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01会いたい人に会ったことある人には会えたりする

 俺、ジャンポール・アランドル=バスグラムはライト帝国軍の第三騎兵団は山岳攻略部隊の副隊長である。


 今は、帝国最西端にあるリーライ辺境伯領のさらに西の山脈を超えてセブン公国から見て東の果てにあるトーンという町を占領してそのまま統治の為に駐在している。


 世界最強に鍛えられたり。

 勇者と戦ったり。

 彼女が出来たりと。

 一ヶ月にも満たない間に立て続けに俺の人生は動いて。


「――ってことで、魔法族の皆さんと組んで一気に公都制圧して公国の落とすから。帝国もゴリッゴリに侵攻してほしいんだよね」


 ソファに座って魚の燻製をかじりながら語られる一言により。


 俺の人生は、また動こうとしている。


 ひとの人生をそんな簡単にほいほい変えてくるような奴は、なかなかいるもんじゃあない。

 子供から見た両親だったり、絶世の美女だったり、そうそういやしないが。


 目の前に座るは世界最強の男、クロウ・クロス。


 彼が動けば、そりゃあ世界くらい動くだろう。

 そういう力を持つからこその世界最強だ。


 しかしこないだの別れ際には、無茶な侵攻はすんなって言っていたのに……、気が変わるのも速いのかこの人は……。

 数日前に突然戻ってきたと思ったら、隻眼の女性魔道具技師のセツナ・スリー氏を置いて。


「口説いたら畳むぞ、丁重に扱え。僕はちょっくら魔族領に行ってくる」


 そう言って煙のように消えたと思ったら、今度は魔族を連れて戻ってきてこれだ。


 これがキャミィ曰く、忙しなさの化身か……。

 ちなみにセツナさんはキャミィと旧知の仲ということもあり、キャミィの部屋に泊まってもらっている。


「クロウさん……その……、大変申し訳ないのですが全てを飲み込むことは出来かねます。異世界転生者? であったり、そのエネミーシステムやサポートシステムというものの実在についても現状の我々では判断が出来ません」


 クロウさんのとんでもない話に山岳攻略部隊隊長のガクラ・クラックは返す。


「それに、クロウさんやそちらの魔族の方の技量が卓越しているのは理解していますがそれだけじゃあ侵攻は成せません。出来てもただの虐殺、政治的思惑もないただの殺人じゃあ統治は行えない。宣戦布告状態の帝国軍から、民間人を保護しつつ国の中枢である組織に打撃を与え降伏を勝ちえなくてはならない」


 ガクラ隊長はそのまま要望に対する難点を語る。


「しかし現状、公国侵攻を担当している第三騎兵団で山脈越えを成せるのは我々山岳攻略部隊と飛行魔法を使う対空飛行隊くらいです。山脈越えルート開拓が完了しないと大部隊での侵攻は不可能です。さらにルート開拓が完了しても公国の東の果てから少しずつ前線を上げて村や町や農地、続いて大きな街を占領して、軍の補給路などを潰して戦力を削りながら中心地を孤立させるのがセオリーです」


 さらに侵攻のセオリーを説明する。


「クロウさんの掲げる公都制圧は侵攻の最終段階になります。そこまで行くと我々のような先行部隊には干渉は出来ないでしょう。さらに公国は徹底したスキル主義によって『勇者』をはじめとした優秀な戦闘系スキル持ちを公都に集結させている。故に、早急な公都への進軍は不可能です」


 丁寧にガクラ隊長はクロウさんの話に、断りを入れる。


 まあ、隊長も俺も大人だし監督責任のある軍人なのでこう答えるしかない。


 だが俺たちは知っている。

 今目の前に座っているのは、常識や定石などを覆す世界最強の男だ。


 内心はワクワクしている。

 この世界の理に対して、世界最強がどう世界を動かすのか。


「……あー、まあビリーバー関連のところは一旦与太話としてくれていいんだけど、不可能かどうかについては……これ、使っても不可能かな」


 そう言いながらクロウさんは空間魔法で、何かを机の上に置く。


「? これは――」


「『小型範囲長距離転移結晶』複数人数での長距離転移が可能で。人数は三十メーター四方に入る限り、まあ現実的に武装した兵士一人を一メートルと計算して三十人程度、まあ陣形を取ったまま転移するとなるとまだ少なくなるかもしれないけど。距離は大陸間ならどこでも行ける。消費魔力はスキル補正なしで範囲魔法を撃ったのと同等程度だけど『予備魔力結晶』に予め魔力を備蓄しておけばその場での魔力消費は抑えられる」


