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03この物語の主人公は世界を顧みない

 二日で公都に戻り、討伐隊に参加した面々を探した。


 気配遮蔽を使って、魔力感知を行い、公都中を回って捜し出し。

 一人ずつ、消滅魔法で頭を消し飛ばして回った。

 また『無効化』を出されたら困るので、基本的に奇襲というか暗殺を行った。


 ある程度皆殺しにしたところで。

 やっと少し冷静になって、僕の身に何があったのかようやく疑問に思った。


 そういえば僕はなんで無事なんだ?

 あの時……、そう投石で気を失ったんだ。

 討伐隊が僕を見逃す理由はない……。


 誰かが助けに来た…………?


「…………あ!」


 僕はその可能性に行き着いて、急ぎトーンの町へと向かった。


 僕を助けてくれる人物なんて、この世界にジョージ・クロス以外に存在しない。

 クロス先生が僕を助け、トーンの町に置いてきたのなら「ここで待っていろ」という意味である可能性が非常に高い。


 やはりトーンの町で待つのが正解だったんだ……っ、余計なことをしてしまった。

 僕は一日ちょっとで公都からトーンの町まで駆け抜けた。


 町の人々に僕が不在の間に、クロス先生が現れたかどうかを聞いて回ったがどうにもまだ現れていないらしい。

 入れ違いにはなってない……、いやどうなんだろ軽く見て回って転移魔法でどこかに行ってしまったことも考えられる。


 でもとりあえず僕はこの町で先生を待つ。

 きっとそれが正解だ、間違いない。


 僕はそこからトーンの町を拠点にしつつ、山脈に篭って鍛えた。


 先生から習った基礎だけじゃなくて、先生が使っていた様々な応用魔法を使えるようにならないと。

 身体操作だけじゃなくて近接格闘も戦術や戦法を確立しないと。


 世界最強の家庭教師に教えて貰って、あんなスキルに甘えた怠慢集団におくれを取るなんて……様々な課題が浮き彫りになった。


 これじゃあ先生に呆れられてしまう。

 諦められてしまう。


 僕は山脈の魔物や近くの野盗などを相手に実戦を行ったり、山脈の中で様々な魔法の再現を行った。

 目視転移から始めて転移の類いの魔法や光学迷彩や認識阻害などの特殊な魔法や、スキルの認識を上げての効果拡張、武器格闘は色々と試してみたけど合気じょうじゅつベースに槍を使うことにした。


