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第11話 仕事の依頼

「とりあえず、教会で話を聞いてもらえませんか?」


「いいけどさ。お金はあるの?」


「あります。報酬はきちんと払います」


 真剣な表情だ。嘘を言っているとは思えない。



「わかった。行こう。俺はカンタロウだ」


「私はアゲハ」


「私の名前は、エルガといいます。では、行きましょう」



 エルガはカンタロウとアゲハを先導し、町の教会へむかった。



 教会につくと、神父が花壇に水まきをしている。


 煉瓦造りの建物は、小さく古い。


 天使の像が、入口を見下ろしている。



 神父はエルガに気づくと、シワを刻み、笑顔になった。


「おや? エルガじゃないか」


「おはようございます。神父様」


 エルガはふかぶかと挨拶した。




「今日は、あの日ではないのかね?」




「そうです。昼頃に連れていこうと思います」


「そうか。まあ辛いだろうが……。おや? そちらの方々は?」


「私の知り合いです」


 カンタロウとアゲハはお互いの顔を、見合わせた。


 エルガとは、さっき知り合ったばかりだが、何か事情があるのだろう。


 そう思い、二人は何も言わなかった。


 神父はカンタロウとアゲハの剣に、視線をむける。


「ほう? 剣士の知り合いがいたのかね?」


「はい。急ぐので、これで」


 エルガは会話をすぐに切り上げ、そそくさと教会の中に入っていく。


 カンタロウとアゲハも神父に会釈すると、後ろをついていった。



 神父は三人の様子をしばらく眺めていたが、すぐにまた水まきを再開した。



 教会の中に入ると、エルガは祭壇近くの長椅子に座った。


 その隣にアゲハ、カンタロウが座る。


 教会の中はひんやりとしており、静かで落ち着いた雰囲気があった。


 二人が席に座ったことを確認すると、エルガの口が開いた。




「あなた達に依頼したいことがあります。私の妹、ソフィヤをお城へ連れていってほしいのです」




「城へ? あの山の?」




「そうです。あのお城の名前はイデリオ。剣帝国王後継者であり、第三皇子だったラインベルン皇子が住んでいます」




「皇子だった?」


 エルガはうつろな顔で、教会の祭壇を眺める。


「はい。今は精神的病を患っており、お城に引きこもっています。国王継承権もなくなっています」


「どうして、精神病を発症したんだ?」


「詳しいことはわかりません。ただ、父である前剣帝国王が死んだときから、おかしくなったと聞いています」



 カンタロウは不意打ちにあったように、目を丸くした。その様子に、アゲハ、エルガは気づかなかった。



 エルガは話を続けた。


「あの城はラインベルン皇子が建てたお城です。病を患う前は、理性的で、良き王でした」


「その王様が、どうしてあなたの妹をお城へ招待したの?」




「理由はわかりません。ただ、半年前から急に町の娘に招待状が届きました。それから一ヶ月ごとに一人、招待状が届き、もう四人の娘がお城から帰ってきていません」




 興味がわいたのか、アゲハが身を乗りだしてきた。


「それで、私達にどうしろっていうの?」




「妹をお城に連れていき、現状がどうなっているのか、探ってきてほしいのです」




「ふぅん、王様っていくつ?」


「三十前後だと思います」


「もしかして、お嫁さんでも探してるんじゃないの?」


「それはありません。絶対に」


 エルガは断言した。


「絶対に? どういうことだ?」




「連れていかれた娘は、皆障害を持っています。手を動かせなかったり、片足をなくしていたり。私の妹も、生まれたときから全盲です」




 急に、アゲハは両足を投げだした。


「なるほど。それで町の人達の批判も少ないってわけね。やっかいな障害者を、お城でめんどう見てくれるんだから。この町の規模だといい医者や病院もなさそうだし」


「それは……」


 エルガの言葉がつまり、声が弱々しくなる。


「悪いけどさ。それは自分達で解決してくれる? ハンターに頼む仕事じゃないよ。私達の仕事は怪物や魔物を退治することが主であって、介護は専門外だから……」





「わかった。やろう」





 カンタロウが突然、依頼を引き受けた。


「えっ?」


「はあっ?」


 エルガとアゲハは、同時に声を上げた。



「仕事を引き受ける。妹さんを連れていき、お城の状況及び、帰ってこない娘達がどうなったのか、知りたいんだろう?」



「はっ、はい」


 エルガはコクコクと、何度もうなずく。


「ちょっと、カンタロウ君! こんな仕事引き受けてどうするの! 個人の問題じゃん! 他人が介入することじゃないよ!」


 アゲハは反対のようだ。


 エコーズがらみの問題ではないため、あまり乗り気ではない。



「それなら俺一人でやる。アゲハはやめてもかまわない」



 カンタロウの表情には、一点の曇りもない。


 アゲハは逆に、しかめっ面だ。


「ええぇ~。もう! マザコンのくせに!」


「親孝行だ」


「あっ、あの。ほんとうによろしいのですか?」


 エルガは意見の食い違う二人に、オロオロしている。




「ああ、かまわない。まだ状況はわからないが、あのお城で、娘達が幸せに暮らしているといいな」




 屈託のない笑顔で、優しく言うカンタロウ。


 エルガはその整然とした姿に、気持ちが動いたのか、頬が赤く染まる。



「はい――ありがとうございます」



 アゲハは、カンタロウに見とれているエルガの背中をつついた。


「はい?」


「言っとくけど、あの人マザコンだから。母しか愛していないから。惚れても無駄だよ」


「そっ、そんな! 惚れてなどいません!」


 慌てて両手を左右に振るが、明らかに自分の気持ちを言い当てられて照れている。


 ――あ~駄目だ。犠牲者がでちゃった。


 マザコンは冗談ではなく、本当であることを、エルガはまだ知らなかった。

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