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02そういう生き方しかできない奴はそういう死に方をする

 どうにも回復魔法ってのはキャミィのようにスキル補正がないなら、医学的な知識を用いて使わないと効果が上がらないらしいがクロウはその分野にうとかった。

 まあちょっとした怪我なら治癒速度を加速させてしまえばすぐに治っちまうし、そもそも大怪我しないから伸ばす必要がなかったんだろう。


 右腕が繋がったは良いが血が通ってもピクリとも動かねえし、セツナの右眼は完全に潰れて顔に大きな傷跡が残った。


 完全リタイアだ。


 クロウはギルド本部に丁寧な脅しをかけて、優秀なヒーラーだとか就職先だとかを斡旋した。

 おかげで多少マシになって箸は厳しいがスプーンでなら飯を食えるくらいになったし、セツナは顔の傷が消えて眼鏡をかければある程度普通の日常生活を送れるまで視力を取り戻した。


 そっから俺は公都のギルド本部で新人共に武術教官をやることになった。


 まあ復帰は絶望的だし、他に出来ることもねえ。まさかこの俺が人に物を教えるような立場の人間になるとは思わなかった。


 ここで食いっぱぐれないように、とりあえずクロウを参考にへらへらと穏やかそうなフリをすることにした。

 メリッサ相手に教える時みてえに毎回ブチ切れてたらあっという間にクビになる。

 流石に俺も大人になった。廃教会をねぐらにしていた頃より生活水準は上がりまくっている。もう昔のような生活には戻れねえ。

 なので優しく丁寧に、普通の人みたいに…………まあ普通の人のモデルとして怪物を選んでいる時点で俺はやはり馬鹿なんだが。


「では、今見せたようにまずは素振りで剣に乗る力の流れを――」


 と、俺は懇切丁寧にジャリ共に剣の基本を教える。


 しかし。


「いやそんなんいいから、さっさと基礎講習の修了ってことにしといてよ」


「素振りって流石に基礎すぎだろ! これ終わんねえと依頼受けらんねえんだからさっさとしろよ!」


「あんたみたいな才能ない奴と違って俺らのスキルはそんな努力しなくていいやつなの! さっさと終わらせてくんない?」


 ジャリ共はしっかりクソ生意気に舐めた口を聞いてくる。


 一旦考えよう。

 これは難し過ぎる問題だ。


 このままだと俺は一秒以内にブチ切れてしまう。

 それを回避するにはさっさと修了ってことにして講習を終わらせてこいつらを帰らせることも全然ありな気がするが。

 俺が基礎講習を担当したジャリ共がすぐ死んだら、俺の怠慢ってことになってクビになる可能性がある。


 ブチ切れず、暴れず、畳まず。

 穏便にクソ雑魚な彼らが講習を受けようとしてくれるようにするにはどうするべきか。


 なんて考えている間にとっくに一秒が経ってしまって、ジャリ共を畳んでしまった。

 ああ、ダメだ。やはり俺は物事の解決に暴力を用いること以外、出来ねえ。


 どうすっか、やっちまったもんは仕方ねえ。

 俺はうずくまるジャリ共を蹴りで起こして、首に木剣を押し当て。


「……まずは素振りだ。剣|握れ、才能ねえんだから努力しろ雑魚」


 容赦なく講習の続きを命じた。


