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02職人の就寝が遅いとその分世界は加速する

「外装着装、武具召喚ッ!」


 眼帯を投げ捨てると同時に私は詠唱によって『融合装着型強化魔動外装』と『多連式無反動魔力光線砲』を喚び出して装備する。


 この『融合装着型強化魔動外装』というよろいは全長約三メートル半で、私を丸々すっぽりと胴におさめて私の右眼に埋め込んだ『脳波伝達魔力視義眼』に接続することで頭部の視界を共有し、脳波と私のスキル『魔力操作』によって魔動機械で造られた手足を直感的に動かすことが出来る。


 さらに武器として『多連式無反動魔力光線砲』を装備、これは様々な系統の魔法を魔力回路に刻み光線魔法として撃ち出すことの出来るものだ。魔道具による魔法発動なので詠唱要らずで強力な魔法を使える。

 動力の魔力は『予備魔力結晶』によって私が十五人分の魔力量を有している。


 魔動結社デイドリームとの共同開発で造った。

 通称、モノアイ。

 私専用の最強装備だ。


「でっ…………、ははっ……、服の趣味変わったんだ? だっせえから剥くけど文句いわないでよね」


 引きった笑顔で見上げながらメリッサは言う。


 私は特に何も返さず、光線を撃ち出す。


 もう言葉はいらない。

 対人戦闘状況下において、騙し討ちや陽動の為に言葉を使うこともあるけれど一体一ではそれほど効果はない。


 メリッサは光線を無詠唱の多重魔力導線で散らして、電撃系の魔法で返すがこのモノアイの外装にはもちろん『魔法抵抗剤外装』が使われているし、常時発動型の物理障壁もかかっている。


