そこでサウシスで会った魔族、グリオン・ガーラ君に再会し。
丁寧なお願いと、美味い酒と魚の燻製を振舞って。
ビリーバーであり魔法国家ダウン前国王、タヌー・マッケンジィと出会った。
タヌー氏よりエネミーシステムとサポートシステムの場所と仕様を聞き。
セブン公国中心部、地下二万メートルに一万二千の魔法障壁と四十八億の四乗通りのパスコードに守られた扉が三枚。
各扉を開くにはビリーバー特有のスキル『第〇種管理者権限』が必要になり、種別によって各装置の扉に対応する。
そのまま魔力との親和率や、株式会社デイドリームの話でなんとか扉を開けるまでの協力を取り次いだ。
だが直接的な破壊は嫌がった。
これは恐らく過干渉を
クロス先生もビリーバーとしての過干渉を
まあ方向性としては、公国落としの隙に僕が掘ってぶっ壊すことに固まった。
グリオン君を連れて、トーンに戻り今度は公国落とし……まあ正確には公都制圧の為、帝国に協力を仰いだ。
セツナの作った超高性能魔道具を用いてプレゼンし、何とか話を通した。
そこから帝国側にもビリーバーがいる可能性を探るために軽くガクラたちに話を振ったら。
居た。
魔動結社デイドリーム。
帝国の発展させた最大手魔道具メーカー。
出てきたのが女社長リョーコ・タイラー=ジャストランだった。
美女だが若かった。
最終世代のビリーバーとは年齢が合致しない為、警戒していたがどうにもビリーバーの娘だった。
父親を呼んでもらうように頼んだが。
ビリーバー、リョーヘェ・タイラーは既に逝去されていた。
僕は衝撃を受ける。
ビリーバーも……、あの卓越した世界最強の異世界転生者たちも、死ぬ。
いや……、それはそうだ、人なのだから当然だ。
流石ビリーバーの娘ということもあり、セツナの作った魔道具を量産して貰えることになった。
あとは帝国軍に公都侵攻をガクラが上手いこと通してくれれば話が進む。
打ち合わせや親睦会も兼ねて、ガクラの家で食事をご馳走になっていると。
クリア・クラックは、現れた。
僕が見間違えるはずもない、あの日、あの時の『無効化』少女が現れた。
僕は『超加速』で接近したと同時に『無効化』を使われたので擬似加速へと切り替えた。
その隙にジャンポール君が擬似加速を使って割って入る、凄まじい反応速度だし優秀だがまだ甘い。
天井に向けてぶん投げて『無効化』少女の記憶を読み取る。
あの日、あの後、何があったのか。
僕は知りたかった。
彼女の記憶からあの日、クロス先生が僕を助けに来てくれたこと、討伐隊や父上を圧倒的に畳んで現れた魔物から討伐隊や僕らを転移で救ってくれたこと。
何度も夢想し、想像した通り、いや感動はそれ以上。
ずっと知りたかった光景を僕は見た。
確信した、先生は僕にトーンで待たせるために跳ばしたんだ。
あの程度の魔物に世界最強の異世界転生者ジョージ・クロスが
きっとどこかで生きていて、なんかしらの事情や単純に忘れているだけなんだ。
僕の行動は間違っていない、それが確信に変わる。
そこからは公都強襲制圧の準備を進めた。
魔動結社デイドリームでの魔道具量産。
魔道具を用いた戦術と作戦、部隊編成。
連携や技量を底上げする為の訓練。
とにかく僕は働いた。
待っているだけの時と違って、前に進む為の労働は充実していた。
セツナは自身の開発した魔道具や魔動兵器を組み合わせて、魔動結社デイドリームと共同開発で専用の新兵器を造り出し。
僕は基本的に戦闘には参加しないけど、もしもの為に専用武装の『棒ヤスリ』を大量生産してもらって空間魔法にぶち込んでおいた。
それと『魔法抵抗剤外装』を編み込んだコートを貰った。
色はもちろん黒、これが一番かっこいい。
キャミィとクリア嬢には衛生治療に加わってもらい。
山岳攻略部隊はグリオン君たち魔族小隊と組んで、公国最大戦力である対勇者パーティ用の部隊として再編成した。
そもそも山岳攻略部隊はかなり強い、ガクラの視る力は凄まじいしジャンポール君の個人技量はトーンのベテラン勢にも匹敵するし連携も凄まじい。
そんな準備期間を経て、作戦決行の日。
「さて……、そろそろ僕も出ようかな」
僕は伸びをしながらリーライ辺境伯拠点作戦本部で呟く。
通信網からの情報共有で既に、転移を使って公都内の軍事拠点や貴族の強襲制圧は開始されている。
この隙に僕は公都の中心部、旧王城へと向かおうとするが。
丁度出ようとしたタイミングでギルド本部を担当している第二十強襲制圧部隊隊長のディアールから、援軍要請が入る。
第二十強襲制圧部隊は元々音楽隊上がりの連中を中心に編成されていて、連携の練度は相当高い。
冒険者という民間人相手に極力魔法を使わないように動いてはいるが、公都のぬるい冒険者たちに
しかし報告にあった、強すぎる盾使いの女に僕は心当たりがあった。
「あー、僕が行くよ。通り道だしね」
そう言って転移でギルド本部まで跳んだ。
そこに居たのは予想通り、完全鉄壁の大盾使いリコーだった。
なんでリコーが公都にいるかは知らないが、これは荷が重い。
その気になれば三日三晩ぶっ通しで戦い続けるほどの戦闘持久力を誇るし、盾を使った防御戦闘はブラキスでも簡単には破れない。
