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04そういう生き方しかできない奴はそういう死に方をする

 ダイルの動きも顕著に悪くなり。

 ポピーの魔法も不発。

 異変を感じてクライス君が回復を飛ばそうとするが飛ばずに動揺する。


 何だ、急に何が……あ!


「ブラキス! 『潜在解放』を使え!」


 俺はそう言ってから武具召喚で剣を二本喚び出す。


「……! 使えない、使えないよ!」


「……だろうな、畜生やられたな」


 慌てるブラキスに俺も剣を握って確かめてから返す。


 流石に初めて食らった、これが『無効化』か。

 対人戦最強のスキル、相手のスキルを文字通り無効化して効果や補正を無くしてしまう。


 スキル至上主義の公国の中でよりすぐりのスキル持ちを集めて結成された勇者パーティには、これ以上なくどんぴしゃりでぶっ刺さる。

 スキルに依存しない戦い方を俺たちは教えては来たが、完全に無くなっても動けるほどには至っちゃいねえ。


 初手で使ってこなかったのは『無効化』は後出しが優先されるからだ。

 もしここに『無効化』持ちが隠れていて、先出しした『無効化』を『無効化』で返されたら一気に劣勢になる。

 だから勇者パーティ側から『無効化』が使われる、または居るとわかるまで温存していたのだろう。あくまでもカウンター要因として。


 しかし、ジャンポールが戦線を離脱して勇者パーティ優勢の流れが来たことによって『無効化』を吐かざるを得なかった。

 ここで『無効化』を返せればめちゃくちゃ強いが、残念ながらこちら側に『無効化』は居ない。

 まあ勇者パーティはここまでだ。


 つまり。


「……やっとこさ、って話なわけだ」


 俺はそう呟いて、そのまま歩いて前に出る。


「こっちに『無効化』は居ねえよ、基本的にテメーらの勝ちだ。だから、ここからは憂さ晴らしの悪足掻きに付き合ってもらうぞ」


 俺は構えながら帝国兵たちに宣って。


「テメーらは、ここでぶっ畳むッ‼ 誰相手に喧嘩売ってんだ大馬鹿者共がああああぁぁあぁ――――ッ‼」


 いつものように、暴れ出す。


 ブチ切れ全開、怒りで身体の内側が燃え上がり目から炎が噴き出す。

 真っ直ぐ、一番近い帝国兵に突っ込んで片っ端から斬る。


 俺はここ一年近く、スキルがねえ状態で戦うことには慣れてんだ。

 そもそも依存するほど立派なスキルじゃあねえんでね。この程度で、俺は止まらねえ。


 魔法で援護出来ねえように可能な限り密着する。超近距離、剣も振りづらいほどの密着。

 いつでも俺のみぞおちに膝蹴りが入るほどの距離感だが、リスクの先に安全地帯は存在する。

 自分も相手も含めた状況自体の流れを感じて、常に相手の流れの終着点に刃を置く。


 そろそろ察したメリッサが、ブラキスを含めたスキル無しでの陣形を組み直す。

 俺は数を減らしながら『無効化』を探し出す為に、この流れからなるべく離れようとする『無効化』を浮かび上がらせる。


 ブラキスも『無効化』で『潜在解放』を使えねえだけで、対人戦なら一撃必殺は変わらねえ。


 ダイルもそこそこ動けるだろうし、ポピーも無詠唱や出力は無くなるが全く魔法が使えなくなるわけでもねえし、クライス君も回復役としてじゃなくて杖術使いとしてならスキルは関係ねえ。


 ここ数ヶ月バリィにみっちり戦術思考を落とし込まれたメリッサなら、落ち着きゃあ『無効化』にブラキスをぶつける方法を見つけられるはずだ。


 それまで、暴れに暴れてやらあ。

 関節蹴りや金的、目潰し、大声で耳を潰し、嘘詠唱、人質、何でもやる。


 だがこの卓越した部隊、この人数差。

 あっという間に様子が変わってきた。


 なるだけマトモに貰わないようにはしたが、蓄積してきた。目の上が腫れすぎて視界が塞がってきた。垂れ目になっちまうだろクソが。

 肋も何本か様子がおかしい。

 鼻血で息もしづれえ、歯が砕けて口ん中ズタズタだ。

 臓物には届いてねえが浅くねえ傷もあるな、腕が上がらなくなってきた。

 しかもどっかのタイミングで多分けっこう強めにを入れられて、目眩がやべえ吐きそうだ。

 ダメージが目に見えるようになってきて、相手も調子こいてきてやがる。

 それにトドメを刺す前に『転移結晶』で離脱されて、入れ替わるように『転移結晶』で人員が補充されて切りがねえ。

 単純に疲れてきた、見えねえ魔族も混ざってて気を張り続けねえと捌けねえ。


 ああ、やっべえ。


 

 


