「なにをがちゃがちゃ話してんだゴラァ‼」
冒険者が俺たちの態度に苛立って、怒鳴りつけ。
「なあ、おねーちゃんもあんなおっさんら飽きてんだろ? 俺らにも股開いて――――」
別の冒険者がそう言いつつキャミィに近づいたところで。
偽無詠唱の白煙爆で煙幕を張る。
さらに続けて偽無詠唱の多重空間魔法を発動しながら、胴回し蹴りでキャミィに近づいた野郎の顎を砕く。
バリィとやり合ってから、俺は白煙爆と多重空間魔法と身体強化の三つだけは偽無詠唱で使えるように特訓をした。
詠唱は弱すぎる。
バリィに痛いほどわからされた。
ここからは土竜叩きで、全員の顎を砕きながらワイヤーを
何処の冒険者か知らないが、流石ギルドから要請がかかるほどの精鋭パーティだ。
不可視の土竜叩きにそこそこ反応してくる。
でも、五人合わせてキャミィ以下だな。
つまり未熟だ。そりゃそうか対人特化な奴が大討伐に参加するわけがない。
これが模擬戦ならここら辺で止めておくが……、これは喧嘩。
しかもうちのボスからのご要望は、とことん。
殺さなけりゃ何をしてもいい……、じゃあ何でもやる。
顎を砕いて膝を踏み抜き、詠唱と移動を封じたところで空間魔法を移動し道筋を作ってから終端速度棒手裏剣を射出する。
五人の肩や上腕、大腿部や足の甲、食堂の木の床をワイヤーで縫い合わせるように棒手裏剣を貫通させて。
天井の
っ! 身体強化を使っても肩が外れそうだ……、もう少し速度を落としてもいいかもな。
ワイヤーを手に二重に巻き付けて、身体強化の出力を上げて思いっきり引く。
縫い合わされた冒険者たちが床に歪に絡まるように、ギチギチに集められ……いや束ねられる。
そこから身体強化の出力を最大まで上げて、さらにワイヤーを引く。
これは対大型魔物戦を想定して、前衛回避盾兼サポートとして魔物を地面に釘付けにする為の技だ。一瞬でも動きを止められれば、前衛火力が安全に攻撃を通せる。
だが今、これを食らっているのは
「……ぁぎゃあぁぁあぁあああがっ、ぐぉ! おあぁぁぁあぁああぁあぁぁ――――っ‼」
ワイヤーを引いたところで、凄まじい悲鳴と、骨が砕けて肉が潰れる音が響き渡る。
ああそうだ、舐められない為にどうなったか周りの冒険者たちにも見せないと。
俺は身体強化したまま大きく旋状蹴りをして煙幕を一蹴し、散らす。
「……うわ……っ」
様子を伺っていた周りを囲む冒険者たちから小さく、息を飲む音が漏れる。
そこで煙草に火をつけながらギチギチに床へ押し付けられたゴムボールのように纏まる冒険者たちの周りを歩いて、慎重に観察する。
よし、死には至らない。
俺は医者じゃあないがこれでも元暗殺者、人が死に至るかどうかの判断には自信がある。
棒手裏剣もワイヤーも、太い動脈は
じゃあまだ、とことんじゃあない。
「……ひぁっ、ぁあああぁああぁあぁ⁉」
とりあえず煙草をくゆらせて、一番近くにあった顔の右目に押し付けて火を消すと声を上げる。
そのまま適当に、跳び後ろ回し蹴りや前回し蹴りで叩き続けさらに潰していく。
圧縮に成功しワイヤーが少し緩んだので、その分引いてさらに締める。
何人かの意識が飛んだので、目を焼いて起こす。
あ、心が折れた。
これ以上は死に至ると判断。
とことんやったな。
「……終わったぞ、どうする? いつでも殺せるが」
俺はジスタに報告と確認を行う。
「十分だ。解いてやれ」
そう言いながらジスタはグラスを置いて立ち上がる。
俺はワイヤーを緩めて、拘束を解く。
このままワイヤーを一気に引っこ抜いてもいいが、出血のショックで死に至ることを考えて一旦止めておいた。
冒険者たちは圧力から解放され、息もしやすくなり少し緊張が抜ける。
そこに。
「……そうだ、君たちの問いに答えていなかった」
ジスタはゆっくりと近づきながら、語り出す。