 防御性能はバリィ&リコーをモデルに設定している。

 つまり鉄壁だ。


 ちなみに『転移阻害転移結晶』は効果が続いている為、短距離の目視転移も使えない。

 なので理論上最速の魔法である光線魔法をけることは難しい。

 かと言って、魔法防御を続けていてもらちが明かない。


 つまり――。


 私の想像通り、メリッサが消える。

 やはり疑似加速を使った。


 クロウ君が『無効化』対策のためにみ出したスキル再現魔法だ。

 第三騎兵団でも数人、ジャンポールさんやガクラさんくらいしか習得には至らなかったものだが。


 どうにもメリッサはそれを、自力で作り上げたらしい。

 私には出来なかったことだ。

 素直に凄いとしか思えない。


 でも、もちろん対策済みだ。


「――っ⁉」


 メリッサは私の迎撃をナイフで受ける。


 不可視の速度でモノアイの関節にナイフを通そうとしたメリッサに、左腕内蔵の『超加熱式溶断機』のを振った。


 このモノアイの頭部レンズには『魔力感知装置』が組み込まれている。

 さらにモノアイを動かす運動サポート回路は、私が知る限り武器格闘戦最強であるブライの反応速度をモデルに再現している。


 これこそが疑似加速対策。

 ブライは格闘戦で『加速』を使うクロウ君に反応していた、私が知る限りこれ以上の対策を思いつかなかった。


 さらに腕力はブラキス級に設定している。

 ナイフで受けたメリッサは、ブラキス級の一撃により吹き飛ばされる。


 ちなみに『超加熱式溶断機』は加熱が間に合わないし、加熱してしまうとの強度が落ちるのでただの剣として振った。

 吹き飛ばされ、近くの建物に突っ込むが容赦なく追撃を行う。

 この辺りは既に帝国軍によって民間人の避難誘導はんでいるので思いっきりやる。


 魔法光線を速射で撃ち続けながら接近する。


 運動性能と機動性はアカカゲをモデルに設定している。

 本当はクロウ君の域まで引き上げたかったが、流石に再現不可能だった。


 接近して両腕部から出したを振る。


 バリィくらいの魔法防御。

 リコー級の防御力。

 ブライ並の格闘性能。

 ブラキスに匹敵する威力。

 アカカゲと同等の機動性。

 魔力も『予備魔力結晶』で私が十五人分、それを使い切っても武具召喚でさらに『予備魔力結晶』をび出すことも可能。


 私はこの日のために、数ヶ月間毎日『予備魔力結晶』に魔力をめ続けてきた。魔力切れはない。


 私が用意出来る最強の兵装だ。

 このままメリッサはここで釘付けにする。

 クロウ君の邪魔はさせない。


 私はクロウ君の特別で在りたい。

 ここでメリッサに負けていたら、特別にはなり得ない。


 全力全開で建物を破壊しながら、メリッサを追い詰める。


 メリッサは疑似加速を使用しながらナイフでモノアイから放たれる双剣撃をたくみに受け流し捌いて、魔法光線は多重魔力導線で散らす。


 こんなに強くなっているのか、メリッサは。

 これが『勇者』か……、流石に『盗賊』の頃とじゃ比較にならないほどに強い。


 でもこっちもこっちで、今が一番強い。


 お腹から熱が体を駆け巡って、義眼が燃え上がるように熱くなる。

 うん、頑張るよ。絶対に負けない。


 ブライよろしく苛烈に、両のやいばを止めどなく振り続ける。


「――――あぁッ……、しゃあいッ‼」


 私の攻めをメリッサは気合いの雄叫びと共に荒っぽく身体強化を用いて無理やり弾き、疑似加速で離脱して距離をとる。


「……ごめんセツナ、舐めてた…………いや、舐めてたんじゃない。認めたくなかっただけだ」


 距離をとったところでメリッサは何やら語りだすが、容赦なく光線を連射する。


「……あんたがクロウさんに選ばれたのは、私より先に大人だっただけ、キャミィより先に出会っただけなんだって……。正直どっかで思ってた」


 落ち着いた口調で語りながらも、完璧な魔法防御で光線を散らし続ける。


「でも違った。セツナ……、あんたは間違いなくトーンの町最強の魔法使いだ。テラでもバリィでもなく、あんたが最強だ。クロウさんの心を掴んだのにも納得した。あの人は自分の優しさにわずらわされている馬鹿だから、あんたみたいに心配しなくてもいい奴にかれるのかもね」


 語りながら、だんだんと表情に決意を見せるようになる。


 私は光線を乱射しながら接近する。


 それにしてもメリッサはクロウ君を良く見ている。

 自分の優しさに煩わされている馬鹿。

 見事にその通りだ。

 あれはああいう病気なんだと思う。


「だからセツナ、本気で行く。……ぶっ殺す」


 そう言ってメリッサの目からゆらりと炎が揺れる。


 空気と魔力の流れが変わった。

 何かするつもりだ。

 何をするかは知らないけれど、やらせるわけがない。


 私は厳しく双剣撃で攻め立て、メリッサもナイフを合わせる。


 受けるつもり? ブラキス並の出力を? どれだけ身体強化をしても服や装備を含めた全備重量で五十キロ程度のメリッサが真正面から受け止められるわけがない。


 重量差は絶対だ。

 私の方が絶対に、重い。


 だが、どう考えても当然であるはずのナイフがへし折れてメリッサが吹き飛ぶという結果には辿り着かず。


 まるですり抜けるように、ナイフに当たった……いや当たった感覚も抵抗もまるでないのに。


 モノアイのやいばは折れてちゅうを舞う。


 そのままもう片方のやいばでメリッサの胴を捉えたが、同じくすり抜けるように。

 メリッサに接触した部分からやいばが消えて無くなる。


 まさか、いや……、それしかない。


 私はモノアイの『魔動噴射推進装置』を逆噴射させて、下がりながら光線を撃ちまくり肩口の補助機関銃も乱射して弾幕を張る。


 だが、メリッサは全くけることもなく。

 弾幕を真っ直ぐ突っ切りながら私に追従する。

 ああ間違いない。


 メリッサは消滅魔法を全身に纏っている。


 消滅魔法はその名の通り、対象を原子レベルまで分解し消し去ってしまう。

 イメージも難しく、消費魔力も膨大だが魔法抵抗だとか耐性などは意味がなく相当に分厚い魔法防御を重ねないと干渉すらできない。

 必殺最強の攻撃魔法だ。


 使える人間を私はクロウ君くらいしか知らない。

 もちろん私にも使えないほどの高位の魔法だ。


 そんな必殺の魔法を身体に纏っている……?

 少しでも魔力の操作をあやまれば自分の身体が消し飛ぶような行為だ。

 まともな感性をしていたら絶対にやらないような戦法だ。

 死体を残さない自殺方法でしかない。


 だが膨大ぼうだいな魔力を有して、緻密な魔力操作を行えるなら最強の戦法だ。

 あらゆる攻撃を消し去りながら、接触するだけで相手は消し飛ぶ。


 さらにメリッサは疑似加速でクロウ君とほぼ同速。

 超高速で能動的に思考して動き回る消滅魔法の出来上がり――――。


 なんて思考の中で、モノアイの右腕がちゅうに舞う。

 ステーキプレートに乗る溶けかけのバターにナイフを通すよりも容易く『魔法抵抗剤外装』と防御魔法を通り抜ける。


 嘘でしょ? そんなに容易く……、一応帝国軍魔法使い十人からの魔法による波状攻撃や戦術級魔法も耐える設計なんだけど……。


 考えろ、何かないのか?

 消滅魔法は無色透明、魔力視でしか感知できない。

 どこかに隙間はないの?

 呼吸……、いやダメだ口まで被っている。息も止めているんだ。

 本当に指先まで、ナイフも含めて纏っている。

 何処に何が触れても消し飛ばせる。


 何処に何が触れ――――っ!


 私は気づいたことをそのまま行動に移すべく、地面に向けてありったけの光線を撃ち込む。

 その光線を『魔力操作』によって無理やりじ曲げ。


 メリッサの足の裏を狙う。

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