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01馬鹿は時に最大効率を直感的に引き当てる

 私、リコー・バルーンは主婦である。


 夫のバリィは元々は東の果てのトーンの町の冒険者で、現在は南に位置するサウシスの街で魔法学校の教員でありながら最近は公都にて勇者パーティの指南役をやっている。


 子供は一人。

 娘のライラは最近少しずつ言葉を覚えてローテーブルに掴まって歩くようになった。まだまだ手がかかるけど毎日どんどん成長する様子を身近で感じるのが、いとしくてうれしい。

 今はバリィに着いていくかたちで、公都に移り住んでいる。


 私も、バリィと同じく元々は冒険者をやっていた。


 私は元々公都よりやや北寄りの町で生まれ育ち『重戦士』のスキルを活かすべく公都にて冒険者登録をしたが……、うーん、なんていうか公都の中央ギルドは肌に合わなかったというか。

 単純に多くの冒険者が集まり、後衛火力役の魔法使いとは違って新人の前衛盾役にはそれほど需要がなく、さらに私が女ということもあって屈強さと頑強さが求められる前衛盾役としてパーティを組んでくれるやつはそれほど居なかった。居ても私の豊満なバスト狙いの馬鹿野郎がほとんどだった。


 すぐに公都で冒険者として飯を食うことに限界を感じて、軍にでも入ろうと思っていたところに噂を聞いた。

 東の果てのトーンの町では山脈から湧く強い魔物が出現する為、報酬は高いがかなりの技量を要するために不人気で人手不足気味。腕に自信があるなら穴場だという。


 私はとりあえず、一度トーンの町へと行ってみることにした。

 そちらでも上手く行かなければ、軍に入ろう。その前に一度試してみるのも悪くない。

 そんな理由で私はトーンの町のギルドへ訪れた。


 そこで、夫となるバリィと出会った。


 バリィも同時期にトーンの町にやってきた。

 理由は私と同じような感じで『狙撃』のスキルを持つものの金がなくて銃は買えないし弾代もかかるし、筋力より魔力のステータス値がちょっと高かったから独学で魔法を覚えたが大した火力も出せない為にトーンの町へと流れ着いた。


 まあこの町の冒険者はみんな似たようなもんだ。


 同期のブライも、元々野盗やらゴロツキ相手に暴れ回る喧嘩屋で合法的に暴れるように冒険者になったが何処のギルドでもトラブルが耐えずにトーンの町へと流れ着いたし。

 またまた同期のセツナも、サウシスの魔法学校でまあまあ優秀な成績をとって研究職への就職が決まっていたが親から貴族の子息のめかけになるように言われて大喧嘩の末に勘当状態で家を出て、流れ着いた。

 少し後輩のキャミィは、北西の田舎から公都に出たけど『復元』のスキル持ちということで教会の連中に付きまとわれて面倒くさくなり信仰心の薄い土地を目指していたら流れ着き。

 同じく少し後輩のアカカゲなんかも、暗殺者一族が住まう隠れ里で人を殺す訓練を積んでいたが魔物のれに襲撃され壊滅し一人だけが生き残って里を出てふらふらしていたら流れ着いた。

 ベテラン勢の先輩方も似たようなもの、一癖も二癖もある、すねに傷持つ流れ者ばかりだ。

 若手の二人は少し違うというか、そもそもトーンの出身だったり公都にびびって北から迂回してたら東の果てに着いちゃったりとか。


 まあそんなトーンの町で、私たちは出会った。


 駆け出しの頃は、とりあえずわからないなりに同期の四人でパーティを組んで。

 魔物討伐に行ってはしくじっては戻って反省会を繰り返した。

 バリィがつたない作戦を考えたり。

 ブライがブチ切れて無茶苦茶にしたり。

 セツナが近接の私とブライに気を使って魔法を撃てなかったり。

 私もバリィの作戦通り動けずブライとかち合ってしまったり。


 問題だらけの中で、ちらちらとベテラン勢が口を出すべきかむずむずとしているところ。


「初級者講習会を開きます。是非参加してみてください」


 と声をかけてきたのは私たちと同じく新人のギルド職員、クロウ・クロスだった。

 クロウは業務の合間を使って冒険者の基礎講座を開いた。


 私は当初、まあ正直新人とはいえそれなりに実戦に身をとうじていたし新人のギルド職員の教科書通りの講座なんて聞く意味ないと思っていた。


 でも学生上がりの真面目なセツナと、独学に限界を感じていたバリィの魔法使いたちは講座に足を運んだ。


 そんなクロウの初級者講座で、爆発的にバリィは伸びた。


 元々分析屋だったバリィは得られた情報や違和感や推測を戦いに上手く活かすことが出来なかった。

 それをクロウからの基礎講座でつちかった、連携の基礎やこの辺りに出る魔物に有効な攻撃などを知ってパーティに指示を出しながら私たちが戦いやすいように細かく魔法で牽制して魔物を反応させたり。

