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03そういう生き方しかできない奴はそういう死に方をする

「待て勇者、クロウさんからの伝言がある」


 帝国軍人のガクラとやらは、戦闘態勢に入ろうとするメリッサへクロウの伝言とやらを語り出す。


「『メリッサ、すまないがこれは僕の仕組んだ作戦だ。僕は僕の目的のために公都を落とす。出来れば協力してほしい、ガクラたちに抵抗しないでくれ、悪いようにはしない。終わったらまたみんなで食事でもしよう』――――とのことだ」


 ガクラは淡々と、確かにクロウが言いそうな感じでメリッサへ告げた。


 あー、なんかよくわからんが。

 思ってたよりクロウは帝国とズブズブでなし崩し的な外患誘致じゃなくて、がっつり公国を落とす逆賊というかテロリストになってんのか。


 まあ……あいつならやりかねないか。

 クロウは……いや、俺らもだがギルド本部の貴族の圧力でかなり冷遇というか虐げられていた。


 クロウ以外のギルド職員はどんどん抜けさせられ、気づいたら一人。

 ベテラン勢を西の大討伐に呼び出され、しかも馬鹿な騎士団やら貴族が仕切っていたせいでみんな死んだ。

 冒険者や軍の補充人員もなし、あいつは一人で山脈の魔物相手に町を守り続けた。


 あいつは基本的に怪物だ。

 体力も魔力も『超加速』で回復速度を加速させて疲れる前に回復しちまうので疲れない。

 だが、それはあくまでも肉体面での話だ。

 精神というか、心というか、そういうのはガリガリ削れていく。


 元々、目の奥を怒りで焦がしながら平静を装う怪物を追い詰めていたら……。


 まあ、ブチ切れて国ごと落とすなんてことになるだろう。

 あいつは真面目だがマトモじゃねえからな。


 さて。


 そんなクロウからの、協力要請に見せかけた降伏勧告。

 要するに、言うこと聞いてくれたら何もしないけど聞かねえなら敵と見なすって話だ。

 しかもこれをメリッサに言う、ガキの頃から自分のことをしたっていると分かっているティーンエイジャーの小娘に選択を迫ってやがる。


 俺が言えることじゃあねえが……、心がねえ。


 メリッサはクロウに惚れていた。

 クロウは女子供に甘いから、子供で女のメリッサは相当甘やかされていたし、懐いていた。


 それを知った上で……、高確率でメリッサが自分の言うことを聞くことを知った上で言ってやがる。

 流石クロウだ、本当に何でも使う。


「……ざ……ん…………っな」


 メリッサは聞こえるか聞こえないかギリッギリの声量で何かを呟いてから。


「…………ふぅううううざっ‼ けんっ‼ なぁあああああああああああああ――――――――ッ‼」


 空気を歪ませる程の怒りを全身から噴き出して、叫ぶ。


 おお、久しぶりに見た。メリッサのスロットル全開のガチ切れだ。目からも炎が噴き出してやがる。


「舐めてんじゃねえぞ、この私をッ! 私なら頼めば飲むってか! 子供だから! 好かれてるから! いい加減にしろおおおおおッ‼ セツナだけは連れていったくせに! セツナだけが特別だったくせに、自分が私に特別扱いされると思ってんじゃねえぞクソ垂れ目足速おっさんが! 調子乗ってんじゃねええええええええ――ッ‼」


 髪の毛を逆立てる勢いで、メリッサは捲し立てる。


 クソ垂れ目足速おっさんか……、クロウと同い年の俺にもやや刺さるな。


「……! メリッサ! 反応有りだよ!」


 ブチ切れるメリッサに突然ポピーがメリッサに報告する。


 反応……? 反応ってクロウの魔力感知か! 賢者であるポピーの魔力感知距離は公都全域に及ぶ。つまり公都内にクロウが現れればすぐに出向けるようにしている。


 クロウを畳むためにこいつらは鍛えてきたからな、接敵出来るタイミングは見逃さない。


「上等だァ‼ 今すぐ転移――」


「行かせるわけがないだろう。お嬢さん」


 ポピーに返事をしようとしたメリッサに、さっきメリッサがかなり強いと評価していたジャンポールとやらが厳しく剣を振る。


 ああ、なるほど相当使うなこいつ。


 剣の型というか流派的なところは知らんが、動きの基礎というか身体操作の部分に俺と同じ匂いを感じる。まあつまり、クロウに仕込まれている。

 さらに、ここまでの接近に使ってたのは疑似加速だ。しかも詠唱をしていない、クロウから偽無詠唱も習ってんな。


「……ッ! ポピーは全員に魔法防御! ダイルは近接を捌いて! クライスは随時回復! 私はこいつを畳む!」


 メリッサは無詠唱の武具召喚で両手にナイフを喚び出しながら、パーティに指示を出す。


 ちなみにこの相手にも筒抜けの指示には、あからさまにクライス君にヘイトを集めさせて相手の動きを単純化する意図がある。バリィの入れ知恵をしっかり使ってやがる、怒りで心を燃やしながらも頭は冷静なようだ。


