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06この物語の主人公は世界を顧みない

 でもその前に、せっかくの自由なので町を離れて行った仲間たちにも少し顔を見せよう。

 彼らには感謝しかないし、向こうはどう思っているかわからないけど僕も彼らの仲間だと思っている。


 最初に会いに行ったのはバリィとリコー。

 二人はサウシスの街で暮らしている。

 恐らくもう子供も産まれているだろう。


 そこで僕は驚愕する。

 魔法族、まあ魔族の人を初めて見たってのにも驚いたけど。


 バリィとリコーの娘、ライラは『無効化』持ちだった。


 かつて見た『無効化』少女の境遇が頭に過ぎる。

 これが公国にバレたら、多分ライラは攫われて生物兵器として管理されることになる。


 バリィとリコーに伝えるか?

 いや、ダメだ。

 二人は多分……、暴れすぎてしまう。


 バリィは手段を選ばない。

 本気の時は僕より無慈悲だ。

 下手したら内乱になるくらいに、世の中混乱におとしいれるくらいのことはしでかす。


 ライラが自分のステータスを読めるようになるにはまだまだ時間がある……。

 だったらそれまでに終わらせれば良い。


 僕はまた一つ、世界を正しい姿に戻すことの言い訳を手に入れて次は西へと向かった。


 西は勇者イベントによって壊滅的なダメージを負っていた。かなり悲惨な状況だったらしい。

 なんせ、あのジスタたちが帰ってこなかったのだから、その過酷さがはかり知れる。


 僕は瓦礫だらけのかつて街だった場所に、似つかわしくない不自然なほど綺麗な慰霊碑に向かって歩く。


 そこに修道服を着た美人……、キャミィが居た。


 そうか、そういえば言ってたな。

 キャミィだけは必ず生き残らせると。


 彼らに頼まれてもいたことだ。

 道中で買った花束とトーンの酒を慰霊碑に置いて、心の中で冥福を祈り。


「さあ、久しぶりの再会だ。少し飲もうぜ、僕は前から君を口説いてみたかったんだ」


 僕はそう言ってから一晩、彼女を説得した。


 思いがけず感情的に。

 忙しくて考えられてなかったものが、一気に追いついてきた。


 僕はジスタやテラやミラルドンやシードッグにアカカゲ……、彼らが好きだった。仲間だったんだ。

 何だかんだでキャミィを説得することに成功して、仲間たちの死に囚われていたところを離れさせることが出来た。


 次は北、ブラキスの実家へと向かった。


 彼は少し自分に自信が足りていないというか、過剰な腕力に精神性が追いついていないというか……、まあまだまだ子供だから仕方ない。


 心配もあるので顔を見せたらまさかの、魔物と交戦中だった。


 しかも劣勢、しんたいは掛け算だ。

 心がゼロなら、どれだけ肉体が屈強で卓越した技量を持とうが発揮は出来ない。


 とりあえず魔物の足を止めたら、ブラキスから迷いが消えて一撃で消し去った。


 来てよかった。

 彼は連携の中で活きるタイプだ。

 本人は臆病者だと気にしていたが、気にすることじゃあない……。


 彼を励ましてから、次に僕は公都へと向かった。


 スーツを仕立て直したり、髪を整えたりしてからセツナの働く工房へと向かった。


 正直緊張していた。

 久しぶりにあった女が綺麗になっていたら、他に男が出来ている。

 僕は先生からそう習った。

 故にセツナが綺麗になっていたら、そういうことなのだ。


 緊張しつつ久しぶりに、体感としては本当に久しぶりに会えたセツナは眼帯と眼鏡はしていたものの。

 変わらぬ綺麗さで、以前と同じように素敵なままだった。


 だから……、一応プロポーズ的なものを伝えておいた。


 が、そこに軍が現れて外患誘致罪だのなんだので捕まった。

 そっちなのか、まあ討伐隊殺して回ったことより外観誘致の疑いがある方が急務か。


 でも丁度良かった。

 ここで父を呼び出して、記憶を読み取ろう。


 僕は取り調べの際に、自分がクローバー侯爵家の人間であることを匂わせた。

 貴族、しかも主要貴族のクローバー家の人間を逮捕となれば軍とはいえ問題になる。万が一がある為、確認を取るしかない。


 クロウを名乗る人間が現れれば、父上なら僕を殺しに来る。

 そう思っていたが、来たのは姉さん。

 スノウ・クローバーだった。


 あーこっちが来たか。

 そりゃそうか、もう十六年経ってんだもんな。

 姉さんも騎士になっているだろうし、動くならこっちだ。


 姉さんにはまるで用はないんだけど。

 全く噛み合わない会話を少し楽しんだら、加速した世界で何十年も過ごして忘れかけていた真っ黒な殺意がチラついて。


