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14だから東に昇って西に沈んだ

 死者ゼロ。

 武器類損耗軽微。

 大討伐開始以来、最短討伐記録だったらしい。


「諸君らの健闘は想像以上だ。恐らく、幾多ある討伐隊の中で最強の隊だと思う! このナント・カーン、感服した‼ 感謝と決起を込めて、酒を振る舞う! 故郷の酒だ! 明日に残さない程度に楽しんでくれ! 明日からも活躍を願う!」


 指揮官の軍人、ナント・カーンは堂々とそう宣いながら部下にトーンの酒を配らせる。


 ええ……、本当にナントカって名前じゃないか……。

 つーかこの量の酒を持ち込んでいたのか? とりあえず飲んで結束を固める。まあ、かなりトーン的な思考か……。

 確かにあのナントカは、当たりの指揮官なのかもしれん。


 そこから、快進撃は続いた。


 まあ毎回負傷者は出たし、疲労困憊だったが。

 死亡者やリタイアする者は出なかった。

 定期的に短いが休養を挟み、騙し騙しだが物資も不足させることなく行えた。


 数を重ねる毎に、他パーティとの連携も上手くなり。

 ナントカも冒険者たちの技量や得手不得手を把握して、的確に指示を出せるようになった。

 空挺魔法部隊の連中とも酒を飲んだ。


 そして、俺らが参加してから十一回目の討伐が終わった。


 無論討伐は完了した。死者も出なかったが……、だ。

 今回の魔物は二十五メートルはある岩を積んで作った石垣の巨人みたいなやつの討伐だった。

 とにかく硬くて小賢しくも魔法防御まで張ってくる厄介な魔物だった。


 俺の棒手裏剣や短刀じゃあ通らず、後衛魔法火力も通りづらい状況で長期戦となった。

 戦闘状況が長く続けば続くほど、怪我のリスクはどんどん増えるし消耗もする。

 長丁場になることを踏んで、各パーティの前衛盾役で順々にヘイトを管理しながら後衛からの牽制を挟みつつ前衛火力で削り続けるというものだった。

 幸いなことに鈍重で俊敏な動きはしてこなかったが、両腕を不規則に振り回して暴れられるのはかなり厄介だった。


 実際かなり怪我人が出た。

 俺も二回くらい肋骨全部が砕けた。

 キャミィも大忙しで『復元』で回復魔法の魔力消費が抑えられているにも関わらず、やや魔力が枯渇気味になるほどだった。


 キャミィを含む回復役たちの尽力のおかげで、全員怪我は回復したが疲労はまでは回復しない。

 肉体的にも気力的にも武器などに関しても、かなり消耗した。

 忍耐力を鍛え抜いてきた俺ですら正直かなりキツい消耗具合だ。

 棒手裏剣も結構減ったし、ワイヤーもかなり切られた。

 身体も重い、倦怠感が酷い。


 討伐隊全体に二日三日……最低でも丸一日の休養と物資の補給が必要なのだが。


「すまんが……諸君らには明日も討伐を行ってもらうことになった」


 疲労困憊のナントカが、集めた各パーティのリーダーたちに眉をひそめながら伝える。


 俺は気配を殺して天井裏で盗み聞きをしている。

 何となく嫌な予感がしていた。

 いつだって面倒事は畳み掛けてやってくる、どうなるのかを先んじて知るために話を聞いておくことにした。


「……ナント、常識的に考えたら今の俺たちが動けるわけがねえのはわかってんだろ。最低でも二日の休養と武器やらの整備と補給の期間が必要だ、このままだと死人を出すことになるぞ」


 ジスタは疲れからやや苛立ちながら、ナントカへと返す。


「死人が出てしまうのと、出しに行くのとじゃあ全然違うぞ。前者は過失致死、後者は殺人だ。あんたらは今俺たちを殺そうとしている。ここからは一旦それを理解した上で口には気をつけて続けろよ」


 シードッグも珍しく怒りを滲ませて、ナントカへと言葉を向ける。


 だが確かにその通り。

 万全を期して最善を尽くした上で、人が死ぬのは想定外による事故や単純な失敗によるものだ。


 でも、消耗している状態を把握した上で無理を強いるのは殺人だ。

 回りくどいが暗殺方法にもある。情報操作で負傷した兵の部隊を大した装備も与えずに苛烈な前線に送り出して、戦死に見せかけて殺すみたいな。

 殺されようとしているのか……? 俺たちは。


「進捗率がかんばしくないと……、作戦総指揮を取る騎士団から圧力を受けた……。遅れを取り戻す必要があるそうだ……」


 歯を食いしばりながらナントカは語り出す。


「……はあ? どう考えても進捗は良いはずだろ? 俺らだけでも二日で一体以上は討伐していて既に十一体、他五つの討伐隊も減ったり増えたり入れ替わりもありつつも何だかんだで三日に一体以上のペースで討伐出来ているし一ヶ月で百は行けるし、まだシャーストにすら届く気配もない。まだ冒険者が集まるだろうし、軍ももうちょい前線に人を送ってくれりゃあ年内には終わるくらいだろ。この規模の氾濫にしちゃあ破竹の勢い過ぎる、相当巻いてるはずだぞ」


