俺、ブラキス・ポートマンは木こりである。
北のド田舎の村で港の街に造船用の木材となる木を木材加工所に卸して暮らす、ありふれた木こりではあるものの。
何だかんだ色々とあって、親父の
公都に出てきて超グラマラス美人賢者のポピーさんに出会い。
かつての仲間たちと再会して。
勇者パーティを強くする手伝いをすることになったり。
順調に勇者パーティが強くなって。
ポピーさんと手を繋いで歩くことにちょっとだけ慣れてきた頃。
つまり、今の話。
転移魔法で現れた大勢の帝国軍人が訓練場を包囲して。
メリッサが久しぶりに全開でブチ切れて。
ジャンポールとやらがメリッサと拮抗し。
ポピーさんと魔族の人との魔法戦が白熱し。
メリッサがジャンポールを制し。
帝国軍側の『無効化』によって俺らも含めて勇者パーティのスキルが無効化され。
絶体絶命のピンチにブライさんが暴れ倒して。
ようやくメリッサが『無効化』持ちを特定し。
ポピーさんの援護の
先程猛威を
俺とメリッサは『無効化』持ちに届かず。
ジャンポールに狙われた俺と入れ替わるように。
ボロボロのブライさんがジャンポールに食らいついた。
スキルなしの状態でも技量と狂気だけで暴れ倒し、口からとんでもない量の血を吐いて両腕を斬り飛ばされながら。
文字通り、ジャンポールの首に食らいついた。
ブライさんの歯が首の肉にくい込んで、
「……ブライさんッ⁉ てっめえらあああああああああああ――――っ‼」
俺はそれを見て心が爆発的に燃え上がり叫びと共に目から炎が噴き出す。
こいつらはここで畳む……っ!
スキルなんかいらねえ、過剰な筋力を骨の可動と連動、重心移動と遠心力、
俺は地面が砕けるほどの踏み込みで、斧を振る。
「多重物理障壁――っ⁉」
帝国軍人たちは防御魔法を展開するが、防御魔法を砕いてそのまま振り抜く。
魔法の裏にある盾も砕きながら、間合いに居た帝国軍人たちをまとめて吹き飛ばし、軍人たちはまとめて壁に突き刺さる。
怒りに任せた一撃だった。
それが故に。
普段なら兄貴が狙ったベストタイミングで、振り抜いた隙を姉貴がカバーする。
俺の一撃は連携の中でこそ発揮されるものなのに。
連携を無視したことで、見事に隙を狙って
歯ぁ食いしばれえ! 耐えたら二発目行くぞ……っ!
「――筋肉召喚ッ!」
気合いを入れて歯を食いしばった瞬間、ポピーさんが俺を転移させる強襲魔法を使ってポピーさんの隣へ俺を跳ばす。
同時に俺が居た場所に凄まじい量の斬撃と魔法が舞う。
た、助かった……あれは気合いと根性だけじゃどうにもならなかった。
「ごめん。魔力残量的にもう筋肉召喚は撃てないし詠唱有りだと多分読まれ……あれっ⁉」
ポピーさんが転移させた俺に弱々しく言っていた、その時。
「‼
「わかっている!」
ダイルさんが声を上げ、クライスさんが俺を含めた全員に回復魔法をかけながら答える。
「どゆこと?」
無詠唱目視転移で跳んできたメリッサが合流しながら尋ねる。
どうやら『無効化』が解除されているようだ。
俺の『潜在解放』は任意発動型で普段から補正があるようなものじゃないので、使わないとわからないが『大魔道士』や『万能武装』『聖域』『勇者』は常時補正がかかるのですぐに気づけたようだ。
でもどうして……、まだ相手の『無効化』持ちは健在なのに。
「帝国軍に告ぐ! 私は
頭を巡らせているところに、高らかとそう宣言する援軍が到着する。
どうやら騎士団の誰かが『無効化』を使って帝国軍側の『無効化』を無効化したらしい。
確か前にバリィの兄貴が言っていた気がする。
