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第4話 神獣



 中央監視室では、職員が大忙しで働いていた。



 職員は吸収式神脈装置を起動させるため、ディスプレーに表示されている機械の図面を指で押している。


 タッチパネル方式なのだ。


 指で押された信号は、自動制御装置に送られ、ポンプや機械が自動的に動いてくれる。



 オペレータを担当しているのは、猫型の獣人である。


 性別は全員女性で、長いしっぽを膝に置き、耳をピコピコ動かし、緊張感からか誰も無駄話をしない。


 聞こえるのは、指で押したときに鳴る、効果音のみだ。




「吸収式神脈装置、全機起動しました。起動完了まで、あと二十分です!」




 職員が所長にむかって叫ぶ。



 普段、吸収式神脈装置は一台しか動いていない。


 しかし『月の都レベル5』の結界をはるには、多くの神脈の流量を必要とするので、機械は五台いる。


 予備機一台残して、すべての機械が動いていた。




「よし! あと二十分で起動です!」




 所長は無線で、現場に伝えた。



 ヨルダが城壁の歩廊で無線を聞いていた。


 拡声器でハンター達に、大声で情報をがなりたてる。



「勇者達よ! あと二十分で結界が完了する! 月の都レベル5が発動されると、神脈を持つ者でも結界の外にでることはできない! その前に結界の外にでろ!」



 ハンター達が剣を振り上げ、声を張り上げた。


 城の外に住む住人達は、急いで道をあける。




「おっしゃ!」


「行くぞ! てめぇら!」




 人数としては五十人程度だが、すさまじい闘気が渦巻いていた。




 警戒の鐘が何度も打ちつけられる。


 けたたましさに、家にいた者も外にでてきた。




「都市部外に住む者達よ! 緊急警報が発令された! はやく外壁に集まれ!」




 ヨルダはありったけ大声で叫ぶと、双眼鏡で遠方を見渡す。




 双眼鏡から白い生き物達が、大群でこちらへむかってきていた。



 巨大な手足のみで這うようにくるもの。


 人型の姿のまま、普通に走るもの。


 背に翼をはやし、飛んでくるもの。


 大きく口を開き、体のみで地面を進むもの。



 神獣に目や鼻や耳はない。


 皆白い粘土のような生き物で、エコーズに命令されるまま動いてくる。


 彼らに自由意志など存在しない。




「……来たな。白い悪魔達よ」




 ヨルダはゴクリと唾を飲み込んだ。




「うわぁ、マジで神獣だ」


「俺やっぱやだよぉ」


「ビビってんじゃねぇぞ、てめぇら! 人間の根性みせてやれ!」




 傭兵団の大将が、弱音を吐く部下に活を入れる。


 獣人達が、簡単に追いこしていった。



「ははっ、お先に失礼、人間ども!」


「怖いなら家に帰って、ミルクでも飲んでな!」



 興奮から雄叫びを上げる獣人の上を、黒い影がさす。



「ふん、馬鹿な獣人と臆病な人間に追いこされるな」


「はいな!」



 杖に座り、空を飛ぶ魔女達が獣人を飛びこえる。



 さらに上空に、羽毛の翼をもった天空人が、彼女達よりもすでに先へ進んでいた。



「魔女どもよりも高く飛び、エコーズを探せ。必ず神獣が見える位置にいるはずだ」


「わかった」



 神獣とハンターが混ざりあった。



 神獣はハンターなど見向きもせず、都市へと直進していく。


 体を切られようと、痛みを感じないため行進は止まらない。


 何人かのハンターが、巻きこまれ、踏みつぶされていく。



 ヨルダは懐中時計を開いた。もうすぐ二十分になる。




「あと三十秒……二十秒……十秒……五、四、三、二、一。よし、『神脈結界発動』!」




 魔法円から白い魔力が、一斉に吹きだした。


 薄く、白い膜となり、都市よりもさらに高く、結界をつむいでいく。


 ちょうど半円の中に都市がおさまり、結界は完成した。



 結界の中に入ってしまった神獣は、神脈を吸われ、その体を保っていられない。


 体が割れ、壊れた泥人形のように破壊されていく。


 結界の外にいる神獣は、白い膜に触れただけで、手足がふき飛んだ。



 神脈をもつ生物は、結界に触れても問題はない。


 内部に残された者は悔しそうに、結界を叩いた。



「八割のハンターが、結界の外にでることができました!」



 ヨルダの部下が状況を報告する。


「うむ。頼んだぞ。勇者達よ」


 ヨルダは祈るように、手を組み、胸壁に肘を置いた。

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