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02馬鹿は時に最大効率を直感的に引き当てる

 そんなことを思い返しながら、私は一人公都のカフェで紅茶をすする。


 私は現在、ライラをバリィに預けて一人で買い物に出ている。

 まだまだ手のかかる子を放って出かけるのはなかなかによろしくないとはわかっているけどこれにはまあ、理由がある。


 どうにもバリィは今、勇者パーティへの戦闘指南に熱を上げすぎている。


 クロウがギルド職員を辞めて、帝国にトーンの町を明け渡して、公都の軍施設ぶっ壊し、騎士をボッコボコに畳んで、勇者パーティも引っぱたいて逃走したということで。

 勇者パーティは現在、対クロウ用にみっちり鍛え中らしい。

 そのために、勇者のメリッサはかつての仲間たちを集めてクロウと戦うための力をつけようとした。


 あのトーンの町きっての悪童のメリッサが勇者……、何度も悪さをして私たちがとっ捕まえて説教したあの子供が今や勇者か。

 まあ、後半の悪さはクロウにかまってほしくてやってたみたいだけど。


 さらにそんな勇者パーティに連携の大切さを教える指南役として、傍若無人の喧嘩屋のブライが呼ばれて連携を語るなんて思いもしなかった。

 さらにさらに、かつて私たちのパーティで前衛火力を担当していた一撃必殺のブラキスもブライと共に参加して。


 仮想クロウを成立させる為に、バリィも招集された。


 魔法学校で教鞭をる姿も板に着いてきていたバリィは、教えることに慣れつつあったのもあって帰宅後も夜遅くまで勇者パーティの個人の技量を前提とした連携を考案し続けていた。

 まあかつての仲間たちとまた仕事が出来るというのもあるけれど、これほどまでに熱をあげる理由はそれだけじゃあない。


 バリィはまあまあクロウにちょっとだけコンプレックスというか強い憧れから来るライバル視……、まあ男の子な思いがちょっとある。


 歳は近いけど、バリィよりクロウの方が二つ年上で今やあまり関係ないけれど出会った頃、ティーンエイジャーの頃の二つというのは大きく見える。

 圧倒的な知識量や技量、フィジカル的にも完成され、さらに職モノでなく万能モノのスキルを上手く使って戦う、最速で最強のギルド職員。

 実際めちゃくちゃ世話になったし、バリィは実質クロウの弟子みたいなところがあるくらいに色んなことをクロウから学んでいる。


「いつか……クロウみてえに…………」


 ベロベロに酔ったバリィが一回だけ、私の胸に顔を埋めながら、そう洩らしたことがある。


 でもそれ以降は一度たりとも、それを口に出すことはなかったけど意地があったんだと思う。

 だから今、クロウをぶっ飛ばす為に色々と策をめぐらすのが楽しくて仕方ないらしい。


 今の自分がクロウに対してどこまでやれるのか、試してみたいのだ。


 まあ、私もバリィも……まあブラキスもブライも、勇者であるメリッサすらも別にクロウを悪人だとは思っていない。

 昔からイカれていたし、クロウが本気で悪さをするんならこんなもんじゃあ済まない。

 でもバリィは、せっかくの機会なので全力で挑戦したいらしい。


 なので、昔みたいに毎日毎日夜遅くまでこんをつめすぎている。

 せっかく定時上がりと休みが確約された教員になったのに、今は冒険者時代と同じくらい無茶な働き方をしている。


 だから休ませることにした。


 まあ厳密に言えばライラの世話をしながら家事をするのは全然体は休まらないが、休めと言って休めるような男じゃあない。

 他のことを考えられないくらいに集中出来ることを別に用意してやらねば。


 昔だったら根をつめすぎている時にはおっぱいでぐっすり眠らせたけど、今は子供もいるしなかなかそういう時間も作れないので、目の離せないライラを任せた。


 これで余計なことは考えられない。

 バリィもちゃんとライラとの時間を作らないと、ライラは毎日すくすくと成長しているのであっという間に大人になってしまう。

 もっとちゃんと成長を見届けておけばって、まだ二歳にもなってないのに私ですら少し後悔してるのだから働きに出ているバリィは凄まじい後悔をすることになるだろう。


 これは大切なことだ。

 今日はライラを譲って、私も私で息抜きをしよう。


 公都に越してきてからあんまり散策も出来てない、昔出てきた時よりも結構色々と変わっている。

 もう少しライラが大きくなったら家族で色々と回ってみたいな。


 なんて考えていながら歩いていると、やたらと武装した連中とすれ違う。


 あー! ここ冒険者ギルド本部だ! なっつかしい~……、へー今も結構冒険者いるのね。


 私はこっそりとギルドの中を覗いてみる。


 おお……、流石都会の冒険者……、装備が良い。

 あの盾とか結構高いんじゃない? 細かい装飾付きってかっこいいけど打ち込まれるとすぐポロポロ取れちゃうのよねぇ……、あれは見た感じ取れてないとこを見るとかなり頑丈っぽい。


 バリィの使い込みすぎて握るとこがちょっとせてるやたら硬いこんとか、ブラキスの馬鹿が作った『重戦士』の私でも担ぐのがやっとの大斧とか、私の塗装が剥げきってさび止め直塗りを重ねて変な色になった大盾とか。

