いやあ…………、可能な気ぃするうぅ~……。
この新時代の戦略は、今までの侵攻にかけていた時間が革命的なほどに短縮される。
時間がかかればかかるほど、兵は糧食などを消費するし交戦の機会が増えれば増えるほど兵は消耗するし、何より民も疲弊する。最悪の場合民間人にも犠牲者が出てしまう。
我々、帝国軍が望むのは
傲慢なほどに、シンプルな世界平和の実現を根底に
故に敵国の軍部や政治的な影響力のある者たちは別として、この世界における全ての民間人に関しては未来の帝国民になると考えなくてはならない。
敵国だろうと民間人を必要以上に虐げたりはしない。
無論、過激な反乱などを起こすなら法に則って制圧はするが。
極端な話、帝国による統治になって良かったと思ってもらわなくては意味がない。
帝国は別に国土を広げたい訳じゃない。人々を、人類を、世界そのものを発展させて安寧に導きたいだけだ。
だからこの一瞬で国の中心地を落とせる戦略は、革命的だ。
だが、しかし。
「…………、確かに不可能では無くなりましたが……、問題はまだあります」
ガクラ隊長はクロウさんの話を落ち着いて落とし込んでから、口を開く。
「あまりにも迅速過ぎる。民間人の避難が間に合わない、そのまま市街戦を行えば公都に住まう民を
隊長は帝国世界統一論から見た懸念点を伝える。
確かに。
外から攻めるのであれば民間人を逃がす猶予は与えられる。迅速すぎる故の弊害か。
「だったら転移先を直接、貴族の屋敷や軍施設や騎士団や冒険者ギルドにして最初に落としてから…………まあ後でやり方教えるけど、映像投影とか音声周知の魔法とかで避難勧告をして軍の残党とか他の街からの援軍が来る前に安全な場所に移してやりゃあいい」
さらりとクロウさんは回答する。
そうか別に転移先の安全性が担保できるなら、直接そういう場所を狙えばいい話なのか。
それに映像投影? 音声周知? そんな魔法があるのか……?
「しかしながら、公国には『無効化』持ちが我々が知る限り四枚と勇者パーティがいます。これらを攻略出来なければ――」
「ああもうそんなん通信網の連携で対『無効化』編成のスキル無しでも戦える部隊をぶつければいいし、勇者パーティにはこちら側の『無効化』をぶつければいいだけだし、最悪僕が『無効化』対策用の疑似加速やらの魔法を教えるよ」
ガクラ隊長の懸念に対してクロウさんは被せるように回答する。
「後はこの話の
そう言って魚の燻製を食べ終えてお茶をすすり。
「んで? どうするんだい」
クロウさんはガクラ隊長に、やや真剣な面持ちで問う。
「…………。早急に本部へ上告を行い、話を進めます」
少し何かを考えたが、これ以上手札がないガクラ隊長は
「よし、じゃあさっさと動こうか。僕は『善は急げ』で出来ている」
納得の一言と共に、クロウさんは立ち上がった。
「あ、そうだ。君たちはさっきの話に出たビリーバー……異世界転生者に心当たりというか思い当たる節はないかい? 恐らく帝国の発展に貢献というか影響を与えた人物だと思うんだけど」
部屋を出るところで振り返り、クロウさんは我々に問う。
いやはや……。
そもそも存在自体が懐疑的である魔力が無くて文明がとても発達している異世界という荒唐無稽なものに対して我々が知るわけがない。
しかも我々は帝国軍人であり、不確定な情報や可能性が低いようなことは安易に報告したりはしない。最低限の確信がないと、むやみやたらな提言は出来ない。
のだが。
「「
我々は同時にそう返す。
まあ、これがまた偶然というか帝国民なら先程の話を聞いて誰でもうっすらと過ぎるワードがあった。
それが。
「魔動結社デイドリーム……ねえ」
クロウさんは持ち込んだ魔道具の検証と量産交渉のために訪れた帝国トップの魔道具メーカー本社前でしみじみと社名を読み上げる。
株式会社デイドリームと来て、帝国の発展に携わったと聞いたら帝国民ならまずこの魔動結社デイドリームを思い浮かべるだろう。
魔動ケトルから魔動兵器まで、魔力で動くものなら何でも作ってきた老舗メーカーだ。
確実に近代における帝国の文明水準を飛躍的に向上させたのはこのデイドリームだろう。
三十数年前、当時革命的な魔力変換機構を使った魔力回路を開発しそれが帝国……いや世界的なスタンダードとなった。
帝国民の誰もが一度はデイドリームの製品を使ったことがあるだろう。俺の家でも使っていたし、実家でも使っていた。帝国のシェア率ナンバーワンなスーパー大企業だ。
とはいえ、あくまでも帝国内での話であり公国民のクロウさんからの話の中にデイドリームと出てきた時には内心驚いたが。
そんな驚きはここに至るまでの速さで掻き消された。
案内する為に馬にクロウさんとセツナさんを乗せて山脈越えの仮ルートを通って、リーライ辺境伯領から本来であれば帝都まで我々の馬でも七日はかかる道のりのはずだったが。
集団加速とやらを用いて、一時間足らずで帝都に到着した。
周囲というか世界の理そのものに干渉するような……、スキルとは理解度を深めるとここまで常軌を逸した現象を起こすに至るのか……。
もしこの先、クロウさんの他に悪意を持った個人がこんな力を有したら……世界は崩壊するだろう。
どんな魔物より、軍隊より、脅威で恐怖だ。
閑話休題。
「ごきげんよう。魔動結社デイドリーム代表のリョーコ・タイラー=ジャストランです」
応接室に通された我々にそう名乗って出迎えたのはデイドリームの女社長だった。
二代目の超敏腕美人社長。
先代がほぼ完成させた基盤を崩すこともなく侵攻によって増えていく帝国領と国民にアジャストして色々な地域や暮らしに根付いた様々な開発を行って今もなお事業を伸ばし続けている。
年齢としては三十代半ばから四十代前半、まだまだ若いのにこの規模の組織を仕切るのはなかなかどうして優秀過ぎる。
「お話は承りました。我社は帝国繁栄に対して協力は推しみませんが……その、我々も営利団体でありますので……」
「…………無論、帝国からの補助金に関しては軍からも進言させてもらう」
リョーコ氏は要請に対して上品ながら狡猾に答えると、ガクラ隊長は苦い顔で返す。
「で…………、あんた何でデイドリームを
挨拶が終わったところで、クロウさんは室内の気温と湿度が変わったかと思うほどに肌がピリつくほどの圧力で、リョーコ氏にそう言った。
俺とガクラ隊長に、額から汗が垂れつつ喉がからからに渇くほどの緊張が走る。
我々はクロウさんが怒っているところを見たことがない。
こっえぇ……、何てプレッシャーだよ……。
何に起因した怒りなんだ、とにかく暴れられたら止められないぞ……。
「夢見がちなボンクラ共の集い」
ひりつく緊張感の中、リョーコ氏が口を開く。
「先代の社長、私の父であるリョーヘェ・タイラーより、そう聞き及んでおります」
緊張感に負けず、柔らかい笑顔でそう付け加える。
流石、大企業の超敏腕女社長。度胸が半端じゃあない。
「…………なるほど、あんたの父上がビリーバーってことか」
クロウさんもプレッシャーを収めて柔らかい口調で返す。
良かった、一触即発は回避出来たようだ。
「貴方はご存知なのですね。その通りリョーヘェ・タイラー……
ここからリョーコ氏は、先代について語った。