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01夢を見るなら動機は不純なほどに良い

 俺、グリオン・ガーラは魔法国家ダウンの軍務局陸上戦闘部は第五強襲部隊の兵士である。


 俺は魔法族だ。

 まあ世で言う、いわゆる魔族と呼ばれる人種である。


 つい最近まで俺はセブン公国で拘留されていた。


 理由はまあ、セブン公国の南に位置する街、サウシスの魔法学校にある研究室で造られた『賢者の石』を奪取……いや、調査する為に強襲……いや、訪れたが戦闘になり拘留された。


 隊員であるブリトニー・バールと俺の二人という少人数での作戦だったことと、怪我人が出なかったことと、教員と通りすがりの男に捕らえられたことからマヌケで怠惰な公国軍人がまともな調査をしなかったことにより。


 俺たちはわりとあっさりと送還された。

 無論かなり短い間とはいえ拘留期間はあったし、保釈金も支払った上での話だが。

 事実、俺は『賢者の石』奪取のための強襲部隊だった。


 あのバリィ・バルーンって魔法使いと、謎の超高速野郎のクロウ・クロスによって成果を上げる前に捕らえられてしまったのだ。


 公国は直近で起こった魔物の大氾濫で優秀な冒険者や軍人がかなりの数死んだことで戦力が削られ、我々魔法族とまともにやり合えるのは騎士団や大氾濫を終わらせた勇者パーティのみだという情報を共有されていたのだが。


 あんな一般市民がゴロゴロいるならセブン公国にちょっかいかけるのは難しいんじゃないか……?


 ライト帝国とは一部通商条約が結ばれているので比較的情報を得やすいが、帝国領と砂漠を越えないと公国には行けないので公国の情報は少ない。


 我々が角なしに紛れて情報収集をするのは難しい、変化魔法などを使える者も少ない。

 あの『賢者の石』さえ入手することが出来れば、我々は更なる進化をすることが出来るのだが……。


 俺はそんなことを考えながら王城前の訓練施設で魔法を放っていると。


 


「あれ、君は……そうだグリオン! グリオン・ガーラ君だよね! 良かったぁ~、知ってる人居て。ほら、サウシスで会ったクロウ・クロスだよ」


 目の前に嬉々として語りかける例の超高速野郎クロウ・クロスが現れた。


 理解が追いつかない。

 ここはダウンの王都のしかも王城前、こんな中心部に……え? そもそも角なしがこの国に入ることすら難しいのに。


 嘘だろ……? なんで、いやもう怖いんだが。

 常識外れすぎて思考が纏まらない。

 纏まらないが。


「…………何処にいると思ってるんだ貴様はああああああああああああ‼」


 俺は叫びながら火球を放つ。


「効かないし当たらないよ。何をしても無駄だから話を聞いて欲しいんだけど」


 気づいたら隣に立っていたクロウ・クロスが申し訳なさそうに言う。


 反射的に手のひらを向けるが。


「…………、何が目的なんだ……?」


 当たる気がしないので手を下ろしながら、話を聞くことにして問いかける。


「この国の発展に携わった人に取り次いで欲しい。特に株式会社デイドリーム、GIS、ビリーバー、世界加速装置、サプライズモア株式会社、ジョージ・クロス、これらの意味がわかる人に会わせて欲しいんだ」


 悪びれることもなく、羅列したワードの書かれたメモを渡しながら淡々とクロウ・クロスは言う。


 なんだ……? 何がしたいんだこいつは?


「……その間、おまえをろうに入れることになるぞ」


 メモを見ながらこちら側の意思も伝える。


「ああ、いいよ。でも探している素振りがなかったり面倒くさそうな感じになったら牢をぶち破って暴れ回りながら勝手に探す」


 そう言いながらクロウ・クロスは戦術級魔法を王城付近に複数展開し。


「懸命な判断を願うよ。グリオン君」


 凄まじい圧力放ちながら、不敵な笑みを浮かべて宣った。


 この瞬間から、俺の人生は大きく道を逸れていく。


 とりあえず騒ぎを聞きつけた軍の人間に牢へと送り込まれ、俺は上長などに状況説明を行ったのだが。

 なかなか信用されず、なんなら俺が角なしを国内に引き入れたんじゃないかと疑われる始末だった。


 なんとかあの男の危険性を伝える為に様々な情報を述べているところで。


「グリオン! 来い! あの角なしは何なんだ!」


 別の隊の奴が聴取を打ち切って俺を牢へと連れ出す。


 地下牢の周りには既に臨戦態勢の警務部隊と陸上戦闘部の治安維持小隊が三つ、集結していた。


「グリオンか! あの角なしの詳細情報を――」


 着いて早々にの治安維持小隊の奴に詰め寄られたところで牢から悲鳴と破壊音。


「伝令――ッ! 角なしは現在も牢の中で篭城中! 既に尋問を行おうとした者二名と取りおさえようとした看守が八名、警務部が十五名、そしてたった今治安維持小隊の一つが全滅!」