 私たちはド田舎であるトーンギルドでも随一の装備がダサいパーティだったからなあ……、ブライんとこのパーティはセツナが整備出来たから装備の手入れに余念がなくてビシッとしててかっこよかったんだよなあ。いいなあ……、まあ、それすらも良い思い出なんだけど。


 なんて考えていると、

 突然、大勢の人間の気配が背後に現れて反射的に振り向いてしまう。


 同時に、ちゅうから武装した中隊規模の武装した兵士が現れて、着地と同時に凄まじい連携で陣形を変えて、迅速にギルドを包囲する。


 あっという間の出来事に驚くもなく。


「我々はライト帝国軍第三騎兵団である‼ 現在帝国軍は公都攻略作戦中である‼ 民間人である冒険者と戦闘は望まない‼ すみやかに武装を解除し、投降せよ! 抵抗の意思があると判断した場合は武力による制圧を行うのである‼」


 やたらとであるであるうるさい警告を隊長らしき男がギルドに向けて叫ぶ。


 いやいやこれ、変なことになってるよ……。

 え、これって転移魔法? こんな人数がいっぺんに……? 帝国って一番近くてもトーンの辺りでしょ? そんな長距離を……、しかもこれって別にこのギルドだけを狙ってるんじゃなくてもっと主要な軍事拠点やら政治的な要所を優先的に強襲するついでに冒険者ギルド抑えておこう的なことなんでしょ?

 ついででこんな転移を使える集団をこの人数って……いやあこれ公都落ちたんじゃないの?


 色々と頭の中でぐるぐると状況の整理をするけど完全に一般市民な私は両手を上げて、帝国兵の指示通りにギルドから離れる。

 とりあえず一般市民への乱暴とか武力制圧とかはしないようだ。この指示も戦闘に巻き込まれないようにする為の避難指示の意味合いが強い。

 冒険者ギルドも多分今ギルド職員たちが対応を話し合いつつ、冒険者たちを抑えているところだろう。


 この帝国軍の優しい警告は、普通に考えれば考えるまでもなく飲むべきものである。

 冒険者は治安維持的な依頼も受けるが、基本的には単なる日雇いの何でも屋である。

 その身一つで成り立っている、リスクヘッジを出来てこその冒険者である。

 ……であるが移ってしまった。


 まあとにかく冒険者に国に対する忠誠心みたいなものもなければ、金にならない危険をおかす必要はないのである。


 だが、世の中が思っている以上に冒険者は鹿だ。


「おいおい舐めてんじゃねーぞ、帝国の犬どもがあっ‼」


「山の向こうまでぶっ飛ばしてやんぞコラァ!」


「やってやんぞ本部の冒険者はこえーぞ、オラァ‼」


 なんて、馬鹿みたいに馬鹿なことを馬鹿どもが吠える。


 あーマジで馬鹿……、絶対ノリで動いたでしょ。

 この帝国軍の練度は、パッと見ただけでも相当だ。

 あの警告は怖いから戦いたくないとかのハッタリではなく、はっきり生殺与奪の権利はこちらにあると宣言しているんだ。


 今この場にいる冒険者は多く見積っても三十人程度で七から十パーティ、もしかするとフルメンバーじゃないパーティもあるかもしれない。

 対して向こうさんは目測五十人以上、しかもこの作戦に向けて五十人で一つの戦闘単位となるように訓練してきているだろう。

 パーティ単位での連携しか出来ない寄せ集め、しかも全員が全員対人戦の心得があるわけでもない。魔物討伐専門のパーティなんてのは珍しくもない。


 もしトーンの冒険者がこの状況になったら……、余計なことする前に一回全員で即ブライを畳んでからクロウの判断に任せるかなぁ……。


「抵抗する場合は武力制圧に移る‼ これは最終警告であるっ‼」


 であるの帝国兵はひるむことなく堂々と返す。


 ほらやめときなって……、怪我じゃすまないよ。


「うるせえ! この喧嘩はもう買ったぁッ‼」


 冒険者は剣を抜いて、構えながら宣って見せ。


「炎槍撃ッ!」


「水刃斬!」


「…………魔光ぉ……線っ!」


 それに合わせて他の冒険者たちが様々な魔法を放つ。


 帝国兵たちは即座に魔法障壁を展開して受け。

 であるの帝国兵がハンドシグナルで指示を出し、そのハンドシグナルをハンドシグナルで共有しつつ一斉に動き出す。


 連携の練度が高すぎる……、相手に情報を与えない対人戦の基本戦術を徹底している。

 動きも速い、っていうか全然反応出来てないじゃん!


 このままじゃ……ああ、もう!


っ」


 私は詠唱しながら冒険者たちの前にカバーで入って、帝国兵たちの剣を喚び出した盾で弾いて崩す。


 あー、つい動いてしまった。

 もう本当に……さっさと帰ってバリィにこの事態を共有して避難とかしたいのに……。


 どうしようもない。

 だって私も元冒険者、つまり馬鹿なんだ。


 このどうしようもない馬鹿たちを、かつての自分たちに重ねてしまった。


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