気がつけば牢屋の中にいた。
「頭がズキズキする」
私は手で頭をさすって、何が起こったのか思い出そうとした。
「神様、、、、異世界転生、、、潜入任務、、、、」
頭の中でいくつかの単語が浮かんでは消えていく。
記憶を繋ぎ合わせていくと、どうやら神様が私を異世界転生させたらしい。
そして、私は冒険者として働き、敵国へ潜入する任務の途中で捕まってしまったようだ。
そこまで思い出した私は牢屋の中を見渡す。
小さな窓から外の光が注がれている。
まだ昼間のようだ。
耳を澄ませば、小鳥のさえずりが聴こえてくる。
しばらくして、一匹の小鳥が小窓にとまり、私に話しかけてきた。
「やぁ、お嬢さん。こんにちは」
私はその小鳥を観察した。青くて目がクリクリとして愛嬌のある顔をしている。
「小鳥さん、こんにちは」
暇を持て余していた私は小鳥とお喋りすることにした。
「俺は小鳥さんという名前ではなくて、オラルドというちゃんとした名前があるんだよ」
「あら、それは失礼しました、オラルドさん。私の名前はミサよ」
「あっ、呼び方はオラルドでいいよ。ところで、ミサは、そこで何しているの?」
「どうやら私は捕まってしまったみたいなの」
私は改めて自分が置かれた状況を認識した。殺風景な牢屋の中で、私は小鳥と会話している。これから一体どうしたものか。
オラルドが首をかしげて私に尋ねる。
「ミサは捕まってしまったんだね。じゃあ、時間もあるだろうし、ミサのことを色々と教えてよ」
「そうね、しばらくは牢屋から出られそうにないから、オラルドとお喋りすることにするわ」
お言葉に甘えて、私は他愛もない会話をすることにした。どうせ、小鳥相手だったら何を話してもいいだろう。
「ねぇ、オラルド聞いて」
私は転生前の思い出を語ることにした。
小鳥相手に自分の恋愛観を話してみるのもおもしろいかもしれない。
「私って、恋愛体質だと思うの」
オラルドはつぶらな瞳で私を見つめている。
「ストライクゾーンは非常に広いの。雨の中で一緒に 傘をさすだけでもとてつもなく緊張するし、プライベートではちょっとだけ優しくしてくれるだけですぐに好意を持ってしまう。だから、男女の友情が成り立たないと考えているの」
「へぇー、それでミサは何か困ることがあるの?」
私は愛情不足で育ったのかもしれない。
両親が特に冷たいというわけではなかったが、私は愛情表現が上手いタイプではなかった。 冗談だと分かっていても、親から「お前を拾った」とか「昔は可愛かった」とか言われていたことが気になっていた。 気にしなくても潜在意識に残ってるからめちゃくちゃ怖い。素直に褒められることが少ないので、それが当たり前の対応だと本気で思っていた。私も自然と相手の過ちを追求する人間になってしまった。
「そうね、考え方のせいか、男性と長続きすることはほとんどないの。彼が私を好きになり始めた頃には、もう半分終わっているの。 心の底から好きじゃないのに彼の気を引こうとしたこともあって、それが功を奏して付き合う事になったこともあったわ。でも、長くは続かないの」
男性が私を受け入れたときは本当に驚く。
最近まで自意識過剰になる現象が起きていたので、相手からの愛を欲しがっても受け取れなかったのも破局の原因だったと考えている。
恋愛体質がひたむきになってしまった今もあまり変わっていない。私は 真面目な性格だけど、人に優しくされれば簡単に気が変わる。好きな人が私に興味がないと確信している場合でもだ。
こういう女性は多いのだろうか?、 と考えたこともあったが、そうではないようだ。
「私は 自分の見方が歪んでいるような気がするので、なんとかしたいの」
「それは、俺に聞かれてもわからないね」
オラルドは私の独白に対して適用な相槌を打ってくれた。
今まで誰かに自分の内面をさらす出すことすらできなかったので、これは大きな変化なのかもしれない。まったく、牢屋の中の孤独とは不思議なものだ。
そうやって苦しみから逃れようとしている。
思い出すのは、ずっと失恋の話題ばかりだ。失恋から多くのことを学んだので、今では感謝の気持ちでいっぱいだけど。
「自分と他人を比べることの無意味さを知ることができたんじゃないの?」
オラルドは何でもお見通しですよ、という顔つきで問いかける。
「そうね、、、」
私は回想してみた。
これまでは他人と自分を比較しないようにしていたと言う方が適切なのかもしれない。人によっては目に見えないところで成長する人もいるため、目に見えるところだけでは測れないことがじつに多い。
そして、いろんな人と関わったり、友達と遊んだりする無駄遣いにも意味があり、どこからでも吸収できるものだと思うようになった。 実際、自分とは違う価値観を吸収するために、いままで見たことのない動画を観たり、友達と遊んだりする時間が少し増えた。
「それだけの価値があったのかもしれない」
私は力強さのかけらもなく、弱々しく反論した。
「すべてに白黒をつける必要はないよ」
また、オラルドは何でもお見通しですよ、という顔つきで断言する。
そんなオラルドに反論しようと思い、私は少し大きな声で主張してみることにした。
「混乱し続けたくなかったので、常に解決策を見つけようと努力したわ」
つい最近まで、恋人と直接話そうと真剣に考え、機会を待っていたような気がする。どうしても話したくて仕方がなかった。
今すべてを明らかにする必要はないけど、今でも、別れの瞬間をふと思い出すと、イライラして泣き出してしまいそうだ。
「 私の場合は完全な別れではなく交際の延期だったの。この状況がいつまで続くのかを明確にしたかったの。 恋人の優柔不断な態度に腹が立ち、すべてをきちんと聞きたかったの」
私は自分の中の感情を確かめるために自問し続けた。
そんな私を見かねたオラルドが慰めるように、優しい言葉を投げかける。
「でも、自分の中で消化させることが重要なのかもしれないよ。 そして後悔するより、最初から思ったことを全部言えばよかったんじゃないかな」
その時、なぜか私は何も言い返さなかったのか。 恋人の主張に納得した顔でその場を後にしたことを思い出す。
「 今の私だったら絶対に同じことはやらないと思うわ」
過ぎ去った過去のことで責任をとらなければならないかもしれない。 自分と格闘しながら、この霞を消化できたらいいなと思う。 白黒つけたいなら直接交渉してもいいけど、どう転んでも自己責任。 将来的にもやもやが去ることはないと思うけど、それは良い教訓になるだろう. しばらくはこの気持ちで過ごさないといけないと思う。下手に消化して後悔しないように。
今まで悩むことすら許されなかったけど、悩むことができる幸せを感じたい。
これがどれくらい続くかはわからないけど。
牢屋の外では、生産性を求めて無駄を極力省こうとしてきたが、今はそれができない。
考えたり泣いたりすることしかできない。
ある意味、幸せなはずの時間なのに、かなり不安だ。
牢屋の鉄格子をそっと指でなぞり、その冷たい感触をゆっくりと味わった。
この牢屋に入る前は、自分がやっていることを続けなければならないといつも思っていた。でも今は、あきらめて、少し楽になった。
今回は否定的な感情が私を育てている。 この期間がなければ、自分の過ちに気付くことはなかったと思う。 自分を他人と比較する考えがまだあったかもしれないし、あいまいな状況を明確にすることに夢中になっていたのかもしれない。