 他パーティのリーダー、テンプがナントカを睨むように正論を捲し立てる。


 ちなみにテンプは初日にキャミィをナンパして俺たちに絡んできたパーティのリーダーだ。わりとタフで、三叉槍に魔法を纏わせる面白い戦い方をする。


「騎士団の想定では…………。過去に騎士団が討伐した大型魔物との戦闘時間から算出して、六つの討伐隊が各自一日三体ペースで討伐し……一日十八体、一ヶ月で五百四十……現状観測されている大型魔物が約千であることから二ヶ月以内にこの大討伐作戦を完了させるつもりだったらしい」


 頭を抱えながら、ナントカはとんでもない馬鹿なことを言う。


 いや……、マジで言って……え? 大型魔物も様々な種類が居て、強さもピンキリだし相性もある。

 今回やった石垣の巨人も俺らとは噛み合わなかったが、バリィんとこみたいにブラキスの過剰な物理火力があれば瞬殺だった。

 討伐時間にはバラつきがある。平均は出せるが参考程度にしかならない。

 そりゃ俺らだって噛み合う大型魔物を一体倒すんなら、初日みたいに消耗せず数十分で倒せる。


 だが、これは大討伐作戦だ。

 氾濫した魔物を全滅させる為に長期的な戦闘継続力が要求される。

 余裕があるから一日何体も相手にしていたら、消耗が早くなる。そうなれば結局どこかで無理をしなくてはならなくもなるし、負傷者や死亡者によって討伐自体がとどこおる。


 人が入れ替わると連携を組み直さなくてはならないので、それも時間がかかることになる。

 適正ペースを守ることが、大局的に見た最速なんだ。

 特に自身の損傷や命をないがしろにしがちな俺は、ジスタやシードッグにこれらを昔から叩き込まれてきた。


 常識を語れるほど自分がマトモな人間だなんて思い上がってはいないが、これは流石に冒険者たちの常識だ。

 見ている感じ軍もこのくらいの常識には配慮して動いている。空挺魔法部隊の奴らも、まあまあな連携練度で戦闘状況に対する理解度も高かった。


 騎士団は想像以上に馬鹿だ。

 スキル至上主義で担ぎ上げられて地位にかまけた幼稚な貴族共の、ままごと遊び。

 経験値も想像力もないのに、馬鹿ども同士で評価し続けて出来上がったどうしようもない馬鹿。

 ナンセンス、いやこの国においてはナンセンスとして捉えることすら出来ていないのか。


 ……腐りきっている。


「ぶっ殺しちまうか? 騎士団いなくなりゃあ、そんな馬鹿言うやついなくなるだろ。騎士の一人や二人、俺らのパーティでぶっ殺してきてやるよ」


 と、他パーティのリーダーであるドラムが馬鹿な提案をする。


「やめとけ馬鹿。おめーらじゃ騎士相手は無理だ。あいつらは糞馬鹿ゴミ虫だが、スキルの効果や補正は相当なもんだからな」


 ジスタはすぐにドラムへと言う。


 ちなみにドラムのパーティは俺らの中じゃ一番血の気が多く喧嘩っ早いが一番喧嘩が弱い。キャミィ一人でもパーティ全員を畳めてしまうレベルだ。

 しかも馬鹿だ。

 ここにいる騎士を殺したところで、公都から代わりの騎士が来るだけ……いや?

 流石に何回か殺したら、比較的マシな騎士が総指揮を取りにくることもあるんじゃないか?

 とりあえず今いる騎士を暗殺して、ごたついているところで進捗の話だとかを有耶無耶にして休養や補給を行い安全に大討伐作戦を進行できる。


 …………か? 俺なら完全な事故死に見せかけた暗殺も出来る。疲れてはいるが、正直魔物と戦うより全然殺人の方が容易い。


 俺は相手が人間であれば誰でも殺せる。

 殺人と戦闘は違う、全くの別物だ。

 確かに俺の対人戦闘能力は過不足ない自己評価でも、低くはない。一応ギリギリだがブライともやり合える程度には戦える。

 だが決して最強でもないし無敵でもない。魔法使いだったり単純に俺より技量の高い奴だったり相性が悪ければ簡単に負けるし、勝てる見込みもない。


 でも、殺すだけでいいなら魔法使いだろうが俺より強かろうが相性が悪かろうが殺せる。

 シンプルに寝首を掻いたり食事に毒を入れたり会話中に脳幹を撃ち抜いたり崖に突き落としたり、まあ殺すだけならいくらでもやりようがある。人間はそれだけで死ぬ。

 まあクロウのようにそもそも人間の域を超えていたり、暗殺者としてナンセンスな好意を覚えたことによってトーンの仲間たちは殺せないが。


 騎士か……、とりあえず何人か適当に殺してみる――――。


! つーかコソコソしてねえで降りてこい馬鹿野郎ッ‼」


 俺の思考を遮るようにジスタが怒鳴る。

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