「俺たちは東の果て、トーンから来たパーティだ」
口調だけ優しく、冷たい声でそう言った。
「トーンって……あの山脈のか……?」
「上級者が腕試しに使う……上級依頼だらけの」
「あんなところに常駐してるのか?」
「しかも要請で来たってことは……あいつら、あのトーンで最強のパーティ……ってことか……?」
周りを囲む冒険者たちから、ざわざわとそんな声が聞こえてくる。
ああ、そういえばトーンって結構なホットスポットなんだったな。
そこに長年常駐してきたパーティ……、そりゃおっかないか。
「あー……、君たちが明日も元気に楽しく生きるには優秀な回復役が必要なんだが、ちょうどウチには優秀な回復役がいる」
周りの反応を見て、さらにジスタはそう言いながら目線をキャミィへと向ける。
「でも残念ながら、失礼な輩は回復しない畑の住人だし……、治療費も非常に高いんだよねえ」
ボロボロの冒険者の前にしゃがみこむように目線を合わせながら、ジスタはしれっとカツアゲを行う。
「ず、すびばっ、すみばせんでひた……っ。がね、金ばっ、いくらでも、ばらいば、払い、まずだら、すびばせんで、ひた……っ」
砕けた顎で、冒険者は何とか答える。
へえ、やっぱタフだ。多分あいつは前衛だろうな。
「…………まあ、いいか。キャミィ回復してやれ」
じっくりと相手を観察して、ジスタはキャミィを呼ぶ。
キャミィは何も言わずに席を立って冒険者たちの治療を始めたので、治療に合わせてワイヤーを引き抜いていく。
「あー、ちなみに。そのキャミィはバトルヒーラーで、君たちを容易く畳んだうちで一番ひよっこのアカカゲを何度も殴り飛ばしてトーンの魔物を素手で殴り殺す程度には凶暴だ。下手に近づくと気が済むまで殴って回復され殴ってを繰り返されるから、気をつけなさい」
キャミィの治療を受け始めた冒険者たちに、ジスタ追加で忠告をする。
まあ……、事実だな。
実際俺はこの中で一番ひよっこで組手や寝ぼけて乳を揉んだ時やらに殴り飛ばされているし、トーンでは小型に分類される魔物相手ではあるがキャミィは素手で魔物を殴り殺している。ナンパ野郎は半殺しからの回復はマジでやる。
なるほど、一番弱いやつ一人にやられたってんなら俺以外の全員も舐められることはない。
俺一人にやらせたのはこれが理由か。
正直、あのくらいの相手なら誰がやっても余裕で畳める。
一番へなちょこそうな俺が出ることに意味があったのなら、頷ける。
何て勝手にひとりで納得していると。
反射的に構えをとってしまうほどの殺意の膨らみを感じ、同時に。
「礼儀がなってねえやつはモテねえってことを覚えておけ。忘れたら殺すぞ馬鹿共が」
そう言うジスタと、テラ、ミラルドン、シードッグのおっさんズが今まで感じたことのない空間が歪んで見えるほどの殺意を滲ませた。
いや、こいつらキャミィにちょっかい出されて割とマジでガチギレてやがったな……。
んで、対人戦で一番冷静でいられる俺に押し付けやがったんだ……。
き、汚ねえ……っ、なんか全部計画通り的な大人感出しておいてワンチャン俺がやり過ぎて死なせても「暗殺者としての習性が~」とか云々抜かして励まして終わらせる気だったんだ……!
まあ、いつものことか。
この後、冒険者たちから巻き上げた金で居合わせた他の冒険者たちに酒を奢り大宴会に発展しジスタたちの人望が跳ね上がる中。
「あんたやり過ぎ! 治すの私なんだからね! 躊躇いもなく目を行くな目を‼ 何でも治すけど、何でも治せるわけじゃないのよ‼ あれは大討伐の仲間なの! 大体あんたはいつも――――」
と、食堂の
くっそ、あいつらこれも織り込み済みだったのか……っ。
まあ別にいいか、キャミィがいっぱい喋る時は何割か照れ隠しが含まれている。
そこに注視すれば、怒るキャミィはとても愛らしいのだ。