 こちらのリアクションを待たずに、クロウさんはつらつらと『小型範囲長距離転移結晶』とやらのスペックを語る。


 単純に高性能が過ぎる。

 この手の魔道具は帝国にも流通しているし、軍もかなり採用しているが小隊以上の人数を同時に転移させる装置はもっと大型で携行は出来ない設置型だ。

 それを十センチ程度に小型化するのは凄まじい。

 確かに有用だし転移の精度も高いのであれば帝国軍で即採用だろうが……、小隊一つを転移出来たとしても侵攻はそこまで加速はしない。


 それに転移魔法は、転移先を知っておく必要がある。

 転移先に何か障害物などがあった際には、身体がめり込んで転移と同時に即死することもある。

 故に転移魔法は一度訪れて、実際に目視で確認をした場所。もっと言うなら転移時に転移先の安全が確保出来ている必要もあるので基本的に転移魔法は決められた転移ポイントに跳ぶというのが原則である。

 あの転移魔法を駆使して戦っていた勇者のお嬢さんも目視で転移先を確認してから転移という原則を崩すことはなかった。


 帝国軍が公都を目視で偵察し、転移ポイントを抑えるにはかなり侵攻を進めていかないとならない。

 確かに凄まじく便利なものだとは思うが、これは大規模な奇襲としては使えない。


「ちなみにこれはかなり構造を可能な限り単純にしてあるしサイズも小さく材料も少なくてむので量産が可能、製作者のセツナでなくてもある程度の魔道具技師ならは製造出来るとのことだ」


 続けてクロウさんは『小範囲長距離転移結晶』の生産性について語る。


 一日で五個か…………五個? いや待て待て待て、それって……え?


「十人で一ヶ月も作れば千五百個、最大で四万五千人の兵士を直接公都のど真ん中に送り込むことが可能になる」


 そのままさらりと、俺の頭にも過ぎったとんでもない単純な計算結果を述べる。


 いや……、そんなの……、戦争の在り方がまるで変わるだろう。

 移動自体の時間や糧食などの消耗、防衛ラインの突破などが破壊的なまでに消滅する。


 あのセツナさんもそんなにとんでもない人物だったのか……、凄腕の魔道具技師じゃないか。

 これからの時代における、戦争の定石になり得るような悪魔の発明だ。

 四万五千人……、もちろん実戦では少なくなるだろうが第三騎兵団で公都に進軍するには十分な人数だ。


「転移先には公都の建物の屋上や上空に設定されている為、転移先を気にする必要がない。まあ鳥とかが居たら事故るけど、ある程度鎧や身体強化の類いの魔法を纏っていれば鳥に潰されることはないだろう」


 さらに懸念があった転移先についての解決案も述べる。


 確かに屋根や上空であれば事故は少ないか……、第三騎兵団は全員馬身強化の魔法を使う為に多少の高さは問題ない。


「これの他にも『携帯通信結晶』を用いた通信網での連携強化や『予備魔力結晶』と回復魔法を併せての戦闘継続率の向上も行える。これらの量産化も可能だ。流石に全兵士に携行させるのは無理だけど、小隊ごとに配布するのは何とかなると思う」


 そう言いながら次々に空間魔法で取り出した魔道具を机に並べて行く。


 おお……、これらの魔道具は帝国ではあまり出回っていない。『通信結晶』自体は普及しているが、小型化は公国の賢者が生み出した技術だ。帝国でも再現しようとしているが一般化はしていない。


 総合的な技術力で帝国が公国に劣っているとは思わないが、スキル至上主義で優秀なスキル持ちを徹底的に育成する公国には局所的な技術が伸びていたりするのが顕著に出ている。


 そういった技術に再現性を持たせるセツナさんもまた、かなり常軌を逸した天才だと言える。


 いーやクロウさんの忠告が怖すぎてセツナさんが町に来てから全然近づかないようにしていたから気づけなかった。多分ガクラ隊長は『観察』である程度は気づいていたっぽいが流石にここまでは見えてなかっただろう。


「通信網で連携を取りながら、順次転移ポイントを共有して安全に次々と隊を送り込んでの波状攻撃。消耗した隊は転移で帰って来て回復を受け、その間に次の隊を送り込む。通信網で常に戦力を共有して全体で戦況を把握は出来る」


 机に置いた魔道具をトントンと指で叩きながら、具体的な使い方を語る。


 今、クロウさんが話をする度に一秒単位で世界が加速している。


「初手から市街戦にできるから、戦略級や戦術級魔法を撃ち合っての殲滅戦が回避出来る。公都内の軍施設を一気に制圧して主要貴族たちを拘束して公都を陥落させてしまえばいい。どうだい? 可能な気がしてこないかい?」


 ついでのように凄まじい利点を語って、これによって回答とする。


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