 少し暴れてしまった。


 まあ殺しはしなかったけど。

 この歳になって思うが、この人もまたスキル至上主義の犠牲者なんだ。

 たかがちょっと使い勝手の良いスキルと、ステータスが伸びやすかっただけで。

 環境によって優秀であることを義務付けられ、家族に縛られ、自分が如何に狂っているかも教えてもらえない。


 でもこれが最大の譲歩だ。

 これ以上は、子供の頃の僕に怒られてしまう。


 あの頃の僕なら初手で殺している。

 その殺意はまだ僕の中で生きている。


 同情はするが、優しくは出来ないよ。

 あのブライでもギリやり過ぎだと思う程度に、姉さんを畳んで……。


 あ、そういやブライに会うタイミングが無かったな。まああいつの適応力は異常だ。ギルド武術指南だろうとなんだろうと達者にやっていけるだろう。


 なんて、考えていたところにメリッサが今の仲間たちと一緒に現れた。

 しっかり勇者パーティとしてやっているようで、お仲間さんたちが僕を狙ってきたからとりあえず優しく気絶させた。


 メリッサは僕の蛮行に取り乱して、暴力的に純粋な好意を僕へとぶつけてきた。


 先程セツナにプロポーズをしてきた僕は、今まで傷つけないためにあやふやにしてきたこの話に決着をつけなくてはならないと思い。

 一瞬の罪悪感と戸惑いに心が動いた瞬間、姉さんに後ろからがっちりとホールドするように組まれて魔法で硬化する。


 メリッサに僕を討つ隙を与えたようだけど……、無駄だ。

 僕は『超加速』を用いて姉さんの魔法の魔力消費量を加速させて、解く。


 悪くない奇襲だった。

 実際僕のスキルが『超加速』じゃなかったら成立していた。

 でもメリッサに僕を刺すなんてことで、傷つけたくない。


 僕はとりあえず動けなくなる程度にもう一度丁寧に姉さんを畳んで。

 転移魔法で一度公都を出た。


 とりあえず父上には会えなかったが、姉さんを見て改めて覚悟が決まった。


 この世界にスキルは要らない。

 さっさと終わらせる。


 と、その前にセツナをさらうことにした。

 僕との関係で軍や騎士に捕らえられても困るしセツナに何かあった時、僕は多分想像以上に暴れてしまう。

 光学迷彩と気配隠蔽などを使ってセツナに会いに戻り、攫った。


 セツナはこころよく着いてきてくれて、しばらく二人でのんびり過ごした。

 久しぶりの恋人同士が二人きり、まあ語ることもない。


 服を着ている時間の方が短い二週間を過ごし、僕らはトーンへと戻った。


 トーンに戻って一旦ガクラたちにセツナを預けることにしたが、そこでまさかのキャミィと再会、しかもジャンポール君と恋仲になっていた。

 これは……、ジャンポール君はしっかりと鍛え直す必要がある。

 キャミィを幸せにする為に、みっちり鍛えてやろうと思った。


 まあ、ここからエネミーシステムやサポートシステムの装置を探すことにしたのだが流石にどんなものかもわからないものを世界のどこかから見つけ出すのは『超加速』を用いても途方もない。

 それにわりと、宇宙空間の衛星軌道上に人工衛星として存在しているとか月にあるとかも有り得る。


 なので思考を加速させて、考えた。


 ……やはりビリーバーに聞くしかない。

 だがクロス先生は消息不明、そもそもクロス先生が見つかるのならスキルも魔物も消す必要はない。


 でも……、最後のビリーバーがクロス先生だけだったとは限らない。


 サプライズモア株式会社の内部告発からの一斉検挙の際、自決方法にGISを用いてビリーバーとなった人間が居てもおかしくない。


 ではビリーバーが居るとしたらどこだ?

 僕の頭の中にある記憶を片っ端からひっくり返して思考する。

 脳が悲鳴をあげ、回復速度を上回り鼻血が垂れたところで。


「……


 僕は鼻血を拭いながら呟く。


 まあそこに至るまでの思考回路は一旦置いておこう『超加速』による総当りでの力技なので語れることはない。


 ざっくりいうとサウシスに現れた魔族は魔力増幅装置である『賢者の石』を狙っていた。

 だがそもそも膨大な魔力を有する魔族がそんなものを欲しがる理由を考えた。使い道を考えた。

 魔力増幅装置は魔力との親和率をあげる為に使える。

 と、すれば。

 親和率理論を持ち込んだ者が存在する。

 そもそも今の人類が魔力との親和率が下がっていることを知っている者がいない。


 居るとすれば異世界転生者だ。


 僕はトーンから魔族領、魔法国家ダウンへと向かった。


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