基本的に『無効化』は対人戦最強のスキルだが、対策方法はざっくり二つある。
一つはスキルに依存しない戦い方を覚えること。
これに関しちゃ任意発動の俺やあまりスキルからの補正をうけていないバリィの兄貴なんかはそれほど問題はない。
でもリコーの姉貴の『重戦士』とかだと突然補正がなくなると大盾が構えらんなくなったりして致命的だ。
もし俺らのパーティが『無効化』を食らったら姉貴の盾が落ちて連携が死ぬ。
だから、それを想定した連携プランを立てておくことで対策が出来る。実際、兄貴は念の為にその連携プランを立てていた。
もう一つは『無効化』に『無効化』をぶつけること。
これは『無効化』持ちが仲間内にいない俺らとかには無理だけど、戦争とかだと『無効化』の後出しが重要になってくる。
人数が多くなればなるほど連携は難しくなるし、全員が全員スキル無しで戦えるようにするのは難しい。
つまり騎士団はセオリー通りに『無効化』の後出しをした。
これで俺たちのスキルが戻った。
「メリッサ、先行け。クロウ・クロスを抑えとけ、俺たちはここを片付けてからポピーの転移で跳ぶ」
ダイルさんが剣を構えながらメリッサを見ずに言う。
「いや全員でサクッと畳んで全員で跳ぼう正直あいつらが『無効化』と騎士団の援軍程度で止まるとは思えな――」
「だからこそだ。ここで消耗させんじゃねえ、それにあの速すぎる怪物を野放しにしておいたらどんだけの被害が出るかわかんねえだろ。それに俺らを舐めんなよ、おまえが居なくてもこの状況なら瞬殺で終わらしてすぐに合流できらあ」
メリッサの返しに被せるようにダイルさんはさらに返す。
「はあ……、ここは任せて先に行けえ! って、やつだよ。いーから行け馬鹿‼」
そんなダイルさんの言葉にメリッサはクライスさんとポピーさんの顔を見ると、二人は不敵な笑みを浮かべて返す。
「……わかった、ちょっくら初恋相手を畳んでくるわ」
メリッサも不敵な笑みを浮かべながらそう言って、ポピーさんからの魔力感知共有を使って転移魔法で跳んだ。
「……一分稼ぐぞ! 対『無効化』陣形を取れ! ここは必ず落とす! 魔小隊は勇者パーティを、騎兵上がりは馬身召喚の後に馬身強化!」
帝国軍の隊長ガクラとやらが大きな通る声で共有を行い、一斉に馬を召喚して全員
さらに同時に、何も無いところから勇者パーティに向けて様々な魔法が飛んでくる。
それらを全てポピーさんの防御魔法で散らす。
詠唱もなく飛んできた、さっき透明になっていた魔族による攻撃だ。
不可視の状態からの無詠唱魔法って反則級の攻撃に、ポピーさんは超精密な魔力感知で位置を掴んで魔法光線を返す。
だが、何も無いところでポピーさんの魔法は弾けて消える。
向こうさんも魔法防御は万全ということか。
「すまねえポピー、見えねえ遠距離相手じゃ俺らは噛み合わねえ。俺が出来るのは物理攻撃を全弾きして近寄らせねえことまでだ。魔法防御と、後衛火力を完全に任せることになる。行けるか?」
ダイルさんはポピーさんに背を向けながら申し訳なさそうに尋ねる。
「…………はあ……。あんた、誰相手に言ってんの?」
魔法を迎撃しながらポピーさんは気怠そうにそう返し。
「私はこの国最強の魔法使い。だから私は今、ここにいるのよ」
無詠唱で同時に何十もの魔法を迎撃し、閃光で照らされながら不敵な笑みでそう言った。
か、かっけえぇ……。
俺は魔法使いを尊敬している。
バリィの兄貴の弟分である俺は、魔法使いがかっこよく見えて仕方ない。