 まあおかげで言うこと聞くようになったので、とりあえず剣を振らせた。

 何日かで何だかんだでかたちになって、多少マシになったので修了とみなした。


 まあ、これで死んだら運が悪かったってなるだろう。

 こんな感じで、俺は結局暴力を用いて仕事をこなしていたある日。


「ブライ、ちょっとうちの戦士鍛えてくんない? そしたら右腕治してあげるよ」


 ギルド本部にかつてのパーティメンバーであるメリッサが現れて言った。


 メリッサは『盗賊』が『勇者』になったとかで、公国で優秀なスキルを持つ輩と勇者パーティとやらを組んでいる。


 公国最強の最高戦力。


 貴族相当の権力も与えられる。

 ちょっと前にメリッサは公都上空に戦略級魔法を展開させて問題になったが訓練中のミスということで片付けられる程度には権力者だ。


 メリッサがちょろっと言うだけで、ギルド本部は俺を出向扱いで勇者パーティの訓練場へと派遣した。


 どうにも、冒険者ギルド……特に本部はに弱い。

 まあ公的機関である限り、公爵家やらの主要貴族が政治を行うこの国ではそりゃ仕方ないんだが……、わりとしょうもない決定や依頼の優先度なんかもギルドは断れない。


 トーンの町でクロウがどれだけギルド職員や冒険者の追加を嘆願しても叶わなかったのも、どうやら貴族からの圧力があったらしい。


 クロウはどうにも、ある貴族家、しかもかなり主要で権力を持つ家から嫌われていたようだ。

 何でクロウが貴族なんかに目をつけられたのかは知らねえ、大方どっかの貴族の娘でもこましたのか爵位持ちの野郎でもぶっ飛ばしたのか……何をやったのかしらねぇが、あいつのことだ。何をしていてもおかしくねえ。


 まあ、利き腕が動かねえのは煩わしい。治せるんなら治してえ。給料も貰えるし、断る理由はねえ。


 そこで会ったのはダイル・アルター。

 なんか『万能武装』だとか言う、俺の『双剣士』だとか武器依存するような職モノスキルの最上位とされるスキルを持つ勇者パーティの戦士だ。


 まあ、クソ生意気だったんで一回畳んでおくことにした。


 確かにスキル補正で動きは速いし技も鋭いし力もかなりのものだ。

 でもそれだけ。

 スキルなしで剣一本の俺でも全然畳める雑魚だった。


 正直手加減してやっても良かったが、腹も立っていたしメリッサが抱える俺の右腕を治せるというヒーラーの技量とやらを確認しておくために通常であれば半年は入院して半年はリハビリが必要なくらいに身体中の骨を砕いた。


 だが、ものの数十分程度でダイルは起きてきた。

 なるほど、勇者パーティの回復役であるクライス・カイルは確かに超絶優秀らしい。


 そこから適当に畳んだりしながら身体操作を中心に教えた。

 スキルに依存して強いやつなんか居ねえ、クロウもバリィもアカカゲも、別に『加速』や『狙撃』や『忍者』じゃなくても関係なく強かったはずだ。


 もちろんスキルによる補正も重要な要素ではあるが、絶対じゃあない。

 スキルはあくまでも自身の強さにおける一つの要素に過ぎない、基本は身体操作と思考と判断と攻略と経験……、ステータスの数字やスキルの優劣だけで人間を測れる訳がねえ。人間はそんなに浅くねえ。