 連携だとか、講習だとか、演習だとか、模擬戦だとか、勝利だとか、生存だとか。

 そんなことを気にせず、ただ怒りに任せて暴れ回るのがたまらなく楽しい。


 やっぱ俺はこれだ、これなんだな。

 酒よりも、女を抱くよりも、仲間との日々よりも。


 この瞬間が、何より幸せなんだ。


 もっと熱く、もっと過激に、暴れ回る。


 お相手さんも動揺してる。

 勇者パーティでもねえ、謎の男がこんな猛抵抗しまくってくるなんて思わなかったろ。


 ナンセンスだと思われているだろう。

 実際ナンセンスだ。

 ほぼほぼ負けが決まってて、投降すりゃあ悪いようにはされないのだろうに。


 ただ暴れてえから暴れてるだけの奴の、相手をさせられているんだから、いや同情するよ。


「……見つけた! ポピー、何でも良いからアイツを狙って撃ちまくって! ダイルとクライスは全力でポピーを護衛! 私とブラキスは前に出るよ‼」


 メリッサは四人で固まってなんとか追撃を捌きながら、号令をかける。


 どうやら『無効化』を掴んだようだ。


 確かにそいつは流れの外に居た。

 参加しているようで、実はリスクから一番遠いところで守られるような位置取りをしていた。


「爆炎矢っ、風刃撃! 水球弾! 魔光……線っ!」


 ポピーは詠唱を唱えてとにかく魔法を撃ち出して、追従するようにメリッサとブラキスは駆け出す。


 そうかあの二人は、俺やバリィが居なくなった後は組んでたんだったな。


 メリッサは身体強化の魔法で回避盾をしながら、ブラキスの進路をけ。

 見つけ出した『無効化』をブラキスの射程距離内に捉えた。


 その時。


 ブラキスと『無効化』の間に割って入るように転移で突然現れたのは、先程メリッサがギリギリ倒して戦線を離脱させられた、ジャンポールだった。


 早すぎる戦線復帰。

 どうやら『転移結晶』で跳んだ先にはかなり優秀な、クライス君に匹敵するキャミィレベルの回復役がいるようだ。 


 いやはや参った。

 スキル無しの状態で相手をするには重すぎる。


 ブラキスも咄嗟に狙いをジャンポールに変えて振り抜くが、狙いを変えたその一瞬の居着きを突かれて斧の内側に潜られてカウンターを貰う。


 だがブラキスもその程度で止まる馬力じゃあないので、ジャンポールも崩される。


 スイッチするように、メリッサが前に出てジャンポールではなく『無効化』を狙うがジャンポールの偽無詠唱魔法でナイフが届く前に撃ち落とされる。


 そのままこれまた良い動きで、二発目を振りかぶりブラキスを狙っていたので。


「俺がいるんだなぁぁぁああああ、これがァッ‼」


 俺は叫びながらジャンポールに飛びかかる。


 一番強い奴が来た! こいつとやってみたかった!

 そのまま厳しく連撃を放つが、ギリギリで捌いてきやがる。


 でも、舐めんな。


 咄嗟のことだからと初撃を受ける選択したのが失敗だ、俺の連撃から簡単に抜けられると思うなよ。

 当初は戸惑っていたようだがジャンポールも、俺の連撃が煩わしいようでなんとか援護の隙を作ろうと動くが、主導権は完全にこちら側にある。

 援護が通らないように、ジャンポールや他の兵士で射線を切る位置に誘導しながら斬り続ける。


 このままこいつは抑えて削り切って畳む。

 その隙に、メリッサが『無効化』を落とせば――――。


「おぼぉぉあばぁぁばぁぁあおぉおおろおぉぉえ……‼」


 俺はとんでもない量の、吐血をする。


 あ、やべ、毒が効きすぎた。

 いや別に吐血だとか頭痛だとか身体が重いだとかはどうでもいい。


 流れを止めちまった。

 これはまずい、この居着きは、この隙は。


 もちろんこれを見逃すほど、このジャンポールは甘かねえ。

 見蕩れるほど見事な刃筋を通して、剣を振り抜く。


 奇跡的、いや奇跡だった。

 俺の身体はその綺麗すぎる首を狙った刃筋を、思考を一切かいさない肉体の反射だけで、皮一枚の所で躱した。


 首の皮一枚残すんじゃなくて首の皮一枚斬らすだけで首は守れたが。

 剣を握った俺の両腕は、肘から宙に舞う。


 斬り飛ばされ、血しぶきと共に舞う俺の両腕がやたらゆっくりに見える。死に際特有のあれだ、頭回らねえし名前わかんねえけど、あれだ。


 それと比例しない速度で、ジャンポールの突きが迫る。

 疑似加速を使っている。


 だが、この死に際特有ので、見えているぞ。


「ぅぅぐあら、ぎゃぁんんんんッッッ‼」


 俺は渾身の踏み込みで、突きで耳を斬り飛ばしながら剣に沿うように。


 ジャンポールの喉元に、噛み付く。


 身体が重かったが腕を斬り飛ばされて軽くなった。

 歯が砕けてギザギザになってたから良く肉に食い込む。


「――ッ! ぐ……っ、……! っ⁉」


 ジャンポールは慌てて俺に膝蹴りを入れたり、腹を突き刺して来るが、俺は離さない。


 このまま頸動脈を食いちぎる。


「ぐぶぶぶばべびびばぶぉぉぼぉぶぶば」


 首に噛み付きながら気合いの雄叫びをあげると、歯の隙間から吐血が噴き出す。


 もう、目も霞んでほとんど見えねえ、音も歪んでる。

 痛くもかゆくもねえ。


 多分、俺は死ぬ。

 でも楽しくて、止められねえ!


「……あ、が……っ、が…………っ!」


 俺を剥がす為の抵抗に力が強さが無くなり、こんな馬鹿な攻撃方法で死にかけていることにようやく気づいたジャンポールは『転移結晶』を使って。


 俺諸共、拠点へと跳んだ。


 なかば混乱状態だったのだろう、死にかけどころかくたばりぞこないの俺をあの場に残すことを、嫌がった。


 ばーか。

 もう五秒も生きてらんねえよ。


 俺は最後の最期で最高の喧嘩が出来たことを、首の肉と一緒に噛み締めながキラキラと視界が黒くなるのを感じながら命を落と




















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