目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第5話 小鳥オラルド(その2)

牢屋に入ってから数日が過ぎた。

相変わらず考える時間だけはたくさんある。今はそういう時間がとても大切だと思うようになってきた。外の世界のことはあまり気にしないようにしよう。この経験は私にしかできないだろう。


「オラルド、私って、人生をやり直したいと思ったことが何度があるの」

私はオラルドに向けて唐突に語り出した。

私はもともと極度の完璧主義者で、自分が不完全であることを本当に許すことができなかった。少しでも失敗したら人生をやり直したいと思う毎日だった。振り返ってみると小学生の頃からそういう傾向があり、辿り着いた考え方は自分なりの人生リセット法だ。


「人生リセット法は、人生をやり直したいと思った日に一気に掃除する儀式のようなものなの。そして明日からは一人で生きていこうと決心するの。真夜中に寝て、健康的な朝を迎えるの」

そこまで聞いて、オラルドが意見を言った。

「 現実はそう上手くはいかないでしょう?」

オラルドは何でもお見通しのようだ。

朝起きれなかったら、次の朝から頑張らなきゃいけない。その日、私は使い捨ての駒になり、惰性で生きているように感じる。中学生になる頃には事態はさらにエスカレートし、好きじゃなかった友情をリセットし始めた。 明日は行けるかなと何度も本気で思ったものだ。

「そうかもね。でも、一昨年くらいから具体的な行動を起こすようになって、リセット方法に頼る回数が激減したの。 でも、最近はうまくいかないので、この方法でやり直したいと思っているの」

そう言って、私は牢屋の中を掃除し始めた。明日からは全くの別人になって、一秒たりとも手抜きせずに一生懸命生きていこうか。 しかし、20年間積み上げてきた思考と行動を明日になって一気に変えることは絶対に不可能のように思える。悪い習慣は、今日も明日も簡単にはやめられるものではない。まぁ。良い習慣も同じか。


異世界転生した当初は、人間関係をリセットしてゼロからやり直したいと思ったこともあったけど、根本から解決しないと同じ過ちを何度も繰り返してしまうと気づいた。

「シャイな自分が大嫌いだったのでリセットして、新しい環境で明るい自分を演じようと思ったけど、なかなかうまくいかないの」

そして、私の本質は何も変わらなかった。


「ねぇ、オラルド、どうすれば人生をやり直すことができますか?」

かつて多くの人に質問したことがある問いかけである。その場で納得のいく答えは得られなかったが、今ははっきり言える。 人生はやり直せない。

シャイなのが嫌なら、明日、適当に誰かに挨拶すればいい。 これまでの私の答えは、それらを積み重ねるしか方法がないということであった。 ずっと完璧でいたいので、一昨年までのリセット方法を繰り返していた。 道のりは長いし、急いでいることもわかっているが、それが生き残る唯一の方法だとも感じている。


混乱し始めた私はを見かねて、オラルドは口を開いた。

「まぁ、ミサの個人的な課題は、過去の自分を愛することだね。率直に言って、リセットしていたときの自分を愛する気持ちはないと思うよ。 明日から頑張ろうと言いながら何年も逃げ続けて、具体的な努力をしていない。 できれば過去を消したいと思っているかもしれないけど、好きになれる要素はあるでしょ? 今はそんな気持ちを否定せずに毎日を生きていくしかないと思うよ」

オラルドの小さな瞳が私を見つめている。


今まで死にたいという気持ちは、人間として生きていく上で避けられないものだと思っていた。 そもそも精神的に安定しておらず、途中で諦めたと言うのが正解かもしれない。

ほとんどの場合、私はハイ 状態 とロウ状態を交互に繰り返けど、 受け入れていた。

人は必ず落ち込む時がある。 私はハイになったら頑張ろうといつも思ている。


この状態は躁鬱病と呼ばれる可能性があることに私は徐々に気づき始めていた。

閉鎖的な牢屋の生活に精神が追いつめられているのかもしれない。平常時であれは、人生で死にたいと思ったことがないや、死にたくないのは当たり前と考えるだろう。


ハイになったら何でもできる気がした。

自分は無敵だと思うし、何よりこの期間に自分を好きになれる。恥ずかしがり屋でも、人と話せるくらい元気になる。 この時だけ、私は自分がどれほどアクティブで素晴らしいかを考えることがでる。

早く牢屋から出て、毎日やりたいことがたくさんあって、嬉しい悲鳴のようにスケジュールを詰め込みたい。


しかし、落ち込んでしまうと、気持ちも行動力も嘘のように消えてしまう。 ベッドから起き上がれず、体を動かすこともできず、大好きだったオラルドとのお喋りへのモチベーションも一気になくなる。 自分が本当にやりたいこともほとんど否定し、それまで積み上げてきた習慣が突然崩れる。

私はすべてに無関心になっていく。

なんて悪い人なんだ。何をしてもだめだめだ。私は自分自身が嫌いになっていく。


ほとんどのハイ状態は長く続かない。

私の場合、ハイの時は予定をたくさん立てて、友達との予定はなるべく減らすようにしていた。 友達との予定がある場合でも、依頼を優先していた。依頼を達成したら早く帰る口実をいつも探していたので、友達と一緒にいるのがまったく楽しくなかった。

ハイの時、私は仕事に夢中になる。 そして、頑張っていると感じるので、自分を愛していたと思う。私はいったい何に急いでいたのか。


気が付くと疲れていたが、まだまだ考えたいことが山積みである。「ああ、逃げ場がない」と思った時にはもう手遅れで、ベットから起き上がれなくなる。その反動で、何かに夢中な生活が始まる。

この状況が異常だと今まで本当に気が付かなかった。 いつものことか。

ここまでハイ状態で行動できる能力は、私でも凄いと感じる。何度自滅しても改善せずに受け入れることを選び続けてきた。その行動力のおかげで自分がいるとさえ思っていたから。


しかし、落ち込んでいた時は本当に辛かった。

成長している証がなければ、いつかは晴れると信じていなければ、やり遂げることはできない。死にたいと思い続けることは自傷行為に近く、ずっと自分を傷つけていることになると思う。


できればもう繰り返したくない、今は何よりも良い習慣を身につけたいと思っている。

ロウになるきっかけになった出来事があっても邪魔されない生活を送りたい、そのためには習慣の力が必要だと思う。


「オラルド、私、気分のムラを極力なくす方法を考えたの。気分が高揚している場合は、その時間帯に好きじゃないことをしないの。ハイな時に我慢しがちな友達との時間を取り入れるの。今日頑張ったと思ったら、あえて頑張りすぎないことを心がけるの」

そのように、まずは自分をコントロールしなければ。

最近、倒れるまで頑張ろうと思っていた時期は、自分が本当にハイだったことに気づいた。そんな心の声をじっくりと見つめていきたい。


「一見遠回りに見えるかもしれないけど、毎日のほんの少しの積み重ねが自分を救ってくれると信じ続けているの。そして、同じように苦境に陥っている人には、それを当たり前だと思ってほしくないの」


オラルドは静かに私を見つめていた。

出会ったことのオラルドは流暢だったけど、最近は物静かだ。

どちらも悪いとは思わないが、私がポジティブな時はもう少し広く浅く考えるイメージある。挑戦したい心が芽生えてノリで行くようなテンション。失敗も多いけど、挑戦できてとても満足していた時期。

逆にネガティブな時は、視野は極端に狭くなり、思考は深くなるのかもしれない。この時期の自分と向き合うと新しい発見があるので、この時期も宝物ではあるけれど。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?