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09だから東に昇って西に沈んだ

 仲間と武器に全幅の信頼を置いて、一撃必殺を発揮するようになり。

 鉄壁の盾と必殺の矛と変態の頭脳が合わさって、爆発的に依頼達成率を伸ばした。

 俺は約束通り依頼代行で出来た休みにキャミィとデートに行ったり、バリィに聞いた他所の街の宿で過ごしたりして日々を過ごし。


 一年近く経ち。

 気づいたらギルド職員がクロウだけになり、有り得ない激務の末にクロウの『加速』が『超加速』へと覚醒を果たした頃。


「ジスタとシードッグに話がある、酒を入れる前に聞いてくれ」


 ある日、クロウが少し神妙な面持ちで依頼終わりに現れて言った。


「……わかった。行くぞシードッグ、それとアカカゲとキャミィも悪いがテラたちと一緒に酒場で待っていてくれ」


 ジスタは何かを察して、迅速に指示を出して足早にシードッグと共にクロウの残像を辿っていった。


 今クロウはワンオペ業務で忙しすぎる。

 俺たちに手伝えることは無駄に問題を起こさないことだと、ジスタは徹底してクロウをわずらわせないようにしている。


 この町でジスタとクロウは一番付き合いが長いらしく、クロウのヤバさを誰よりも知っているらしい。

 だからジスタはクロウを追い詰めないように、何度もギルド本部にトーンの現状を伝え職員の補充を要請したが一介の冒険者の意見など通るはずもなかった。

 その為、ここ最近はなるべくギルドを汚さないようにしたり朝から依頼をガシガシと受けていた。


 なんてことを考えながら、あまり酒を入れないようにちびちびと飲みながらジスタとシードッグを待っていると。


「待たせたな。そのままでいいから聞いてくれ」


 ジスタは席に着くやいなや、早速話を切り出す。


「西、シャーストの街よりさらに西の果てで大型魔物の氾濫が観測され、騎士団主導の元で軍と冒険者ギルドの連合でのを決行することになった」


 グラスに片手酌で酒をぎながらジスタは語る。


「ギルド本部より各ギルドから精鋭のパーティを大討伐に向かわせろとの要請で、俺たちに声が掛かった。まあ……、妥当な人選だとは思う」


 そう言っていだ酒を一気に飲み干す。


 大討伐戦か……、まあ確かにこの町で精鋭と言えばジスタパーティは堅い。

 ブライパーティは対人戦特化なのでこの手の話には名前が上がらないとして、それに次ぐとなれば……。

 まあ、うちのパーティかバリィパーティだが。


 シードッグは大規模な討伐戦への参加経験もあるしキャミィ級の回復役はかなり貴重だ。

 バリィパーティは確かに超優秀だが、ブラキスはまだまだ経験不足。

 それにジスタんとこが行くなら俺たちの方が連携が取りやすい、確かに妥当な人選だ。


 だが、ジスタは少し怒りを滲ませている。


 そりゃそうだ。

 こっちは職員の補充をいくら要請しても無視を決め込まれているのに、ギルド本部は簡単に人員を要請してくる。

 ……確かに腹は立つ、だが何か出来るわけでもない。

 この話の本質はそこじゃあない。


「行くか行かねえか、早急に決める必要がある」


 テーブルにグラスを置きながら低い声でジスタはそう言う。


「……報酬は?」


 ミラルドンが尋ねる。


 確かに冒険者として、一番大切な話だ。俺たちは大義で動いたりはしない、どれだけ大きな被害が出ようとも単なる仕事でしかない。


「一人頭、上級依頼報酬の三十三倍。まあ普段は上級依頼報酬を三等分してるから、九十九倍相当と考えていい。クロウが本部にゴネにゴネて脅迫と恫喝をして最大まで引き上げさせたらしい。生きて帰ってきたら十年は遊んで暮らせる」


 シードッグがミラルドンへと答える。


「十年……貯蓄も合わせたら俺の歳なら上がれるが……」


 酒を煽りながらテラが呟く。


 上級依頼はこのトーンでも月に一つ受けられるかどうかってくらいだ。ジスタんとこから溢れた依頼をバリィんとこと取り合う感じになる。

 それが一回で九十九回分……、そりゃあ破格だ。


「流石クロウだ……かなり引っ張ってきてるが、割には合わねえな。……相変わらず少な過ぎる」


 ミラルドンが片手酌で酒を注ぎながら呟く。


「大規模討伐戦は最低数ヶ月間は毎日命懸けだ。毎日必ず誰かが死ぬ、少なからず負傷もするし、精神的にも削られる……控えめに言って地獄だ」


 眉間に皺を寄せてシードッグが語る。


 そんなに大変なのか。

 死生観に関して俺はかたよりがあるのでそれほど気にならないが、数ヶ月間も町を離れてしかも西の果てか……。


 朝日に焦がれて東に流れ着いたんだ。

 死ぬなら朝日に焼かれたい。


 というかこれ、行かないって選択が許されるのか……?

 ギルドからの緊急要請って断ったら罰則とかあった気がするが……、まあ別にクロウならなんとかしてくれるんだろうけど……あいつ働き過ぎというか働かせ過ぎだよなぁ。


 だが、なんとなーく皆あんまり行きたくない空気がただよってはいる。

 ……あれ? もしかしてこれ……誰かが行かなくてもいいって言い出し待ちしてないか……?

