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閉ざされた部屋
amegahare
ホラー怪談
2024年08月18日
公開日
28,000文字
連載中
部屋の中での奇妙な話。

第1話 雄猫マロン(その1)

朝焼けが綺麗に色づき始めた早朝に、私は部屋の窓をノックする音に起こされた。

寝ぼけながら窓に近づくと一匹の雄猫が行儀よく座っていた。

「おはよう、猫さん」

私は部屋の窓を開けて、雄猫を部屋の中に招き入れた。

「お外、寒かったでしょ?」

私は独り言のつもりで呟いた。雄猫は私をまじまじと見つめて「ニャー」と鳴く代わりに私の前に丁寧に座り直して、ゆっくりと口を開いた。

「外はそんな寒くなかったよ。あっ、俺の名前はマロン。よろしくね、お嬢さん」

これが私とマロンとの出会いだった。

二十年間生きてきたけど、喋る猫には初めて出会った。

それから、私とマロンの何気ない会話を交わす日々が始まった。主に私の悩みをマロンに聞いてもらう関係だったけど。


ある日、私はマロンに尋ねた。

「ねぇ、マロン。誰かと別れたことはある?」

縁を切るということについて、私はマロンと話したい気分だった。私は最近、高校時代に3年間一緒に過ごした友人と縁を切った。高校時代には常に一緒にいるほど仲が良かったのだけれども。

マロンは私の話なんてどうでもいいのか、適当に相槌を打ってくれる。そんな、マロンを横目に私は話を続けた。

「大学に入ってから、会う機会が少なくなって、久しぶりに会ったときは違和感を感じたんだよね。 一緒にいても会話が続かないし、ぜんぜん楽しくない。これって、ひどいと思う?でも、本当のことだよ」

私は八方美人な性格のため、人との縁を切るのが大の苦手である。 高校生の時、明らかに自分に合わない人とも縁を切ることができなかった。なにより、縁の切り方がよくわからなかった。

「へぇ~、それは大変だね。話をしてごらん」

とりあえず、マロンは話を促してくれる。興味があるのかどうかはわからないけど。

私は遠慮せずに続けることにした。

「何を言っても自分の話にすり替えられたり、否定されたりするの。それが本当に辛くて、今思えばかなりのストレスだったの。 はっきりと嫌いと言える性格だったら、もっと早く解決できたのかもしれないけれど、私は八方美人なところがあるので、それができなかったの」

その人と縁を切ったら居場所がなくなるという恐怖心があった。彼も私のことを気に入ってくれているみたいだったので、とりあえず一緒にいた、というのが正しい言い方かもしれない。

「違和感を感じたら早めに縁を切ったほうがいいよ」

マロンは強い口調で私の考えを肯定してくれた。そして、マロンは続けます。

「俺は知っているよ。君が、家に帰ると、ずっと君のお母さんに文句を言っていたことを。 学校では何を言っても否定されるので、自分の母親にしか悩みを相談できなかったことを。そして、そんな辛い経験が君の性格を完全に変えてしまったことも。だからこそ

縁を切る勇気を持ってほしい」

マロンは私をしっかりと見つめていてくれます。

「俺は知っているよ。君の性格がどう変わったのかを。どうせ否定されるからと考えてしまい、自分の意見が全く言えないようになってしまったことを。聞くことに集中してしまい話し方を忘れて、話せなくなってしまったことを。ネガティブ発言が増えて、人間不信になってしまったことを」

本当の気持ちを隠して生活していた辛い日々のことが私の頭をよぎった。人と関わらないようにした頃のことを。 おかげでコミュニケーション能力を完全に失ってしまった。

「君の現在の人間関係は、大切な感情やコミュニケーション能力を失ってしまうほど重要なのかい?相容れない関係の影響は予想以上に心身に影響を及ぼすよ。俺の考えでは、相容れない関係が君の性格を変えたり、君を傷つけたりする場合は、関係を終了する必要があると思うよ」