でも、申し訳ないが僕の速さにリコーは着いてこられない。
丁寧にお願いをして武装を解除して家に帰って貰うことにした。
拘束するとバリィを怒らせそうだし、バリィが動いたらこの公都強襲制圧作戦自体に影響が出る可能性がある。
バリィは無意識ではあるが『狙撃』の、あらゆる策を狙い通りに動かす域にたどり着いている。
そんなバリィを動かすのは良くない。
なんて考えつつ、僕が旧王城へ向かおうとしたところで。
「あんたが何をしたいのかは私にはわからないけどさ、多分簡単にはいかないよ」
と、リコーは不敵な笑みを浮かべて僕に言う。
頭の中で色々な起こりうる問題を考えそうになったが。
「んー……、まあ何とかするよ。僕は何とかしなくちゃならないことを何とか出来なかったことがない」
考えるのは止めて、適当にそう答える。
まあかつての仲間からの激励として受け取っておこう。
その足で僕は旧王城の裏へと向かった。
本来、旧王城には軍による警備がいるが既に第三騎兵団がこの辺りは制圧を終えている。
当初は
リコーの不穏な激励が少し気になる。
タヌー氏に聞いた座標が……えーっと。
なんて僕が掘る場所を探してうろうろしていると。
「こんなところで何を生きている、早く死んでこの世から去れ」
耳を疑いたくなるような言葉を向けられる。
何かの聞き間違いだと思い振り向くと。
そこに居たのは姉、スノウ・クローバーだった。
ならば納得だ。
姉さんはとても頭が悪いから品性のないことを平気で言う。聞き間違いじゃない。
僕は適当にあしらう為に、姉さんと会話のレベルを合わせて話そうと
そこに現れたのは父だった。
グレイ・クローバー侯爵、あの日ぶりに会ったが……流石に老いたな。十六年ぶりだもんな。
そこから挨拶もそこそこに、やはり噛み合わない会話をする。
やはり無理だ。
結局、分かり合うことはできないんだな。
まあこれに関しちゃ、僕も悪いか。
僕は外患誘致に国家転覆の超凶悪犯で彼らはこの国を守る騎士。
言語は同じでも、通じ合えないこともある。
なんて、納得できるほど僕は人間が出来ていない。
彼らの殺意に当てられて、
蓋をしていた真っ黒な感情が噴き出してしまった。
また心が動いたところを狙われて羽交い締めにされ、父上に剣で首を狙われたが。
止まって見える。
もう僕の世界に彼らはいない。
消滅魔法で父上の剣『トゥルーブレイバー』を腕ごと消し飛ばす。
もっと凄そうなイメージだったけど、ただの
「………………なんなんだ。やめてくれよ……、こんなの、時間の無駄なのに……」
両腕を失い叫ぶ父上を気に止めることもなく、僕は本心を呟く。
ここから僕は、子供の頃に硬めた真っ黒な殺意に身を
姉さんの魔法を『超加速』で解いて、城壁に弾き飛ばして『棒ヤスリ』で打ち付けた。
父上を殴って蹴って、ひたすら罵倒した。
子供の頃の僕が言いたかったことやりたかったことを、全部ぶちまけた。
気づいたら父上はボロボロで、言葉も話せない状態だった。
僕は髪の毛を掴んで起こして、話せる程度に回復を施す。
自分では何かを期待したつもりはない。
でも、もしここで父上が僕……いや、家族というものについての贖罪が聞けたのなら。
僕の熱は収まるかもしれない、そうは思った。
だけど父は。
「――――……
自爆魔法を詠唱した。
加速した世界でも、確認できるくらい、父上の体が魔力で膨らんで裂けて砕けていく。
離脱はいつでも出来る。
だがこれは、異常で
見届けざる得ない、愛も尊敬もないが。
憎悪もこれでおしまいなのだから。
爆発が始まり身体が弾け、絶命を確認したのと同時にせめて頭部だけでも空間魔法に入れて回収する。
この爆発じゃあ死体は残らない。
せめて一部だけでも回収することにした。
爆発を回避し、元の位置に戻る。
「……まさか自爆なんて…………危なかった、何とかギリギリ回収できた。墓に入れるもんはあった方がいいだろう。姉さん、これ埋めといて」
僕は城壁が砕けて動けるようになり、身構える姉さんに向けてそう言って父上の頭を放り投げる。
もっと丁寧に扱うべきだとは思うが、臨戦態勢の姉さんに近づくのは面倒だった。
一応これでもそれなりに心が疲れてきている、雑にもなる。
父上の頭部を受け取った姉さんは、取り乱して泣き叫び完全に戦意を失った。
というか、姉さんにとって絶対的な価値観で、全ての常識や世界を作った父上が目の前で死んだことで。
壊れてしまった。
「……まさかここまで壊れるなんてね。人のことはさんざっぱら虐げて追い詰めて壊してきたのに、いざやり返されたらこれか…………」
僕はまだ
まあでも、そういう優しさは姉さんには不要なものだ。
僕は敵で、悪でなきゃならない。
「生きるのも大変だからね、まだ世界が今のままの内に死なせてあげるよ」
そう言って僕は『棒ヤスリ』を構える。
これから世界はスキルを失う。
スキル至上主義者の姉さんには耐えられない。
せめて僕という巨悪に負けた優秀な騎士として、死んでくれ。
僕が姉さんの心臓を突こうとしたその時。
「……な、何やってんだよ。クロウさん」
驚愕しながら、メリッサと勇者パーティの仲間たちが現れた。