俺の頭の中がキャミィとの日々で埋め尽くされた時。
魔物たちが一斉に、俺たちに向かって迫ってくる。
同時に、ボロボロの野郎共の目に炎が揺れる。
「ぉぉおおおらァ――――ッ‼」
ジスタは雄叫びを上げながら盾を構えて突っ込んで、片手剣で袈裟に斬りこんで爆発する寸前で魔物を蹴り飛ばしてギリギリ爆風を盾で躱す。
「せぇえあ……ッ!」
「……はぁっ‼」
ミラルドンが刃こぼれだらけの刀で斬りつけたのと同時に、テラが合気の技で近くの魔物に投げつけて爆発に巻き込む。
「シィィィィィイ――――ァァァああッ‼」
シードッグは
「……しゃらぁっ‼」
俺は運足で翻弄しながら短刀でひたすら末端から肉を削るように切り刻んで、軽くなったところに卍蹴りから半月当て、最後は飛び旋状蹴りで飛ばして距離を取って爆発させる。
一匹相手でこの疲労感か……、何匹殺れるか。
ここから似たようなやり方で、二匹、三匹と仕留めて行くが。
「――っ、ぐう……はあっ!」
ジスタは爆風に盾を壊されて、ひしゃげた左腕を庇いながら気合いを入れ直す。
「ジス――――」
「寄るな馬鹿ッ‼ 故郷を守るんだろうがぁッ‼」
回復しようと近づこうとしたキャミィにジスタは怒鳴りつける。
「おまえの回復は戦いの要だ! 生き残れ‼」
ジスタは笑顔でそう言いながら、突っ込んでくる魔物に剣を突き刺して爆発した。
「完全回復っ!」
キャミィはほぼ同時に、自身が使える最大の回復魔法を唱えてジスタをギリギリで回復させる。
回復したジスタは間髪入れず別の魔物に向かっていった。
決死のジスタにキャミィが何か言おうとしたところで。
「キャミィが生き残れば何とかなる! 運良く俺が残ってたら治してくれよ!」
へし折れた刀を握りながら笑顔でミラルドンはそう言って、爆発に巻き込まれる。
「――ッ、完全回復!」
キャミィは慌ててミラルドンを回復させる。
ミラルドンも回復したと同時に別の魔物へと向かっていく。
「明日を生きるならおまえだよ。まだ若いし、女だ。早死には男の美学だ。任せとけよ」
魔物の口の中に杖を深々と突き刺しながら笑顔でテラはそう言って、爆発に巻き込まれた。
「か、完全回復……っ!」
すぐにキャミィはテラを回復させる。
「大丈夫! まだ戦える! 安心しろ、おまえの番は回って来ないよ!」
シードッグは完全に鋭さを失った大剣で魔物を叩き潰して、そう言いながら爆発に巻き込まれる。
「ッ完全、回復っ‼」
即座にキャミィはシードッグを回復させる。
そして俺も。
魔物へ旋状突きから海老蹴り、旋状蹴りで飛ばそうとするが軸がぶれて出力しきれなかったところで。
「おまえのことがずっと好きだった」
俺はキャミィに笑顔で、伝える。
もっと気の利いた言い回しとか。
もっと沢山言いたいことがあるが。
浅く入った蹴りによって魔物は爆発し俺は巻き込ま
一瞬記憶が飛んでいる。
どうにもいいのを貰ったようだ。
俺はすぐに体勢を立て直し、ボロボロの短刀を魔物に振る。
飛び旋状蹴りから着地にそのまま海老蹴り、起き上がりから旋状突きで短刀を突き刺すも刃が引っかかり離脱が出来なかったので。
「キャミィ! 俺はおまえのことがずっと好きだったんだ!」
俺は笑顔でキャミィに思いを伝える。
なんかもう少し格好の良いことを言えたら良かったけど、俺には大した語彙はない。
短刀を離したところで間に合うわけもなく、俺は魔物の自爆に飲まれ
意識がとんでいた。
気づいたら短刀も、うしなっていた。
とにかく素手で、魔物と対峙する。
重い運足で、突進を躱しきれるわけもなく。
真っ向から組み合って、膝蹴りを連打して海老蹴りでかち上げて、真上を向いて開いたガマ口に飛燕突きを深く差し込んだところで。
「朝日が、キャミィが、好きなんだ!」
俺は笑顔でキャミィに言う。
全然頭がまとまらなない、でもとにかく俺はキャミィが大好きだから、それが言えたのなら良かった。
深く突き刺した拳で魔物が爆発をして巻き込
……あれ? いやいいか。
なんか右腕が無いけど、まだうごける。
気づいたら何人かいない気がする。誰がいない? テラと……ミラルドンか?
