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11だから東に昇って西に沈んだ

 そこから馬車を借りて、俺たちは西に向かった。


 ここで、クロウから共有された概要の確認。

 現在西の果てで大型魔物の大量発生、つまり氾濫が確認され東に向かって少しずつ進行中。


 既に小さな村などの集落は氾濫に呑まれ、このまま放置すれば公都にまで被害が及ぶ。


 故に西の街であるシャーストを最終防衛ライン兼防衛拠点本部として。

 さらに西へと討伐拠点を幾つも張って前線を下げながら、シャーストに辿り着くまでに魔物たちを殲滅する。

 大型魔物の討伐には三人パーティを八組以上の中隊規模編成を基本とする。

 魔物を各個誘導し、中隊規模編成で毎日複数体ずつ討伐をしていく。


 作戦総指揮を騎士団が。

 各中隊規模編成の現場指揮を軍が。


 んで最前線を冒険者が……って。


「……これおかしくないか? 何で納税者の俺らが前線で、税金で食ってる貴族の騎士団やら軍人が後ろなんだよ。俺らが国家存亡に命懸けるわけねえだろ。ヤバかったらトンズラこくに決まってるし、めんどくせえなら騎士団とかを殺しちまえばいいだけだろ。馬鹿が考えてんのかこれ」


 俺は馬車の中で、改めて確認した概要に素直な感想を洩らす。


「ああ、そうだ。この国は馬鹿が仕切ってんだぞ。知らなかったのか?」


 ミラルドンは揺れる馬車の中で刀の手入れをしながら返す。つーか、こんなところで抜き身を晒すな、危ねえ。


「これは、この国のスキル至上主義の成れの果て。有能なスキルを持つ者やスキルの理解度が高い者を評価して貴族としての地位を与え、人として価値があると信仰としても掲げている。故に優秀なスキルを持つ者たちが生き残ることを前提とした考え方しか出来ない。つまり馬鹿なんだ」


 テラが揺れる馬車の中で本を読みながら、付け加えるように言う。いや酔うだろそれ、本は後にしとけ。


「というか、スキルの優劣とかってどう決めてんの? どう考えても私の『復元』よりクロウの『加速』の方が便利で強力だと思うけど」


 キャミィは俺のマフラーをねじって三つ編みにしながら問う。いやいいけど後で解けよ……、大きい結び目があると動いた時に背中に当たって痛いんだから。


「クロウは例に出すなよ。アレは規格外だ。そもそも『加速』ってスキルは、あんな現象を起こすようなものじゃあねえ。どの文献でもちょっと速さに関わるステ値にだけ補正が入る程度だとされている。実際にクロウ以外の『加速』持ちに会ったこともあるが、少なくともアカカゲの『忍者』やメリッサの『盗賊』より利便性は劣る。アレはスキルに対する理解度と、スキル以外の身体操作や魔力や魔法に対する……深度というか……そういうのが決定的に違う、アレは世界からズレ過ぎていて世界に見つかってないだけの怪物だ」


 ジスタは馬車の先頭で馬を操りながら、振り返ってつらつらと語る。いや前を見ろ馬鹿。


 まあ確かに。

 今はもう『超加速』へと覚醒しているが、覚醒する前からとんでもなかった。

 アレは『加速』が云々で片付く強さじゃあない。

 人の形をしているだけの怪物だ。


「クロウは抜きにしても、スキルの評価はおもに対魔物戦での有用性で決められている。そもそも魔物への対抗策として神がスキルを人に与えたとされているしね。単純に武器や魔法での火力だったり、魔物に襲われた際の生存率向上……まあ回復能力とか、それらを支える食料や武器などの生産性とか、まあそんなところかな」


 シードッグはおにぎり片手にそう語る。つーかまだ食うのか、さっき昼飯食ったろ。


「本当に馬鹿。だからこの国の信仰は嫌いなのよ。別に火力も回復役も生産性も、そこそこの適正があれば後は努力と根性じゃない。なんでスキルなんてよくわかんないもんで色々決めてんのよ……」


 キャミィは言葉にやや力を込める。


「その方が楽だからだ……。この国は全てを魔物のせいにしてスキルやステータスという分かりやすい評価基準に依存する。そもそも優秀なスキルとやらが対魔物を基準にしているのなら、ご自慢の優秀なスキルで貴族共が前線にて大討伐を行うべきなはずだが楽をする為に信仰を曲解し、スキル至上主義へとすり替えた結果、こんな馬鹿がまかり通る国家になった」