 なんて考えていると、俺とブラキスにもポピーの魔法防御が展開される。まあこれだけつけとくから俺らは勝手に生き延びろってか。十分だ。


 それを見て攻撃魔法、熱光線のような魔法がポピーに着弾する。


 が、無傷。

 流石は賢者、巨乳なだけのねーちゃんじゃあねえ。


 そこに。


「流石にこの程度では通らんか……。賢者か……どうにも賢者とやらには縁がある」


 そう言いながら、空気から滲み出るように姿を現し。


「俺はグリオン・ガーラ、貴様はこの俺が止めてやる」


 魔族の男は、そう名乗って再び姿を消した。


 そうか、姿を消して混ざっていたのは魔族か。

 気配だけは感じていたが……、魔族は魔法が達者だ。無詠唱で魔法を使うし魔力の量もかなり多い、生まれながらの魔法使いだ。


 しかも今のグリオンなんちゃらだけじゃねえぞ。消えてるのはそれなりにいる。

 まあ、魔力が見えるポピーにはあまり意味がないが、魔力に注視してしまえば物理攻撃に注意力が働かなくなる。

 ダイルの捌きが甘くなれば、最初にポピーが落とされることになる。しかしポピーをかばい過ぎればクライス君が落とされる。


 なるほど……。


 これはあれだな、メリッサがジャンポールとやらを如何に迅速に落とすかが鍵になる戦いだな。

 メリッサが自由に動けるようになれば、魔法火力としても前衛火力としても、確実に戦況は好転する。


 ガクラとやらはハンドサインで隊員達に指示を送り、細かく魔法での牽制に矢を混ぜたり、怪我をした奴を下げさして転移結晶で離脱させ代わりに人員を随時補充する。

 おいおいなんだその戦術と技術力、つーかこいつらこの人数で帝国から一気に跳んできたんだよな……。


 冷静に考えて、こりゃ公国は負けるな。


 ここに跳んできたように、他の軍事拠点だとか貴族の屋敷だとかにも制圧部隊が跳んでるなら……、この練度の軍隊を止められる奴らがそうそう居るとは思えねえ。


 なんて考えていると、メリッサ対ジャンポール戦が熱くなってきていた。

 二人とも疑似加速を使っている為、全ての動きを視覚的に追えているわけじゃねえがどっちもうめえな。


 お互いに仲間からの援護が切れるような位置取りをしながら、煙幕や設置型の魔法を細かく使いつつ接近戦も厳しく回している。


 あのジャンポールってのすげえな。

 メリッサは馬鹿でペチャパイだが『勇者』を持っていて、ステータスだったりスキルの有用性だの、カタログスペックだけでいうならクロウよりも上だ。

 それを連携有りきとはいえ、渡り合うってのは完全に努力をした天才だな。俺と同じく。


 節々にクロウの動きを彷彿とさせるのが腹立つが……、まあ良い予行練習にはなるかもな。


 お、メリッサの蹴りが入った。

 半月当ては予想外だったみてえだな、実戦で躰道使うやつは帝国にもなかなかな居ねえだろ。俺らもアカカゲが使ってたから知ったくらいだ。


 ジャンポールも上手く痛みを逃がそうとするし、周りも畳み掛けさせないように援護を放つがメリッサはがさない。


 畳み掛けて、腕をへし折り、肩口にナイフを深く刺し引っ掛けるように引き付けてもう片方のナイフで首を狙ったところで。


 ジャンポールは首を狩られる寸前に『転移結晶』で戦線を離脱した。

 その瞬間に、メリッサは状況を把握してポピーのカバーに回る。


 ああ勝てそうだな、これ。

 帝国軍と魔族の連携や練度もすげえが勇者パーティもなかなか育った。

 まあここで勝ったところで公都は落ちるかもしれんが、クロウには報いられるかもしれねえ――――。


 なんて、俺らしからぬ油断。

 精神的な居着きを見せた、その時。


「……⁉ なっ、あれ……?」


 メリッサの足がもつれて突然すっ転ぶ。


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