まあとにかく、数をへらすしかない。
俺はかろうじてあしを運んで、魔物に組みつく。
後脚に捻体足絡みでからんで、むりやり足をちぎって、ちぎったあしを左手で握って身体で振ってなぐりつけて三日月蹴りを刺したところで。
「愛してる
気づいたらおれ以外、死んでた。
順番が。ああ、俺だ、次は。
あるきづらい、みぎあしが足りない?
目もはんぶんだ。
ころがるように、まものに向かってく。
ひだり手を、まものの目につきさす、かみついて肉をけずる、ひだりてをひきぬいてかみついた傷ぐちに手刀をさしたとこで。
「キャミィ、俺は
気がつくと俺は馬車に乗っていた。
ああ寝ていたのか、俺は。
ゆっくり伸びをして、煙草を咥えて火をつける。
「おお、来たかアカカゲ。行くぞ、もう終わった」
ジスタが馬車の御者席でふんぞり返りながら俺に言う。
終わった……? 何が……。
ああ、そうか。
俺は馬車の
遠くでキャミィが倒れていたのをボロボロの生存者……、あれはテンプか。
テンプや他の生き残りたちが、キャミィを抱えて撤退する様子が見えた。
良かった、キャミィは無事に生き残ったようだ。
「幸せになってほしいな」
同じく様子を見ていたミラルドンが、穏やかに呟いた。
「ああ、絶対に幸せになってほしい」
テラがそんな俺たちにさらりと言う。
「変な虫にひっかからんか心配だな……クロウとか」
シードッグが眉をひそめて
「クロウは相当遊んでるし節操もねえが、真面目だ。キャミィに手ぇ出したりは……多分しねえよ」
苦笑いしながらジスタは返す。
「だが心配は心配だな……、適当な軟弱者にキャミィを幸せに出来るのか? 最低でも俺らより強くなきゃ駄目だぞ」
ミラルドンは身体を向き直して語る。
「確かに……、それでいてマトモな奴だ。ブライは論外としてバリィみたいな狡猾すぎるのも駄目だな」
シードッグも同意する。
「ちゃんとキャミィを根っこから大事に出来て、誠実でちゃんとした奴か…………つーかアカカゲも死んでんじゃねーよ、馬鹿。てめぇが残れりゃあ解決してたんだぞコラ」
ジスタが急に俺へと矛先を向ける。
「無茶を言うな馬鹿野郎。つーかてめぇらがヘボだから壊滅したんだろ、俺になすりつけんな」
俺は即座に切り返し。
「…………まあ、キャミィは大丈夫だよ。あいつは男を見る目はあるはずだからよ」
にやりと笑って、言ってのける。
「「「「違ぇねえ」」」」
にやりと笑って、野郎共もそう返す。
そこから酒を飲み交わして、馬鹿話を続けた。
やがて、朝日が登って馬車は真っ赤な朝焼けに包まれる。
キャミィを生き残らせられた満足感と少しの喪失感と共に、真っ赤に溶けていく。
ああ、良かった。
後は、頼むから幸せになってくれ。
俺たちはここまでだけど、ここからの長い人生を素敵なものにする出会いをしてくれ。
たまにでいいから、俺を思い出してくれ。
でも、俺なんか忘れるほど幸せになってくれ。
もしキャミィを不幸にしたり傷つけるような奴がいたら、呪う。
最悪のドン底まで追い込んでやる。
怪我や病気はキャミィが治せてしまうか……、そうだなブライに一生付きまとわれるとかが丁度いい最悪か。
まあそのくらいの嫌がらせは許してくれ。
ただただ、キャミィの幸福だけを願いながら。
朝日に溶けていった。
一方。
東の果ての山脈の向こうで。
俺たちの要望通りの屈強な男が、一人。
朝日とともに山を越えようとしていた。
後に世界最速最強から色々と叩き込まれ、帝国最強の軍人となるその男がキャミィの幸せのために尽力することになるのだが。
それは、そいつとキャミィの話だ。
俺の話は、これで終わりだ。
おしまい。