マロンは一切の迷いなく言い切ってくれた。

「ありがとう、マロン」

私はマロンにお礼を言った。おかげで心が軽くなった気がする。

「君のお役に立てて光栄です」

マロンは、かしこまった口調で私に軽くお辞儀をした。


また別の日、私はマロンに尋ねた。

「ねぇ、マロン。好きなものは好きとは正直言えないことってある?そして、そのために趣味や人間関係が長く続かないことってあると思う?」

私は疑問形でマロンに問いかけているが、私の中では問いへの答えは確信へと変わっている。

マロンは大きく口をあけて、あくびをすると話し合始めた。

「それは、君が人からどう思われるかを非常に気にかけていることを意味すると思うよ」私はかなり自意識過剰であることを自認している。 嫌われるのは正直嫌だし、街を歩いている人に変だと思われたくないと考えている。 だからこそ、私は常にとても疲れている。

特に自分の言葉が相手を傷つけないか心配で本当のことは言えない。

好きなことを語るときも、この感覚が影響しているように感じている。

たとえば、私は勉強が大好きだ。 大学で勉強するのが好きだと素直に言える人がどれほどいるだろうか。 以前は勉強が好きだったと言えなかったことが、今でも頭から離れない。

マロンはそんな私を見透かしたように、さらに話を続けた。

「周りの人になじむのが面倒くさい、と考えている君がいるけど、そのことに対して嫌悪感を抱いている君もまたいる。他人が君をどのように見ているか、を常に意識している」

図星であった。私は 勉強が好きだと言うと、真面目でまじめだと思われ、友達ができなくなることを恐れていた。

私は自分の意見を言うとき、周りの人の反応にとても敏感に反応するので、傷ついたり疲れたりすることがよくある。 少しでも疑念や否定的な意見を聞くと、以前のように好きだったものや人を同じように見ることができなくなる。

「 周りの人が否定するものを好きになるのは変かな?」

私は涙目になりながらマロンに問いかける。 でも考えてみれば、この世に誰もが好きな物や人なんて存在しない。 結局のところ、私の心はかなり狭いと思う。 誰にでも好かれたい気持ち、否定的な意見を受け入れられない気持ち、 自分のことしか考えていない証拠だ。

思い詰めた様子の私をマロンは静かに見つめていた。そして、強い口調でマロンが話始めた。

「その気持ちはすぐになくなるとは思わないが、気づいた今は少しずつ変えていけばいいんじゃないかな。 好きなものは好きだとはっきり言うべきだよ。 自分の意見をはっきりと言い、相手の意見が自分と異なっていても、相手の立場に立って考えればいいと思うよ。 当たり前のことだけど、相手に好かれたいと思ったらすぐに好かれるわけではないよ。 自分の気持ちとしっかり向き合える人と関係を築いていくべきだよ」

私はマロンの的を得た意見に救われた気持ちになった。

「ありがとう、マロン」

私はマロンにお礼を言った。おかげで心がとても軽くなった気がする。

「君のお役に立てて光栄です」

マロンは、いつものように、かしこまった口調で私に軽くお辞儀をした。


一日中いろいろ考えていたけど、最近考える量が倍以上になった。

私にとっての幸せとは? 最近お金を使いすぎているけど、それが幸せなのかどうかわからない。

「ねぇ、マロン聞いて。考えれば考えるほど、自分が何のために生きているのか、何を欲しているのかがわからなくなってきたよ。 大人になったら勝手に利口になるのかな。 不安なことを考えずに生きられるのかな? 」

多くの悩みを抱えて生きることは幸せなのだろうか。

考えただけで疲れてくる。

マロンは、また気怠そうに体を伸ばして、口を開き始めた。

「そんなことより、君は少し眠ったほうがいいよ」

何も考えたくない、何もしたくない、また恋人と気兼ねなく付き合える日が来るのだろうか。 幸せは何ですか?

マロンは私の疑問すべてに的確に答えてくれるとは限らない。

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