足の裏まで消滅魔法を纏っているのなら、接触面から地面を消し去って抵抗なく自重で地面をすり抜けるように埋まってしまう。
故に走って接近するメリッサは、足の裏には消滅を纏えない。
魔法防御は
ここが
曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ。
「っ……曲がれええええええ――――ぇえええぇええぇえええええええッ‼」
私は思いが声に出るほど全開で『魔力操作』で光線の束を捻じ曲げ。
メリッサの下から突き上げるように光線で撃ち上げ――――。
られなかった。
メリッサは地面から少しだけ浮遊魔法で浮かび、地面との接触を
足の裏まで消滅を纏っていたのだ。
必死で曲げた光線は、メリッサの足元を
思考更新、もう私にこの状態のメリッサを討つことは出来ない。
だから、最後に一回。
私は緊急離脱でモノアイの背部装甲をパージして、吹き飛ぶように外に出る。
それとほぼ同時に、音もなく
私は爆風を魔法防御で受けながら、そのまま吹き飛んで距離をとる。
こんなものは目くらましにしかならない。
だが『予備魔力結晶』に貯めていた私の魔力が爆発したことにより、この辺り一帯は私の魔力で満ちる為に魔力感知が阻害される。
私の目的は、時間稼ぎだ。
この『転移阻害転移結晶』さえあれば、クロウ君へ直接跳ぶとは出来ない。
走って行くには道中の帝国兵との戦闘を余儀なくされる。
いくら『勇者』でも魔力は無尽蔵ではない。
クロウ君に辿り着くまでに、かなり消耗するだろう。
足止めには十分……。
「……はあっ、はあ……っ、ふー……ふー……」
私は息を整えながら住居の中へと逃げ込む。
魔法防御をしたとはいえ、単純に爆風のダメージが大きい。
無茶はしたくなかったけど……、仕方ない。
ここからは逃走に切り替える。
私は『転移阻害転移結晶』の効果範囲から出るわけにはいかない。
このまま息を
なんて一息つく間もなく。
壁をすり抜けるように消滅させて、自分の型の窓を作りながらメリッサは現れた。
モノアイも失い、爆発させるのに魔力も使い過ぎて枯渇気味。
爆風で服もボロボロ。
もう私にメリッサを止めることは出来ない。
でも、絶対に負けない。
ナイフをこちらに向けて浮遊しながら近づくメリッサに、私はおへその下を軽く触りながら笑顔で報告をする。
「…………
私の妊娠報告にメリッサは表情が
驚きや混乱。
怒りと悲しみ。
恐れと喜び。
色んな感情がメリッサの中に溢れ出して、正常な精神状態を保てない。
驚いたでしょう。初耳でしょう。
だってまだクロウ君にも報告していない。
キャミィやクリアちゃんにも気付かれないように、徹底して隠していた。
もしクロウ君が知っていたら絶対に私を戦場に行かせたりはしない。
彼を優しさで煩わせたくなかった。
「…………っ、あ…………、か…………っ」
メリッサは消滅も浮遊も解いて地に足をつけながら、私に向ける言葉を探すが見つからないようだ。
ぽろぽろと涙を流して、
勝った。
そう思った。
隠すつもりもないし隠せるつもりもないけど、私は最低だ。
嫉妬深くて、愛されたくて、身勝手。
愛されないという理由で親も殺した。
クリアちゃんがクロウ君と話した後に、あの人はみんなに優しいから勘違いしないでと、釘を刺すようなダサい女だ。
メリッサが子供から乙女になりつつある頃に、私は一度クロウ君にメリッサのことを聞いたことがある。
クロウ君はもちろんメリッサの恋心にも気づいていたけれど、やはり無理に伝えて傷つけることも出来ずに大人になるのを待とうとしていた。
私はそれが
クロウ君の優しさが怖かった。
不安になる浅ましい自分が嫌だった。
こんな女がクロウ君の特別になれるわけがないと、思ってきた。
でもメリッサ、私はクロウ君の子を産む。
私がメインヒロインなんだ。
あなたに勝って、私は特別になる。
メリッサは複雑な表情のまま、涙も
握り拳を振り上げて。
妊婦を叩く罪悪感と、安全配慮への迷いでぐちゃぐちゃになりながら。
最後は平手打ち。
私の頬にビンタで、迷いだらけの一撃で、私は脳をゆらされながら壁まで吹っ飛ぶ。
痛いけど『勇者』の一撃なら首から上が吹き飛んでいてもおかしくはない。
全然余裕でグーで殴ると言っていたのに……。
優しさや怒りや正義感や恋心に迷って、迷いをそのままかたちにしたような。
そんな世界で一番、
下唇を噛み締めて、倒れる私を覗き込むメリッサを見て。
ああ、足止めは出来なかったけど勝ちだ。
このままクロウ君の元に行かせても、大丈夫。
この女の戦いは、私の勝ちなんだ。
そう思いながら、そのまま私は満ち足りた気持ちのまま気を失った。
ちなみに、私はここから全ての決着まで眠り続けることになるんだけど。
目覚めたら、私は失った右眼を取り戻していた。
多分メリッサの仲間が合流した時に、治してくれたんだろう。
お祝いとして、しっかりと受け取っておくことにした。