 テラは本を閉じて淡々とキャミィに答える。


「まあここまで徹底したスキル至上主義はこの国くらいだよ。ライト帝国も基本的には同じような信仰だけど、信仰心が薄いというか曲解はしていない。対魔物用に神がスキルを与えた……はいはいまあそうなんだろうね~くらいの認識だ。帝国は古くからスキルやステータスはあくまでも生きる上で単なる要素の一つとして考えられている。帝国史はあまり詳しくないけど、多分スキルに頼らずとも魔物討伐で成果を上げた者や帝国の発展に大きく貢献した者が居たんだろう」


 シードッグはおにぎりを平らげてお茶を飲みながら、つらつらと語る。


「まあつまりこの国は馬鹿が小賢しい保身を覚えて、信仰やら魔物被害を上手く使って自分たちはなるべく安全に富をむさぼるって感じなのに、なんだかんだ上手く回っちまってる国なんだ。だからあんま気にし過ぎんな、別に俺たちは正義の味方でもこの国の未来を担ってるわけでもねえ。田舎で日銭を稼いで美味い飯食って美味い酒飲んでりゃあ良いんだよ」


 ミラルドンは狭い馬車の中で器用に納刀しながら、軽口を叩くように語る。


 そんな話をしつつ、野営や途中の町での宿泊を挟みつつ。


 九日後。

 セブン公国は西、シャーストの街へと辿り着いた。


 街は住民の避難が進んでいるようで閑散としていた。

 人気のない街を進み、軍の拠点で合流を報告し。

 軍が用意した宿へと腰を下ろした。


「あー疲れた……、馬車は飽きたな。とりあえず今日は軽く飲んでサクッと寝る。アカカゲ、酒だ」


 宿併設の食堂で丸テーブルを囲んだところで、ジスタが背もたれに身体を預けながら気だるそうにそう言う。


「空間魔法」


 俺は空間領域からトーンの酒のボトルを適当に何本か放り投げる。


「こりゃ帰りも公都に着いたらクロウを呼ぼう。まーじで馬車旅はダルすぎる」


 グラスに空中でキャッチした酒をぎながらミラルドンは言う。


「いやどっかで『通信結晶』借りて、転移先さえ指示すればここに迎えに来るんじゃないか?」


 ミラルドンにグラスを向けながらシードッグが言う。


「馬はどうする? 公都に返しに行かなくてはならんぞ」


 ジスタから酒瓶を受け取りながらテラが返す。


「なんか適当に公都へ帰るヤツらに馬を押し付けちまえばいいんじゃねえか?」


 いだ酒を煽りながらジスタは言う。


「それ規約とか大丈夫なの? だったら軍を上手く使って、徴収って感じで持ってって貰えば文句ないんじゃない?」


 キャミィはテラに酒をがれながら提案をする。


 みんなそんなに馬車旅が嫌だったのか……。

 俺はちょっと楽しかったが……、まあ閉鎖環境訓練やどんなところでも寝れるような訓練をしていないと少しキツイか。


 なんて考えながらシードッグから回ってきた酒をグラスにいでいたところに。


「お! すっげえいい女連れてんじゃねえか! こっち来て俺たちにも酒げよっ!」


 小汚い野郎共が、乱暴にそう言いながら近寄ってきた。


 地元住民……ではないだろう。

 避難は進んでいる、様相から見るに何処かから要請を受けた五人組の冒険者たちだ。


「……すまんな。見ての通りこいつは男前としか飲まねえんだ。そして、決してしゃくもしねえ。俺らがいでやらんとヘソを曲げる、君たちには高嶺の花過ぎるんだ。下がっとけ」


 ジスタは酒を煽りながら、小汚い冒険者たちに返す。


「ああ? なんだてめえら、何処の田舎から来たんだ? おっさんが女連れて調子乗ってんじゃねえぞゴラァ‼」


 冒険者の一人が声を荒げ出したところで。


「……アカカゲ、キャミィ。大規模討伐で他所の輩と揉めるのは茶飯事だ……、こういうのは初めが肝心。絶対に、舐められたらダメだ」


 ジスタが俺たちには聞こえるくらいにコソコソと語る。


「……だから今回はアカカゲひとりで、あいつら全員畳んでこい。殺さなけりゃ基本的に何をしてもいい……全力で、畳め」


 そのままコソコソとジスタは俺を見ずにそう言う。


 なるほど……。

 まあ確かにトーンへ初めて遠征に来たイケイケの冒険者は大抵ブライにこっぴどく畳まれていたし、無茶苦茶しようとするやつはクロウに心をへし折られていた。


 周りには他の冒険者たちも多く、俺たちの様子を見ている……、確かにここで舐められたらここから色々と面倒くさそうだ。


 だが。


「……なんで俺だけなんだ……? 全員で行きゃあ一秒だぞ……?」


 俺は率直な疑問を返す。


「「「「いや俺ら酒入れちゃったし」」」」


 おっさんたちはそう言って、酒を煽る。


 こいつら……、まあ良いか。

 下っ端だし、俺は対人くらいでしか活躍できないし。


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