 依頼達成率が激上がりした。

 流石に私もクロウの初級者講座に参加することにして、クロウが語る基礎を学んだけど……。


 一応公都のギルドでも基礎講習みたいなものは受けてはいたが、クロウが語る内容は具体的というか実戦が前提に組まれていた。

 盾での捌き方や効果的な位置取り、後衛魔法使いの射線把握方法、筋力だけに頼らない出力の仕方などを教わった。

 これでさらに魔物討伐の成功率が上がったが、ブライは相変わらず強いのは強いんだけど連携が取れない中で。


 バリィとブライが大喧嘩を始めた。

 マジの大マジの大喧嘩、バリィも魔法を撃ちまくるしブライも双剣をぶん回して二人とも相当頭に血が上っていた。


 私とセツナは困ってベテラン勢に助力を頼むと、最初は「冒険者なら多少の喧嘩はコミュニケーションみたいなものだ」と笑って煽っていたが想像以上にマジの殺し合いになっていて慌てて止めようとしたけれど。

 バリィもブライもそこそこ力をつけており、思ったよりやりよる為にベテラン勢もブチ切れて大乱闘になり。


「喧嘩は両成敗だ……、どっちも畳む! 暴れてえなら依頼で暴れろ馬鹿野郎共があッ!」


 と、最終的に乱入したクロウが全員をぶん殴って畳んでそう怒鳴りつけて終わらせた。


 今思えば笑い話だけど、当時はドン引きだった。

 本気じゃないとはいえベテラン勢も含めた冒険者六人を新人ギルド職員一人でボッコボコにするのは異常過ぎた。


 そんな出来事をきっかけにクロウの見る目が変わった。

 ベテラン勢からは骨のある若者と認められ。

 ブライも強いと認めて講習会に参加するようになり。

 セツナは完全にれていた。


 どうもセツナはああいう完璧な感じの男が好みみたいだった。

 私は私でその頃、既にバリィのことが気になりつつあった。


 バリィは完璧とは程遠い、弱くて足りないものだらけだった。

 頭の回転が早いけどステータス値的には可もなく不可もなく。

 魔力も私やブライよりは多いし使える系統も多いけどセツナとくらべればというか魔法使いの中ではかなり低い。

 筋力や体力も魔法使いよりはあるけれど、戦士系職モノスキル持ちには遠く及ばない。

 スキルの『狙撃』も特に威力に関しては補正されず、命中率はかなりのものだが必中とまではいかない。


 だから、バリィはとにかく努力をした。


 毎日、夜遅くまで依頼で討伐した魔物の動きのパターンやパーティ連携の修正案、私たちの動きや出来ることや体力や魔力の管理、使える魔法や技の種類などをまとめて、さらに自身が穴にならないように少ない魔力で効果的な魔法を覚えて近接戦闘用に杖術を鍛えた。


 しかもバレないように、みんなに置いていかれないようにと、必死に努力していた。


 そしてバリィがたどり着いたのは。

 相手の一番弱い部分より、少し強い力があればいい。

 そんな極論だった。


 そのために、分析や考察や状況の把握と整理、情報の活用し相手の弱点や虚弱性をすぐに見抜き。徹底して効果的にそこを突く。

 その考え方は魔物討伐にバチビタでハマって、屈強な魔物が蔓延びこるこの東の果てのトーンで依頼達成率はベテラン勢と遜色のない域へ到達した。


 まあ、なんだかんだ言ったけどただの努力家なのだ。

 私はそれが、たまらなく可愛く思えてしまった。


 もう少し具体的な出来事であれば。


 ある日、私とバリィが次の依頼内容を見て対策や準備などを話し合っていると。


「ちょちょちょ……っと、まっ……!」


 私は間抜けな声を上げてしまう。


 なんと突然、バリィはこの私を押し倒してきたのだ。


 あまりにも不意打ち過ぎて、バランスを崩して尻もちをついてしまった。体幹や体軸の強さだけならブライやクロウより強い自信のある『重戦士』を持つその私がだ。


 流石バリィ、これ以上ない一番油断した瞬間を狙い撃ってきやがった。

 私は感心しながらも、右手を人差し指から順にがっちりと握り込む。

 今まで町に遠征に来た他所の冒険者パーティに、ちょっかいをかけられることもそれなりにあったが。


 もれなく私のソーラープレキサスブロー抉り込むようにみぞおちに一発で、畳んできた。


 ナンパは即畳む。

 私はまだ優しい方だ。ゲロ吐いてのたうち回るだけで済むけど、セツナはマジで焼く。

 尻を撫でられた時には全部の指がくっつくまで皮膚をとかかすほど尻を触った手を魔法で焼いていた。

 バリィだろうと例外じゃあない、悠々と私のおっぱいに顔をうずめているがゲロ吐いて掃除して帰ってもらおう。


 少し身体を起こそうとしたところで。


「…………すー……っ……すー……っ……」


 バリィが寝息を立てて、ぐっすり眠っていることに気づいた。


 私はそれを見て、握り拳を解いて。

 そっと彼の髪を撫でる。


 毎日毎日、寝る間もしんで努力を重ねていることを私は知っている。

 疲れで、ふと眠くなってしまったのだろう。

 私はそれがとても愛しく思えた。


 というか別に、バリィとなら、どうなっても良かったんだ。


 ああ、

 


 私の胸を枕にしてすやすや眠る彼の頭を抱きながら、私は私の恋を、この時に自覚をした。

 まあそこからちゃんと恋人関係になり、顔を埋めるどころか揉みしだかれたり色々挟んだりとなるのはもう少し後のことだ。


 そこに至るまでも、色々あった。

 駆け抜けた日々だったけど、私のかけがえのない青春の日々だった。


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