょっと眠ろうと思うの」
私は牢屋に入れられてから、もう何日経ったのかわからなくなっていた。
「そうだね、ミサ。少し疲れたと思うから、ゆっくりと休みなよ」
オラルドは私を気遣ってくれる。
「私の支離滅裂な話を聞いてくれてありがとう、オラルド」
私はオラルドに弱々しくお礼と言って目を閉じた。
オラルドは見ていた。
ミサの身体から魂と呼ばれるものが抜けていく様子を。
オラルドは人間から魂が抜ける瞬間が最も美しいと感じている。
ミサの魂がオラルドの横を通過して天に昇っていこうとした瞬間。
オラルドは口を大きく広げて、ミサの魂を捉え、そして飲み込んだ。食べたのだ。
「ミサ、お疲れ様。でもね、俺が魔物と呼ばれるのには理由があるんだよ。俺はこの食事の瞬間をずっと辛抱強く待っていたんだよ」
オラルドは、かつてミサと呼ばれた物体に向けて、冷徹に言い放った。
そして、翼を広げて、空高く舞い上がっていった。