おおよそはクロウさんの語った異世界転生者の話と被る。
株式会社デイドリームという、異世界にあった秘密組織がこの世界に干渉を続けて発展させてきたとか。
しかし株式会社デイドリームが解体され、サプライズモアという組織がこの世界への干渉を引き継いだ結果、世界には魔物とスキルやステータスウインドウが作られたとか。
クロウさんの知る他の転生者同様、集団自殺に異世界転生を選んだとか。
そこからは元々技術者だったことから、魔力を用いて様々なものを開発したり異世界のものを再現したり異世界で
どうにも異世界という与太話に信憑性が出てきてしまった……。本当にあるのか? 公国の地下に魔物とスキルを生み出す装置とやらが……。
「……んで、その父上、平良良平氏はどこだい? 管理者権限の種別によっては協力を仰ぎたいのだけれど」
話を聞いてクロウさんはリョーコ氏に問う。
ああそうか、最強無敵でもクロウさんは外国人ということか。
「父は二年前に死にました。昔から身体が弱かったところに心臓疾患を抱えて、心臓発作が起こり延命処置を
リョーコ氏は粛々と、リョーヘェ氏の最期を語る。
そう、先代社長は既に他界している。
魔動結社の代替わりの直後、訃報が舞い込んだ。
享年五十八歳。
帝国での魔物被害と軍務に
医学や回復魔法の発展でかなり帝国民の平均寿命が上がったとはいえ、そもそもの基礎体力や医学的にまだ原因が究明されていないような疾患に関してはどうしようもない。
葬儀には民間人では異例の、王族や各地域領主などの政治家や帝国軍のお偉方も参列したらしい。それほどにまで帝国繁栄におけるリョーヘェ・タイラー氏の功績は大きい。
「ちなみにスキルは『第一種管理者権限』だったかと、サプライズモア時代はスキル実装関連の担当だったようです」
そう付け加えたところで。
「………………あの、どうかいたしましたか?」
リョーコ氏はクロウさんの顔を見て、声をかける。
「……いや、大丈夫だ。なんでもないよ、お亡くなりになられているなら仕方ないね。ありがとう、話が聞けて良かった」
少し考え込むように悲しそうな顔をしていたが、クロウさんはすぐに切り替えてそう返す。
まあ、兎にも角にも魔動結社デイドリームの協力を得ることになり。
セツナさんの持ち込んだ魔道具の検証と量産の目処が立ち次第、第三騎兵団に公都強襲作戦を提言することになった。
その間クロウさんとセツナさんがデイドリームへ都度通うことになる為、帝都にあるガクラ隊長の家に泊まり込むことになった。
俺はさっさとトーンの町に戻っても良かったのだが、一人で戻ると七日かかる。七日以内にこちらからクロウさんの手が離れるなら集団加速で戻った方が絶対に早いので俺も残ることにした。
町から隊長と副隊長が抜けるのはどうかと思うが、町にはキャミィもいるし山岳攻略部隊は甘くない。まあ、最悪の場合にはクロウさんが町に跳ぶと言っていたので問題ないだろう。
なんて考えているうちに、ガクラ邸へ到着。
聞いてはいたが、なかなかのお屋敷だ。クラック家は元々軍人の家系で実家も太いと聞いていた。
俺のように田舎の生まれで、養子に出てバスグラム家に身元を保証してもらってやっとこさ軍に入れたような叩き上げとは違う、列記としたエリートだ。
一応言っておくとガクラ隊長は第三騎兵団で上から数えた方が早いくらいには偉い。
山岳攻略部隊という第三騎兵団の中でも屈強なもの達を集めた
そして、そんな大隊の副隊長に若くして任命された俺もまた、叩き上げの希望の星だったりする。
それなりの調子に乗れる程度には自信をつけていたが……、そんな自信は瞬きに満たない時間の中で骨と一緒に砕かれている。
閑話休題。
隊長の奥様が出迎えてくださり、流石に部下の俺が客間を使わせてもらうのは気が引けるので別に宿を取ったが飯は食わせてもらえるそうなのでご相伴に預ることにした。
まあ控えめにいって順調だ。
デイドリームでの検証などが終わり、第三騎兵団で作戦を進言して、公都内の軍施設や主要貴族の拠点などの情報収集をして隊の編成などの準備を進めて……、同時進行でクロウさんからいくつか特殊な魔法や戦術を教わる。
俺も前線に出るだろうし、クロウさんから色々と手解きを受けたい――。
なんて考えながら、食事の席でクラック夫妻とクロウさんとセツナさんの結婚についての話を聞いていたところで。
「遅くなりまし……、あ、お客様もいらっしゃったのですね」
そう言いながら、小柄な若い女性が食事の席へと顔を出した。
「おお、帰ったか。こちらはクロウ・クロスさんとセツナ・スリーさん、軍の仕事を手伝って頂いている。そちらはうちの隊の副隊長のジャンポールだ。ご挨拶を」
ガクラ隊長は若い女性へ我々を紹介し、自己紹介を促す。
「どうもごきげんよう。ガクラ・クラックの娘、クリア・クラックで――」
丁寧に柔らかい笑顔で、ご息女は名乗ろうとした。
そう。
名乗ろうとした、つまり名
あー娘か! そういえば前から自慢の娘がいるとは聞いていた。へー、でも隊長には似てないな、もっと隊長に似てむさ苦しい感じかと思っていたけど小柄で小動物のような可愛らしい感じだなぁー。
なんて、頭の中で感想が浮かんだ瞬間。
凄まじい怒気、いや焦りか? 俺の『知覚強化』が、クロウさんから尋常じゃない気配の膨れ上がりを感じ取る。
同時に、クロウさんが動き出そうとしたので俺は偽無詠唱の疑似加速でクロウさんを止めようとする。
俺はギリギリで、クロウさんとクリア嬢の間に割って入った。
奇跡的、いや、一瞬にも満たない一点だけクロウさんの加速が途切れて疑似加速へと切り替えたので間に合った。
だが、一秒を何倍にも膨れ上がらせた時の中での攻防は、圧倒的な技量差で容易く投げ飛ばされて天井に貼り付けられた。
「がっふ……っ!」
加速が終了し、背中から骨が砕けた音が身体中に響き渡りながら口から血が漏れ出す。
痛え……っ、やっぱ俺じゃ話にならないくらいに強え……。なんなんだ? 何の凶行なんだ?
そのままクロウさんはクリア嬢の顔を掴んで、壁に押し付け。
「十六年前……、クローバー侯爵の集めた討伐隊に参加していた『無効化』持ちだな……?」
クロウさんはそのままクリア嬢へと訪ねる。
「な……っ! クロウさん何を――」
「黙ってろおっ‼ 僕はこの『無効化』に話があるんだ!」
一瞬で娘が押さえつけられている状況に理解出来ずにガクラ隊長は声を上げるが、クロウさんは声を荒げて黙らせる。
「……あの日、討伐隊が山脈で僕を追い詰めて、僕が気を失ってから何があった……? 誰が来て、何処に行った…………答えろ‼」
建物が震えるほどの、凄まじい気迫を放ちながらクロウさんはクリア嬢を恫喝する。
非常に不味い、話は見えないが一旦落ち着かせないと……。
だが、重力による自由落下が起こらないほど天井にがっちりと埋め込まれ。
身体中の骨がばきばきに折れて身動ぎ一つ出来ないまま。
理不尽な俯瞰から最悪の事態を
俺は気を失った。