さらに、この世界において巨乳が最強ということも知っている。
これは下世話な話とかそういうことじゃなく、万有引力だとか魔力変換だとかの世界の
兄貴は言っていた。
「男に生まれてまともなやつなら、絶対に巨乳には勝てねえ。少なくとも俺は一度たりとも勝てたことは無いし、勝てる未来も見えねえ。おまえにもいつかわかる時がくる」
真摯な口調で酒を煽りながら、語っていた。
説得力が違った。
実際、リコーの姉貴はめちゃくちゃおっぱいが大きい。
姉貴は最強の盾役だ。
そんな姉貴に兄貴は尻に
俺もこないだブライさんを畳んだ時に抱きつかれた時の、圧倒的なおっぱいに敗北を知った。
兄貴の言っていたことがわかった。
絶対巨乳には勝てないのだと。
ポピーさんは魔法使いで巨乳。
どうにも俺の恋した相手は、世界最強なようだ。
思わず見蕩れる俺に、ポピーさんは燃える瞳でアイコンタクトを送る。
俺は意図を組んで斧を構えて『潜在解放』を使い、フルスイングで斧を振ると転移で跳ばされ何も無い空間を振り抜く。
振り抜く途中で手応えあり。
魔法防御を砕いて、斧が通る。
一瞬だけ透明化が解けて、姿が見えた。
先ほど姿を現して名乗っていたグリオンなんちゃらだ。
そう認識した時には上半身が弾け飛び、下半身が壁に激突したと同時にポピーさんの隣へと戻される。
俺はバリィの兄貴たちが抜けて、メリッサとクロウさんと組んでいる時には野盗ともやり合っていて何度か人を殺めているが。
やはりしんどい、俺には向いていない。
でもやらなきゃならない時には、できなきゃならないことだ。
せめて一撃で、苦しむ間もなく終わらせることしか俺にはできない。
一瞬の出来事に魔法攻撃が、止まる。
「私はもうあなた達の魔力を覚えた。姿を消そうが何処に居ようがいつでも私はこれを当てることが出来る。あなた達の魔法攻撃は私に通ることはない。姿を現し投降なさい、私と彼を舐めないで」
平らな声でポピーさんは何もない空間を見ながらそう言う。
やはり魔法使いは冷静だ。
ブライさんがやられて、怒りに任せて突っ込んでしまった俺とは大違いだ。
冷静に考えれば、あのブライさんが死んだとは限らない。あの人の悪運は異常だ。
何回も死にかけたエピソードの中で『たまたま』という言葉を何度聞いたかわからない。
今までも偶然生き延びてきたような人だ。これからも偶然生きていくと思おう。
ポピーさんの忠告に一瞬戸惑いの空気を感じるが、再び魔法攻撃の弾幕が迫る。
「……あっそ。じゃあもう、やるしかないね」
ポピーさんは弾幕を迎撃しつつ索敵をしながら残念そうに呟いた。
俺はそれを聞いて無言で斧を構える。
こちらの『無効化』は通っている状態、転移逃げを許さないほどの致命的なダメージを与えて行けば一時撤退を余儀なくされるだろう。
そこまで続ければ、勝ちだ。
「総員防御陣形ッ! 間に合った!」
帝国軍の隊長さんが、大きな通る声で指示を出す。
すると迅速に全員が動き、盾を構えたり防御魔法を張る。
何だ、何を――。
なんて思考の中、防御陣形の中心に一人の新たな人員が、転移で現れたところで。
「えっ⁉」
「マジかよっ‼」
「ちぃ……っ」
勇者パーティの三人が一斉にリアクションを取る。
やや遅れて俺も気づく。
帝国側が
この時間を稼いでいたのか……っ、嘘だろ? こんな簡単に一気に劣勢になるのか?
「……え、いや?」
「ああぁ⁉」
「な……っ」
不穏な空気になったと思った途端、再び勇者パーティが驚きの声を上げる。
次から次に何が――。
「
困惑する中、帝国軍からそんな声が上がる。