 煙草に火をつけながらおっさんたちの面を覗く。


 全員ちらちらと俺を見ている……。


 こいつら……っ。

 俺に行きたくないと言わせて。


「あーじゃあ仕方ないなぁ」

「俺たちはやる気だが若者の意見も大事だもんなぁ」

「まだアカカゲに大規模討伐は早かったのなぁ、仕方ないよなぁ」


 なんて、理由にしてあたかも俺がビビったから仕方なく行かないって流れに……っ。


 こ、姑息……っ。

 なんてダサい大人たちなんだ、こいつら……。

 俺のせいにして『若者を尊重する優しい大人』として逃げるつもりだ。


 …………ちっ。

 仕方ねえ。まあ俺も行きたくねえ寄りではあるし……。

 切り出すか……、今日の酒代は絶対に払わねえからな。


 火種が真っ赤に光るほど深く煙を吸い込んで、ため息と一緒にどっぷりと吐き出してから。


「……俺は――――」


「ごめん私、ちょっと


 俺が口を開いたのとほぼ同時に、キャミィはさっぱりと強く、そう言った。


 ここでキャミィ・マーリィについて、語ろう。


 トーンが誇る、凄腕美人バトルヒーラー。

 美少女だったキャミィは、少し背も伸びて美少女から美人になった。

 スキルは『復元』で、これは回復魔法の効果を何倍にも増幅し消費魔力をかなり少なくする。

 文字通り元の状態へ復元するかのように、傷痕も残さないで元通りに治してしまう。


 性格はさっぱりしているが情に厚く、意外と世話焼き。

 見た目の綺麗さに反して、努力と根性、気合いを重んじる。わりと泥臭い。


 好きな物は果物全般、他人の髪の毛を触ること。

 嫌いな物は不衛生な動物、信仰心を押し付ける奴。


 素手で魔物を殴り殺すくらいに徒手空拳の才がある。

 他所の町から冒険者が来るとほぼ確実にナンパされるが、ほぼ確実に半殺しにしてから治してもう一度半殺しにして治すので実質殴り殺している。

 たまにキャミィでも手こずるような奴が相手の時は俺がこっそり殺そうとするが毎回ジスタかクロウにギリギリで止められるので、止められないようにまんじ蹴りからの跳び旋状蹴りから海老蹴り、もしくは捻体足絡みで靭帯ちぎって倒してから飛燕突きで顔を潰す程度にしている。

 そんなナンパ連中の怪我すらも、キャミィは治す。


「救える命は選ばない、気に入らないなら救ってから畳む」


 太陽のようにまぶしい笑顔で、そううそぶく。


 そんなキャミィはこの国の北西部の町で生まれ育った。


 トーンよりやや栄えているくらいの、田舎町。

 父親は飲食店経営をしていた。

 母親はキャミィが子供の頃に魔物に襲われて死んだ。


 即死だった、回復の施しようがなかった。


 同時に魔物からの被害によって父親は足を悪くした。

 本当なら切断される程の怪我だった。死んでもおかしくない程の大怪我だったが覚えたての回復魔法でキャミィが治した。


 だが、まだ医学的な知識もなく魔法の腕もなかったので後遺症が残った。

 日常生活ではほとんど支障はなかったが、走ったり長時間の立ち仕事が出来なくなった。

 キャミィがそれを支えた。母親の分まで頑張った。


 父親としては娘に心配をかけることが心苦しかったが故に、再婚をした。

 まあキャミィの父親なのだから相当容姿端麗な色男だというのは容易に想像出来る。女にはモテるだろう。


 そんな父親に思春期だったキャミィは複雑な気持ちを抱え。手伝いが必要なくなったということで、自分が必要なくなったんじゃないかと曲解してしまった。


 だからキャミィは町を出た。

 自立して暮らしていく為に公都で仕事を探した。

 ヒーラーとして病院や飲食店の娘としてウェイトレスの求人を探したが、キャミィはヒーラーとしては優秀過ぎてウェイトレスとしては美少女過ぎた。


 高位の回復系スキルを独占したい教会の人間と、怪しげな裏社会の人間に付き纏われた。

 まあキャミィの運が良かったのは、教会関係の人間が常にキャミィを監視していた為に裏社会の人間が人攫いのような強行策に出られなかったことだ。

 だが十五の小娘にどうにか出来るような状況ではなく、困ったキャミィはとにかく逃げた。


 逃げに逃げて、たどり着いたのは東の果て。


 住民の信仰心は薄く、常駐する冒険者と怪物ギルド職員が強すぎて悪さが出来ない町。

 そこでキャミィは冒険者になった。


 閑話休題。


 少しキャミィについて語りすぎたが、つまり何が言いたかったのかと言えば。


 キャミィの故郷は西

 北西部の中でもかなり西の町ということだ。

 故郷には残してきた父や旧友たち、知人やらが今も暮らしており、母の墓もある。


 キャミィの性格を考えたら……、心配でたまらないか。


「……はあ、キャミィ。何言ってんだおまえ」


 ジスタは呆れるように言って。


「「「「「行くに決まってんだろ」」」」」


 俺を含め、野郎共は口を揃えてそう言った。


 何もないなら行きたくない、でも何かあるなら行く。

 全員キャミィの過去は知っている。

 これ以上ない、参加理由としては十分だ。


 その日は決起集会として、びるように飲み明かした。


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