 スキル至上主義のこの国ではあんまりその辺を重視しないというか軽視しているところがある。


 その国が選んだ最強のパーティ…………、まずは自分たちが馬鹿な選ばれ方をしたことを認識してもらう必要があった。


 毎日ブチ切れながらダイルを畳んで、数ヶ月でかなり動けるようになり。

 お仲間との連携もあり、俺は見事に一泡吹かされた。


 ああ、腹が立つ。

 その憂さ晴らしに、右腕を治してもらった直後にメリッサをボッコボコにしてやった。


 メリッサは確かに俺とパーティ組んでた頃より、あらゆる面で強くなっていたが弱くなっていた。

 強力な魔法、凄まじい腕力、クロウを模倣した戦い方。

 それにメリッサ・ブロッサムは、頼りきって依存していた。


 固執や執着は居着きを生む、居着き隙を生み、隙は流れを止める。


 俺やクロウやバリィがさんざっぱら叩き込んだ基本を、守ってるつもりで出来ていると勘違いしてやがった。

 憂さ晴らしどころか、メリッサにさらに腹が立っちまったから剣二本で『勇者』の回復力や耐久力を超えるまで必要以上にボッコボコにしてやった。


 幸いクライス君の回復魔法は本物だ。

 殺さなきゃ大抵どうにでもなる、便利過ぎる奴だ。一家に一台欲しいくらいだ。


 ああ、腹が立つ。


 たかがスキルがちょっと良くなった程度で、弱くなってんじゃねえぞクソガキが……。

 おまえはトーンで最弱の小娘だったが、一番根性があって、負けん気が強くて、足りねえ脳みそ必死で使って、仲間を信用することでミスを前提に全開で動いて。


 力を超える勇気で、あらゆる困難に立ち向かっていたおまえが。

 勇者なんて馬鹿みてえなもんに担ぎ上げられて疎かにするなど…………、気に入らねえ。


 だが、これは俺のせいでもある。

 勝手に怪我して、リタイアして、一人前になる前に離れちまったパーティリーダーの俺にも責任がある。


 だから、俺はこいつらの武術指南を請け負うことにした。


 金払いもいいし、何より俺は自分に腹が立っていた。

 それに、クロウとやり合う気でいたのも面白かった。

 真正面からあの怪物に一泡吹かすとするなら、確かにこいつらの持つスキルで……ギリギリ及第点か。


 とりあえず適当に模擬戦と基礎鍛錬を繰り返し。

 途中でなんか知らんがブラキスが現れ。

 バリィを呼び出し。


 仮想クロウとして、さらにメリッサたちを鍛えた。


 実際クロウはバリィ並に頭が回るし。

 腕力はブラキスにやや劣る程度。

 技の冴えや身体操作は俺と変わらない。

 ついでに戦闘継続持久力というか体力はリコー級だ。


 まあ速さというか『超加速』を再現するのは俺たちには無理だが、その手の再現はメリッサがやっている。

 さらにバリィが考えるクロウ攻略をメリッサへと教え込んだ。

 いやまたこれが卑劣も卑劣、俺も手段は選ばねえ方ではあるが……まあクロウ相手なら仕方ない。的確に弱点を突くならそれしかないかもしれない、卑劣だが。


 そんなこんなで、順調に勇者パーティを鍛え上げていた。


 ある日、突然も突然だった。


……、私はライト帝国軍第三騎兵団が第一強襲制圧部隊、隊長のガクラ・クラックだ。この建物は既に包囲されている。不用意な戦闘は避けたい。ただちに降伏をし、武装を解除して投降を願いたい」


 転移で現れた帝国軍人は本当に不躾で不敵に名乗り、穏やかに喧嘩を吹っかけてきた。


 包囲したのは確からしい。

 かなりの人数の気配を感じる。

 しかも多分気配を消してたり、視認出来ない魔法を使ってる奴が混ざってる。

 わりとつえーぞこいつら、流石に勇者パーティを抑えに来るなんてことをする為の部隊だ。手練揃いだし相当連携も磨いていると見える。


「……っ、一旦驚くのを止めて。切り替えて、奴らは相当強い。私はトーンに跳んだ時、そのガクラが率いる山岳攻略部隊に一度負けている。ガクラは『観察』『鑑定』なんかの洞察力に優れたスキル持ち、そっちのジャンポールは『感覚強化』『知覚強化』かなんかで勘が凄まじい。不可視の状態でも確実に狙って来るのと、疑似加速を使う。他の奴らもかなりトーンで見た顔が混ざってる。恐らく山岳攻略部隊をベースに編成された部隊で、連携も呼吸単位で合わせてくると思って。クロウさんとやり合うつもりで行くよ」


 メリッサは動揺を飲み込んでそのまま一気に仲間たちへと情報を共有する。


 へえ、バリィみてえなことするじゃねえかムカつくな。


「……えっとブライさん、俺たちはどうする?」


 ブラキスがやや怯えながら俺に尋ねる。


「あーいや……、何もしなくていいだろ。俺らはただのギルド職員と木こりだからな、勇者様たちに任せときゃあいいだろう」


 俺はブラキスにそう返す。


 まあウズウズはするがこれはメリッサたちが売られた喧嘩だ。俺が買うもんじゃあねえし、ブラキスは対人戦が得意じゃねえ。

 バリィが居りゃあバリィの指示通りに、甘さや躊躇ためらいを捨てて打ち込めるが基本的に人に攻撃することを躊躇ってしまう。

 こんな時に限ってリコーが乗り込んできてバリィを休みにしたからバリィが居ねえ。

 ブラキスの一撃必殺は、対魔物戦闘用のものであり、バリィの指示の元で真価を発揮する。


 とりあえず今はけんに回るが吉。


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