 なんて、とんでもない伝令が飛び交う。


 いやいや静かに待ってるんじゃないのか。

 確かに牢からは出てないが……。


「加えて! 角なしからの要求! 『グリオン君に伝えてあるからさっさと終わらせてくれ、あと待ってる間にちょっかい出すやつは問答無用で畳むし、そっちが牢を吹き飛ばすんなら僕は勝手に暴れて目的を達成するから僕のことはほっといた方がいいよ』とのこと!」


 さらにクロウ・クロスからの伝言が共有された途端。


 一斉に視線が俺へと集まる。

 俺の証言に信憑性が増したのは良いが、何故かそのまま俺はクロウ・クロス係になってしまった。


 最悪だ……。

 俺はたまたま任務の際に出くわして顔と名前を覚えられていただけなのに……、ただでさえ任務の失敗で軍内部での立場も悪いというのに……。


 完全に出世街道から降ろされた上にこの役回り……、軍やめようかな。


 なんて考えつつもクロウ・クロスの要求を報告書に纏めて提出し、近年の主要な政治家などを洗い出して聴取の為のアポイントメントをとることにした。


 とりあえず洗い出してリストを制作する作業をしていたところ。

 まさかの超大物から、呼び出されることになった。


「君がグリオン・ガーラ軍曹か、おもてを上げたまえ」


 膝まづいて顔を伏せる俺に、陛下は顔見せるように命じる。


 俺を呼び出したのは。


 上王、タヌー・マッケンジィ陛下。


 つまりこの国の前国王……角なしの呼称で言うなら、である。


 大物が過ぎる。

 俺が生まれる前から数年前まで国王だったお方だ。

 王となる前から様々な制度の効率化や農業的にも文明的にも多大なる貢献をしてきた。

 王になってからもこれ以上なく様々な問題を解決に導きこの国を発展させてきた。


 現在の魔法国家ダウンはこのお方が形にしたと言っても過言ではない。

 大物すぎて謁見リストにも名前を書かなかった。

 まさか俺のような一兵卒が陛下に謁見することがあるとは思いもしなかった。


「軍曹、君が担当している密入国者の件だが……詳細を聞きたい」


 陛下が俺に例の件の説明を求める。


「はっ! 報告いたします! 密入国者はクロウ・クロス――」


 俺はここまでの経緯や今の所分かっているクロウ・クロスの情報などをしっかりと報告する。


「要求はこの国の発展に携わった人物との対談、加えてその中でも株式会社デイドリーム、GIS、ビリーバー、世界加速装置、サプライズモア株式会社、ジョージ・クロスというワードに覚えのある人物を――」


「軍曹を残して他の者は退室せよ。二人で話がしたい」


 報告をさえぎるように陛下が人払いを命じる。


 え、なになになに、ええ? 親衛隊とか護衛まで外すのか? どゆこと?


「その者……、クロウ・クロスと言ったか。その者と内密に話をしたい。機会をもうけるので連れてきてくれないか」


 陛下は不敵な笑みを浮かべて、俺にそう命じた。


 俺はその足でクロウ・クロスを捕らえてい……捕らえられているのか? まあとにかく地下牢へと向かった。


「いやだってワンチャンあると思うじゃんかよ! 久しぶりに会った訳だしさあ……」


「あー、久しぶりに会った女が綺麗になってたら他に男が出来てるって思った方がいいよ。僕はそう教わった」


「マジかよ! え、俺に会うためにめかし込んできたってパターンはないのか? 俺もこないだ同窓会でよぉ――」


 牢の中では、警務部隊の隊長と治安維持小隊の面々がクロウ・クロスが出したと思われる酒と魚の燻製で酒盛りが行われていた。


 しかも結構出来上がってやがる……。

 というか『魔法阻害結晶』が組み込まれた手錠外してるじゃないか……、揃いも揃って何をやってるんだ?


「おー! グリオン君! 君もどうだい? セブン公国の東の酒と魚の燻製だよ」


 クロウ・クロスが俺を見つけてご機嫌に声をかけてくる。


 どうにもクロウ・クロスの常軌を逸した強さに、どうしようもなくなった制圧チームは包囲を続けたが膠着状態におちいっていた。


 そこでクロウ・クロスから。


「なあ、せっかくなら飲まないかい? 見合っているだけだと暇だろう」


 と、空間魔法で酒と魚の燻製を出して提案をしてきて。


 交渉がてら代表者が接近したところ。

 酒が美味かったのと、思った以上に話が弾み。

 この有様らしい。


 くっそ……こいつら……、楽しそうだなあ畜生。

 俺は上王陛下に呼び出しくらって緊張で首に力が入り過ぎてちょっとすじ痛めたってのに……。 


「…………クロウ・クロス、お前の要求通りの人物を見つけた。恐らくおまえの探している人物だ」


 やや酒盛りに参加したい気持ちを抑えつつ、俺はクロウ・クロスに本題を伝える。


「おお、早いな! 優秀だね。君はもっと出世していい」


 上機嫌にクロウ・クロスはそう答えて立ち上がる。


 いや誰のせいで出世の道が閉ざされたと思って……っ、割とマジに殴りかかりそうになったが当たるわけもないので。


 酩酊状態の同僚たちを置いて、クロウ・クロスを連れて牢を出た。


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