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第3話 雄猫マロン(その3)

私は恋人がどんな人か分かっているから、見ず知らずの人に「都合のいいように扱われているだけ」と言われても気にしないい。 相手が私を待ってくれるって言って、すぐに結婚してくれたらそれで終わりだと思うし。

「それって、大丈夫?」

マロンは訝しげに私を見つめている。おそらく猫の直感で私が正しくない方向に導かれるのを阻止しようとしている。

私が今やりたいことは、就職活動でも新しい友達を作ることでもない。

一時期には、早く就職活動を始めないと人生終わるんじゃないかと焦ったけど、そんなことはないと思うし、今はやりたくないのでやめる。

私は人と接するのが苦手で、とてもつらいのは分かっているけど、もし彼がそうしたくないのなら、そうする必要はないと感じている. でも本当に直す必要があるなら直すよ。 だから「遊んで経験を積みなさい」と彼に言われたけど、地道に努力する道を選ぶことにした。 好きだから己の道を進むの。

「ねぁ、マロン。私、明日からまたあの恋人と何も気にせず付き合える日常を夢見て頑張りたいと思うの。 明日から、それまでの道のりを毎日日記にでも書き記していくわ」

そんな、私の様子を訝しげにマロンは見つめてくれる。


恋人から交際を一時的にやめるように言われてから4日が経った。

最初は、失敗したことを真剣に反省して、完璧に直そうと思っていたけど、しばらくすると、いろいろと面倒になってきた。

「人間なんて惰性の生き物だよ」

私は独り言をつぶやいていた。

そういえば、自分の欠点を直そうとする癖がある。 それ自体は決して悪いことではないけど、度が過ぎていると気づかされることがある。 例えば、興味のないことは何でも勉強しようと考え、それは私をひどく疲れさせていた。

「最初は、それが自分にとって重荷になっていることに気づかなかったの。 何かをやろうと決めたときはたいてい野心があるから。でも、それがすべきという考えだとは気づかなかったの。 やりたくないのは落ち着いてからがいいけど、知らないうちに取り組んでしまうの」

振り返ってみると、やりたくないことばかりして気分が悪い時、真っ先に思い浮かぶのは「頑張ってるな」という自己満足感のみであった。

「 時間は有限だから、そんなことは止めなよ」

マロンは飽きれた様子で私を諭そうとする。

「彼ののために一生懸命働いたけど、君の一年はどんな年だった?」


いつも彼と一緒にいることから離れて、彼のために最善を尽くそうとしたのは、非常に誤った方向に向けられた努力だった。 人に好かれたいと思っていたけど、自分が嫌いだった。 自分や周りの「やらなければならないこと」に振り回され、「やりたい!」を尊重することを忘れてた。

本当に欲しいものなら、「がんばった」とは思わない。 その証拠に、今続けている勉強に落ち込んでいる時も、「こんなに頑張ったのにだめだった」と思ったことは一度もない。 スランプはあったけど、好きだったから信じて続けられた。


「自分らしくいられることが本当にとても大切だよ」

マロンは優しい目をして、私にエールを贈ってくれる。


だから、最初の半年はやりたいことをやろうと決めた。

「就職活動に行った方がいい」とか「遊びに行ったほうがいい」という周りの声は無視することにした。 「やらなきゃいけない」という心の声も無視した。 何もしなくても解決できることはたくさんある。 この方法が正しいかどうかはわからないけど、失敗した場合はもう一度試せばいいだけの話ではないか。


「それが何の役に立つの?」 という周囲の言葉には耳を貸さないことにした。

私自身が信じれば良いだけの話である。今も自分や周りの人たちの「こうあるべき」という思いから逃れている。

「マロン、ありがとう。そして、 今後ともよろしくお願いします」

私は日頃の感謝の気持ちをマロンに伝えた。


私はそれからの2週間を無我夢中で過ごした。

一ヶ月前、私は幸せの真っ只中にいた。 2年間好きだった人と付き合う事になった時、これからの人生は楽しい事だらけだと楽観視していた。

でも、もうそれはずっと前のように感じる。


ちょうど2週間前に、デートを延期するように言われ、キャンセルされた.

片思いの2年間、死ぬほど頑張った。知的センスを磨き、服の趣味はがらりと変わった。挑戦精神が高まり、いろいろなことに前向きになった。 否定的な言葉は耳に入らなくなり、ネガティブなことは言わなくなった。


1年かけて築き上げたものはあっさりと壊れてしまった。

言い渡された瞬間、目の前が真っ暗になった。

私は自分の気持ちを保つために、ふらりと本屋に寄った。 気が散ったときに文字を目に留めておかないと、置き去りにされてしまうかもしれない。 こういうときは、元気なときよりも必要な本をたくさん見かける。

でも、先月の本の請求額が50,000円を超えたのを見てショックを受けた。


2 週間、ベッドで本を読んだり、最近夢中になったゲームに没頭したり、音楽を聴いたりして過ごした。目と耳に刺激を与えることを惜しむと、思わず考えてしまうので、とりあえず何とかしていた。

ゲームをしているうちに、人生はゲームのようなものだと思うようになった。

あなたの人生は、コマンドを操作することによって決定される。 実生活でのコマンドは、言葉と行動だ。 別の言葉を選んでいたら、別の人生を送っていたかもしれない。 あの時、私が別の行動をとっていたら。

この考え方は、将来何を言おうとしているのか、何をしようとしているのかを考えるのには適しているけど、過去を振り返るにはまったく役に立たない。 逆に自分を責め、変えられない過去にしがみついていることになる。

だから 、将来あるかもしれない明るい未来のために、この考えを頭に入れておくことにした。

「過去は変えられないけど、未来は変えられる。自分で道を創っていくのだ」


それ以上にショックだったのは、鏡を見た時だった。

最近、ニキビができなくてよかったのに、ニキビが出てきた。 これにはかなりショックを受けた。夜更かししてビデオゲームをしたり、食事をジャンクフードで済ませたりすることによる、当然の報いだ。

愛されていないと自分に言い聞かせ、無駄遣いのように毎日を過ごしていた。

「私自身が自分を傷つけたら、元恋人は私に同情してくれると思うか?」

「この状態の自分だけが愛されるか?」

ずっとこの状態で生活することはできない。

がんばって生きる必要はないけど、だからといってすべてをあきらめていいわけではない。

せめて生きていればいい。

余力があればもう少し頑張れたらいい。

死んだ魚の目で生きていても、誰も助けてくれない。 自分をほったらかしにしていて、相手に愛されたいと思うのはおかしい。


さすがに毎日を笑顔で過ごしたり、超健康的な生活を送れるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

これからはいかに自傷行為を減らし、自分自身をケアできるかに注力していきたい。

遅かれ早かれ、あなたは他の誰かに愛されるでしょう! できれば元恋人に愛されたいと思っているけど、その考え方を無理に否定する必要はない、諦めて受け入れればまた光が見えると信じている。


「マロン、私はまた頑張ってみようと思うの」

いつもマロンがいる窓辺に向けて私は呟いた。

もうそこにはマロンはいなかった。


でも、マロンの優しい視線を私は感じている。

私は決して一人ではない。

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