 拡張された『加速』を用いた加速した時の中で、体感として何倍にも膨れ上がった時間。

 僕はひたすら鍛えた。


 流石に金銭的に余裕が無くなった際には、町の冒険者に声をかけて山脈で倒してきた魔物を依頼に照らし合わせて換金してもらったりした。

 まあ子供の僕はあんまり相手にされなかったが、中堅冒険者のジスタはいい小遣い稼ぎだと乗ってくれた。


 そんな調子で、まだ先生は現れない。


 十五になった僕はさらに先生近づく為に、国内の歓楽街を回った。

 転移魔法でいつでもトーンに戻れるようになっていたし、僕の方からも少し探してみることにした。


 そこで僕は酒を覚え、酒の席では教わった通りに良い女は片っ端から口説いた。

 行きずりの女性たちと関係を持ちつつ、先生の情報を集めた。


 だが、全て空振りだった。


 討伐隊の生き残りから話を聞き出せないかと思ったが、もう残りは父上とあの『無効化』の少女だけだった。殺し過ぎた……。


 しかし、僕はまだ『無効化』対策が出来ていないし父上と会話が成立するとも思えない。

 引き続き歓楽街を回りながら、記憶読取やスキルを失っても戦えるように『加速』を魔法で再現することに乗り出した。


 そして二年後、になりスキル再現魔法の疑似加速が完成した頃。


 未だに先生は現れず、僕は相変わらずジスタを仲介して生活費と歓楽街を回る金を稼いでいたところ。


「なあ坊主、そろそろ冒険者になったらどうだ? もう十七なら全然活動できるだろう」


 ジスタに冒険者登録をすすめられる。


 まあ……、なしじゃない。

 仲介料を渡さなくても良いし、基本的にやることも変わらないんだけど……。


 戦闘の基本は連携、つまり冒険者になれば僕もパーティに所属することになる。

 冒険者は全てが暫定的なもので、トーンを拠点としていても他に稼げる話があれば町を離れることもある。

 パーティの決定には従わなくてはならない。


 僕は例え稼げなくても、この町で先生を待ち続けなくてはならない。

 そうなるとパーティに迷惑をかけることになる。


 でも確かに、そろそろ何か職につくのも考えなくては。

 先生も大人は仕事が出来る奴がモテると言っていた。


 少し考えて、僕は町に常駐ができるギルド職員になることにした。

 冒険者にも顔見知りが多かったし、先生から習ったことを活かすにも丁度良かった。


 ただ、ギルド職員になるには公都のギルド本部での面接や研修が必須になるらしい。

 公都か……、まあギルド本部なら父上などに会うこともなさそうだけど……。


 まあでも、善は急げ。

 僕は変装の為に髪をクロス先生のように真っ黒に染めて、公都へと跳びギルド本部へと向かった。


「えーっと……極東支部トーンギルドでの勤務を希望っと……はいはい、お名前をおうかがいします」


 淡白な対応のギルド本部受付担当者の質問に。


「……。クロウ・と、申します」


 僕は、そう名乗った。


 クローバーの家名を名乗れない僕は、勝手にクロス姓を使うことにした。

 適当な偽名が思いつかなかったこともあったけど、もしかするとクロス姓を名乗れば僕がまだ待っていることを先生に気づいてもらえるかもしれないし。


 なんか、先生と家族になったみたいで、少し嬉しくなった。


 そこから数ヶ月、毎日町と公都を行ったり来たりして試験や研修も難なく合格して。

 僕はトーンの町に公都から派遣されたギルド職員として戻った。


 そこからさらに一年近くが経ち、僕は十八になってギルドの業務にも慣れてきたころ。

 四人の新人冒険者が町へとやってきた。


 双剣使いのブライ・スワロウ。

 魔道具技師のセツナ・スリー。

 魔法使いのバリィ・バルーン。

 大盾使いのリコー・プディング。


 僕とおおよそ同世代で、トーンギルドでは珍しい若者たちだ。

 これがなかなか、四人は天才だった。


 とりあえず四人は新人同士でパーティを組んで、依頼にいどんでいた。

 まあ流石に最初は奮わなかったけど、冒険者の活動に一番うとかったセツナが僕に基礎講習というか勉強会を願ってきた。


 なんて勤勉な……、魔法学校出身だからこその提案だ。

 クロス先生なら女性からのお願いは断らない、僕は時間を作ってセツナに基礎の基礎に当たる連携の話や効果的な魔法と距離感について語り。


 たったそれだけでセツナが飛躍的に伸びたことからバリィも講習を受けたいと参加してきた。

 僕は部屋を確保して、クロス先生のように授業形式で初級者講習を行うことにした。


 二人とも魔法使いということもあり、とりあえず魔力や魔法の基礎的なところや後衛としての立ち回り、偽無詠唱などを教えた。

 これでまた二人が伸びて、今度はリコーも参加してきた。


 なので近接格闘の基礎として、合気ベースの身体操作や重心移動や体軸理論、反力や効力の使い方や、力の流れを止めないことの重要性。

 そんなことを語ると、リコーは凄まじく伸びたし、意外なところでバリィが合気じょうじゅつの才があった。

 その後も戦闘理論や魔物戦や対人戦の違いなど教えれば教えるだけ、彼らは結果を出した。


 ある日、ブライとバリィが大喧嘩をした。


 冒険者同士の私闘は禁止されているが模擬戦や訓練との境界線が曖昧な為、実際は黙認されている。

 でも、ブライもバリィも熱くなりすぎていた。

 ジスタたちベテラン勢も、それを察して止めに入ったが二人が想像以上によく動くために段々とマジになりつつあった。


 だから僕はギルド職員として、喧嘩両成敗するべく。


「喧嘩は両成敗だ……、どっちも畳む! 暴れてえなら依頼で暴れろ馬鹿野郎共があッ!」


 二人を畳んで僕は堂々と宣った。


 そこからどうにも僕に対する見る目が変わったというか……、暴力ギルド職員として見られるようになってしまった。


 だがブライは少し心を開いてくれたみたいで、講習に参加するようになった。

 そこでブライも伸びた……というか、ブライはそもそも勘が良く身体操作や力の流れに関しては元々自然に理解していた。

 それらを言語化されて、意識することが出来るようになっただけだ。


 ブライ……というか四人とも天才だ。

 バリィは少し考え方を覚えただけで鋭い戦術的思考が出来よるようになって、じょうじゅつの腕前もかなりのもの。元々分析や構築が得意だったんだと思う。

 リコーは単純に体力が凄まじい、あれはスキル補正とかじゃかなくてリコー自身の特性だ。身体操作も覚えて今や戦闘継続持久力はトーンでも一番。前衛盾役として最強の才能を持っていた。巨乳だし。

 セツナは元々魔法学校で魔道具学科を専攻していただけに、連携や自身の弱点を埋めるために魔動兵器を作ったり魔法火力として申し分ない活躍をしていた。


 僕のように人の何倍も鍛えないと、クロス先生の言われた通りにも出来ない雑魚とは違った。


 ってなると、才能あるセツナとリコーは良い女である。

 良い女は口説かなくてはならない。


 僕はセツナに声をかけた。

 リコーのグラマラスさも非常に魅力的ではあったけど、バリィはリコーに惚れていたし。


 なんとなく、僕はセツナから共感を感じていた。

 だから声をかけた。


 まあ、この辺りのあれは一般的なラブロマンスでしかない。

 小っ恥ずかしくて、わりとただれた日々だ。

 だから割愛しておく。


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